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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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05-7.抗うことすらも許されないのだろうか

 幼い子どもの夢を聞いているかのような顔を向けられているのに、レインは気づいているだろう。


「それなら教えてやったらどうだァ? 俺が手を貸してやろうかァ?」


「お断りします」


「はは、つれねえなァ」


 イクシードはレインの髪を撫ぜようとしたが、払い除けられた。


 同情はいらないというかのような強い目をしていた。それは七百年前のやり取りを連想させたのか、イクシードは嬉しそうに目を細めていた。


「彼には彼の生き方がありますから」


 レインの意思は固い。


 十五歳の子どもには思えないほどにしっかりとした意見を持っている。


 ……バカな子だ。


 シャーロットには死に急いでいるようにも見えた。


 ……お前にもお前の生き方があったのに。


 その手を拒むべきだった。


 かつて、愛おしい息子がシャーロットに託した魔術を壊してしまえていたのならば、レインはなにも知らずに生きていけただろう。


 シャーロットたちの企みに振り回されることもなく、突然、背を向けたシャーロットを恨んで生きる道もあったはずだ。


 ……終わったことに縋りつくのは、私に似てしまったのだな。


 シャーロットにも心当たりがあった。


 運命に抗おうとした過去がある。抵抗の末、なにもかも失い、命を投げ出すことさえも許されなかった過去はシャーロットの心の中に残り続けている。


 だからこそ、自分のような道は歩ませないと誓った。


「それを俺のような人間が邪魔をするわけにも、母様や師匠のような存在であったとしても、彼の生き方を壊してはいけません」


 レインは視線を人々に向ける。


 この場に招かれた人々は彼らの会話に気づいていない。


 それはなにもなかったかのように見せる魔術が発動されているからこその現象だった。その中には、ガーナやライラが会場を立ち去っていることにも気づかず、談笑をしているリンたちの姿があった。


「あの人は覚えてはいません」


 レインはリンに視線を向ける。


 八つ当たりのような言葉を口にすることは二度とないだろう。


 立場は変わってしまった。


 それを悟られるわけにはいかなかった。


「あの人は、俺やアントワーヌとは違い、人間としての本来の姿を望み、それを愛した人です」


 レインはその生き方を肯定する。


 それが正しい生き方なのだと知っているかのようだった。


「それが彼の幸せなのだというのならば、俺たちはそれを尊重します」


 前世の記憶を持つのが、幸せとは限らない。


 それでも、忘れてしまうことに恐怖を抱き、悪足掻いた。子どもたちの我儘には、不気味なほどに甘すぎる母の手を借り、それを叶えた。


 かつて父であった彼は、それを望まなかった。


 しかし、二人の子どもの願いを否定しなかった。


「父様は、すべてを忘れて生きていく方が幸せですよ」


 レインは静かに目を伏せた。


 視線を向けられていても気づかなかったリンは、なにも知らないままに生きていくだろう。自分だけが除け者にされていると怒るかもしれない。それでも、それがリンを守る為ならば、レインは悪者にでもなる覚悟だった。


「そうだな」


 シャーロットは肯定した。


「レインのしたいようにすればいい」


 シャーロットはレインを突き放すことはしない。


 そうすれば、我が子を守れるかもしれないと考えるのは止めた。距離を置けば我が子の安全が保障されるわけではないと嫌になるほどに思い知ったからだ。


「私はお前たちの味方だ。今度こそ、母様が守ってみせよう」


 シャーロットの言葉を聞き、レインは自身の手を握りしめた。


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