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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している
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05-5.抗うことすらも許されないのだろうか

「偉そうに――」


 イクシードは我慢ならなかった。


 二度と対等に話をしようと思えないようにしてやろうと手に力が籠る。


「ギルティア」


 シャーロットの声が響いた。


「その手を離してやれ」


 シャーロットは淡々と告げた。


 それはライラを庇う為のものではない。


「……チッ」


 その声に反応をしたイクシードは視線をライラから外し、シャーロットに向ける。シャーロットの制止がなければ、イクシードは感情に身を任せ、ライラの手首を折っていたことだろう。


「私のお気に入りに手を出すなと言っているだろう」


「……弱い奴ばかりを集めるのは悪い癖だァ。この際、直しちまえよ」


「悪い癖? それならば、お前のそれも同じだろう」


 シャーロットの言葉を聞き、イクシードは首を傾げた。


「こんなやつを庇うだけが無駄だろォ?」


 イクシードは本気で言っていた。


「シャーロットの隣に並ぶ資格すらねえ奴らだろ」


 イクシードは当然のように主張する。


 握っているだけで骨を折ることのできる力を持っていることを自覚をしていないのかもしれない。


「あの頃から何も変わっていない。私のお気に入りを壊そうとするのはお前の悪い癖だ。ギルティア、その娘から手を離してやれ」


 シャーロットの言葉を聞き、イクシードはライラの手首を離した。


 それからなんとも言えない表情をライラに向けた。その目には殺意はない。


「アクアライン王国の第二王女、私の同僚が迷惑をかけたことを詫びよう」


「おい! シャーロット!!」


「私の監督不足だ。巻き込んでしまったことを申し訳なく思っている」


 シャーロットの言葉に対し、イクシードは慌てていた。それからライラの傍を離れ、なにかをしようとしているシャーロットの腕を掴んだ。


「邪魔をするな」


「お前が余計なことをする必要なんかねえんだよ!」


「厄介事を引き起こしたのはギルティアだろう。その後始末をしてやるだけだ」


 シャーロットは当然のように謝罪をする。


 その言葉には心が籠っていない。貴族として迷惑をかけたと口にすれば、相手はその謝罪を受け入れなければならないと身についているからだろう。


「それをする必要がねえって言ってんだ!!」


 イクシードは納得できなかった。


 まるでイクシードの世話をするのは自分であるというかのように、シャーロットは自分自身の非を詫びる言葉を口にする。


 それはイクシードの望むものではない。


 ……以前にも、同じような光景を見たような気がします。


 呆気なく離された手首を触る。


 そこには確かに掴まれていたことを主張するような指の痕が残っている。そして、真後ろへと移動をしたイクシードを追うように体の向きを変えた。


 ……貴方は、いつもそうでしたね。


 先ほどとは違う形相をしているのだろう。


 露骨なまでに怒りを露にするイクシードに対し、シャーロットは理解ができないと言いたげな表情を浮かべていた。


 シャーロットの隣に並んでいるレインは、冷めた目線をイクシードに向けていたが、呆気に取られているライラの視線に気づいたのだろう。困ったような表情をライラに向け、シャーロットたちに気付かれないように僅かに頭を下げた。


 ……あの時も彼が困ったような顔をしていて――。


 それはライラの記憶ではなかった。


 ……これは、初代女王陛下の記憶なのでしょうか。


 イクシードとの出会いにより、存在感を露にしていた他人の気配はない。


 ライラの中に溶け込んでしまったのだろう。


「お前は誇り高くあるべきだ! たかが十数年しか生きてねえ小娘なんかに礼を尽くす必要も詫びる必要もねェ! 俺たちのことを理解しているような醜い真似をする奴なんか必要ねえだろう!? なァ! そうだろ!?」


 イクシードはシャーロットの腕を掴んだ。


 それは受け入れられるべき主張だとイクシードは声をあげた。


 それはライラの手首を掴んだ時よりも力強いものだったのだが、シャーロットは何もなかったかのように簡単に振りほどいた。


 それから我儘を口にする子どもを見るような視線を向け、イクシードを宥めるように彼の肩を数回叩いた。


 それだけで思惑が伝わるのだろう。


 イクシードは納得していないと言いたげな表情をしていたものの、シャーロットの前から退いた。



* * *



 ……ギルティアの言い分は理解をしている。


 始祖は変わることは許されない。


 ライドローズ帝国の為に生き続ける運命を変えられない。


 ……私が家族に執着をしているのと同じことだ。


 人間として生を受けたかつての家族の笑顔を忘れられないだろう。


 大切な人たちの幸せの為ならば、シャーロットは一国を滅ぼすことも躊躇わない。その性格は千年も昔から変わることができないままだった。


 それが家族の望まないと理解をしている。


 一時の感情に身を任せ、滅びの道を歩んでいるのも理解をしている。


 それでも、その歩みを止められなかった。


「ライラ王女」


 シャーロットの手がライラの頬を撫でる。


「貴様の中には女王の気配はない。安心せよ。彼女は貴様の行く末を案じていたからこそ留まっていただけだ」


「……そうですか。貴女にとっては不都合だったのではありませんか?」


「なぜ、そう思う?」


「私は貴女に対して無作法な態度をとりましたので」


 ライラの言葉に対し、シャーロットは笑う。


 ……真っすぐとした目をする娘だ。


 澄み切った金色の眼には、罪に塗れた自身の姿が映る。


 多くの人々はそれを恐れることだろう。


 ライラの純粋な心はやましい過去を持つ者にとっては毒でしかない。


 ……あの娘と同じ目をする。


 その血は歴史と共に薄れていることはわかっていた。


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