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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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05-6.抗うことすらも許されないのだろうか

 数百年程前の出来事を蒸し返すのは、現代を生きるライラにとって屈辱でしかないだろう。そのような話をされても困るのはわかっていた。


 ……あぁ、ライラ。お前が繋いだ血は今を生きているよ。


 それでも、懐かしさを抱いてしまう。


 見た目以外は似ていないライラと、かつての友の姿を重ね合わせてしまう。


「なにも心配することはない」


 シャーロットはライラの頬から手を離した。


「子どもの戯言だろう。十代の頃は反発をしたくなるものだ」


 その言葉に対し、ライラは静かに目を反らした。


 反発心ではないだろう。ただ、見た目はさほど変わらぬ年代の少女に諭されたことが恥ずかしかったのかもしれない。


「抗う心を大切にせよ。異国の王女よ」


 シャーロットは笑った。


 それは他人を鼓舞する力になるのだとわかっているからこその笑みだった。


「貴様を信じた友を追うといいだろう」


 シャーロットはライラの心を読めない。


 しかし、数百年前、シャーロットたちに刃を付きつけた友と同じような考えを持っているのならば、友人を助け出そうと足搔くだろう。


 シャーロットはその可能性に賭けた。


 かつて、叶わなかった夢を追いかける姿を見てみたかった。その結末の行方はわからない。それが自己満足にすぎないのも知っている。


「……貴女は信じてもいないのに、そのようにおっしゃるのですか」


「私の友ではないだろう?」


「彼女は貴女のことも友人だとおっしゃっていましたわ」


 ライラは断言した。


 その言葉を聞いても、シャーロットの心は揺れ動かない。


「そうか。それは妄想の一種だろう」


 シャーロットは突き放すような物言いをする。


 普通とはかけ離れたところに立つシャーロットには、ガーナの考えが理解できなかった。聖女の転生者だと告げても拒絶をする姿も、拒絶をしながらもシャーロットの手助けをしようと足搔く姿を見ても、理解することができない。


「悲しいことをおっしゃるのですね」


「なぜ、そう思う」


「友人を信じることも出来ないのは悲しいでしょう? 私が言うべき言葉ではないのでしょうが、それは、とても、寂しいと思いますわ」


 ライラは同情をするかのような目線を向けた。


 それはシャーロットだけではなく、イクシードにも向けられた視線だったのだろう。


 ……昔も言われたような気がするな。


 シャーロットたちは他人を信用することは少ない。


 それは血が飛び交う裏切りだらけの戦場を渡り歩き、帝国を揺るがす可能性があるのならば、罪を犯す前の民の命すらも奪ってきた経験によるものだろう。


 ……友だと言いながらも、私を殺した女の言葉と同じだ。


 シャーロットたちは生き抜く為には手段を択ばない。


 帝国を守る為ならば大勢の民の命を犠牲にするだろう。


 それにより、滅びの運命を遠ざけることができるのならば、シャーロットたちは正義を語るだろう。


「貴様はあの娘によく似ている」


 七百年前の出来事をはっきりと覚えているわけではない。


 ライラと重ね合わせている友人の姿をはっきりと思い出せない。それでも、同じような言葉を交わしたような記憶だけが取り残されていた。


「迷わず進め、異国の王女。帝国の支配から抜け出すことを選んだ友の血は、貴様を守るだろう」


 シャーロットは異国の民を応援しない。


 他国の民は、いずれ、帝国に牙を向ける。


「その血を信じよ。そして、誇り高く生きよ」


 だからこそ、シャーロットはそれらしい言葉を口にした。


 シャーロットの言葉に対し、ライラは背を向けた。


 それから周囲の異変にも目を向けず、歩き出す。


「気を付けよ。異国の民には始祖の加護はない」


 見送るだけのシャーロットの言葉はライラには届いていないだろう。


 シャーロットは焚きつけはしても、最後まで手を貸さない。すべては彼女が企む【物語の台本(シナリオ)】の改悪に必要なことだった。


「……おい、シャーロット」


 イクシードは重い口を開いた。


「なんだ」


「よかったのかァ? 厄介事に巻き込むつもりはなかったんじゃねえのかよ?」


「巻き込まれようとする若者を止める必要はないだろう」


 シャーロットは平然と答えた。


 これから待ち受ける試練をシャーロットは知っている。


「テメェは煽っていただけだろォ」


 イクシードは呆れたようにため息を零した。


 既に彼の目には殺意はない。この場を立ち去っていくライラを引き留めようと考えていないのだろう。


「それよりも良いのかァ? テメェらにとっては大事な奴じゃねェーのかよォ? このままだと巻き込まれるぞ」


 イクシードはレインを煽るような言葉を口にした。


「ご心配なく。最善を尽くしますから」


「へェ? 最善ねェ」


「なんですか」


 レインはそれに動じない。


 しかし、不快そうに眉をひそめた。


「いやァ、なかなか笑わせてくれるじゃねえかァ。ははっ、いつの間にか冗談を言えるようになってんじゃねえかよォ。あの男に似た真面目のクソガキが」


 イクシードの挑発とも取れる発言に対し、レインは舌打ちをした。


 今までは黙って見ていたが、さすがにはこれは黙ることが出来ない。そう観念したような表情を見せて、イクシードとシャーロットを交互に見る。


 ……優しい子よ、誰に似たのか。


 視線だけで話を続けるように促した。


「今度は貴方たちの自由にはさせません。最善を尽くし、守り抜いてみせます」


 それは理想論だった。夢を語っているだけだった。


 現実味のない話を堂々と語るレインの言葉を聞き、イクシードは大笑いをしている。シャーロットはそれを叱ることはなく、レインに対して温かい視線を向ける。


 それは子どもの成長を見守っている母親の顔だ。


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