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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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06-2.弱いだけの少女では生き抜けない

 それだけでは聖女の転生者とは言い切れない。


 夢の中で見る聖女はガーナとは別人のような性格をしているのは、シャーロットたちもわかっているはずである。


 それなのにもかかわらず、彼女たちはガーナが聖女の転生者であるかのような言い回しをするのには裏があるのではないだろうか。


 ……冷静になれば、私だってわかるのよ。


 ガーナは自分が聖女の生まれ変わりではないと思っている。


 ……だって、私とは正反対の性格じゃない。


 ガーナは帝国にすべてを捧げられない。


 大切な人たちと見ず知らずの人を同じようには扱えない。戦場に立てば、戦う術もまともにないのにもかかわらず、後方支援はできず、先陣を切って戦おうとするだろう。


 大切な人たちだけが戦っている姿を後ろで見ていることはできない。


 勝算がなくとも、逃げ出さない。


 勝算がなくとも、奇跡を強引に引き起こせると信じている。


 ……だから、背負えるわけがないじゃない。


 前世を受け入れようとして、事実を忘れていた。


 現状を確認することを怠り、現実離れした夢の為になにもかも捧げることが正しいと勝手に決めつけた。


 ……私は私よ。聖女様じゃない。きっと、生まれ変わりでもない。


 その結果が、拒絶として現れた。


 なにもかもが否定をされる。


 貴族たちが楽しむこの場所にはガーナだけが取り残され、拒絶され、突き放された。


 ……それを忘れるなんてバカのすることよ。


 いつもならば庇ってくれるはずの親友はガーナを非難した。


 それはガーナの目を覚ましたのだろう。



「あ、はは、ばかみたい」


 声が漏れる。涙が止まらない。


 失って気づいた。拒絶される形で気付いた。


 本当に大切に思っていた人を裏切る形で知った。


 ガーナの心が、沈んでいくのに合わせるように、気温は下がっていく。冷たい風が吹く。その度に身体を震わせた。


「どうかしましたの?」


 小さな声が響く。


 慌てて涙を拭って、顔を上げる。


 ……知らない人。


 目の前に居るのは、帝国では珍しい黒色の髪をした見知らぬ女性だった。東洋に浮かぶ孤島の友好国、桜華国の民族衣装に身を包んだ女性は、ガーナにハンカチを差し出す。


「泣き止んで下さい。お嬢さん」


 柔らかく微笑むその顔は、故郷の母を思い出した。


 ハンカチを受け取り、涙を拭う。留まる事を忘れたかのように、溢れて来る涙を抑えようとするガーナの隣に腰を下ろした女性は、頭を撫ぜた。


 優しくリズムを刻むように撫ぜる。


 そうされると心が癒されていく気がした。


「辛いことがあったのですね、お嬢さん。アタシで良ければ、話を聞きますわ」


 女性の言葉に、ガーナは首を左右に振った。


 見知らぬ人に愚痴を零す内容ではない。それに、それを口にするのは認めるようで嫌だった。


「有難う、お姉さん。でも、私、大丈夫だよぉ……っ」


「その割には、声が震えておりますよ」


「ふふ、でも、大丈夫よぉ。お姉さんが頭を撫ぜてくれたらねぇ。少し、楽になったの!」


 愛想笑いを浮かべて、お礼を言う。


 離れた手を名残惜しそうに見つめるガーナに対して、女性は微笑んでいた。


 ……あれ?


 その笑みは、故郷の母とは違って見えた。


 先ほどまで浮かべていた笑みとは、同じようで何かが違う気がした。妙な引っ掛かりを覚え、少しだけ距離を取る。


「ねえ、お姉さん。お姉さんって、桜華の人?」


 共に参加したリカと同じ髪色をした女性に問いかける。すると、女性は首を左右に振って否定した。それすらも違和感を覚える。


 ……まあ、桜華人だけが黒髪ってわけじゃないけど……。


 ライドローズ帝国があるゲルト大陸でも、見かけないわけではない。


 薄い青や赤、金色などの色素の薄い色を持つことが多い人種ではあるが、中には、黒や濃い色素を持つ人も存在する。


「ふうん。ねえ、お姉さん。お姉さんも招待されたの?」


「はい。お仕事の関係で招待されましたのよ。お嬢さんは、どなたに招待されましたの?」


「大親友に誘われたの」


 ガーナは会話をしつつ、違和感の正体を探る。


 ……魔力がそんなに強くない、黒髪の帝国民って聞いたことがないのよねぇ。


 色素の濃さは魔力の強さに匹敵する。そう噂される時代もあった。


 今は、少なくなりつつあるが、帝国民にも純粋の黒髪の人もいる。


「そうですの。その方は、どなたですの?」


「そこまで教える関係じゃないわよぉ。友達の情報を簡単に話せる女だとは、思って欲しくないわねぇ」


 冗談を口にする。


 その声が震えていることに女性は気づいているのだろう。しかし、それを指摘することはせず、ガーナを慰めるかのように隣に座っていた。


「お友達のことが大切ですのね」


「大切よ。誰よりも大好きな親友なの」


 ガーナは本音を口にした。


 なにがあっても、大切な親友だということには変わらない。


「そうなのですか。……それならば、どうしてこのようなところに一人でおりますの? お友達と一緒に過ごされたら楽しいと思いますよ」


「それができたらそうしてるよ」


「そうですわね。お嬢さん、それならば、少しの間、アタシの話し相手になってくださらないかしら?」


 ガーナは女性の問いかけに黙った。


 話を聞いている心の余裕などなかった。だが、一人で悩んでいるよりも他の話題を取り入れた方が気持ちも軽くなるだろうと判断し、頷いた。


 ……桜華人を警戒しろって兄さんが言っていたような気がする。


 帝国と同盟関係にある桜華国を警戒していたのだろうか。


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