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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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05-2.抗うことすらも許されないのだろうか

「そうだ。それがどうした?」


 シャーロットは肯定する。


 なぜ、レインが気にかけているのか。シャーロットには理解ができなかった。


「元に戻してください。悪戯でするようなことではないでしょう」


 レインの言葉を聞き、シャーロットは首を傾げた。


 ……なぜ?


 レインの性格を考えれば、他人の心を操るのはしてはいけないことだと考えてもおかしくはない。


 ……まさか、記憶が不完全なのか?


 自らの意思で前世の記憶を取り戻したはずである。


 しかし、それは四百年前に仕組まれた魔法によるものだ。不具合が起きてもおかしくはない。


「なぜ? これは、お前にとって仇の魂が入っている器だろう?」


 シャーロットは当然のように問いかけた。


「壊してしまってもいい。心配ならば、アクアライン王国には多額の弁償金を送ればいいだろう」


「いいえ。彼女は俺の同級生です。同盟国の第二王女でもあります。今すぐに元の状態に戻すべきだと思います。シャーロットも悪戯をしようなんて考えてもいないのでしょう?」


 レインの言葉に対し、イクシードが舌打ちをする。


 それに反応をすることもなかった。


「人の命はお金では買えません。貴方たちにはそれもわからないのですか?」


 呆れたような声だった。


 それに対してイクシードは面白い言葉を聞いたかのような表情を浮かべ、シャーロットは、再び首を傾げて考え込む。


 彼らにとって、レインの言葉は初めて聞いた言語のように聞こえたのかもしれない。


「……わからないのですか?」


 レインは二回目の問いかけをする。


 それに対してイクシードは反応を示さなかったが、シャーロットは困ったような表情を浮かべていた。


 ……命の損失は金銭で補えばいい。


 以前までは人前に姿を見せる時は、帝国の危機が迫った時だった。


 それは革命の兆しであったり、他国との戦争であったり、様々な要素が絡み合ったものではあったが、どれもが帝国の危機であることには間違いはなかった。


 引き起こされるのは命のやり取りだった。


 シャーロットは始祖の一人として戦場を指揮することが多かった。


 自らも率先して命を刈り取っていった。不安要素であると判断された人間がいえれば、問題を引き起こす前に命を奪ってしまうことも日常の一部だった。


 ……私たちはそうやって生きてきた。


 始祖の判断を間違いだと指摘する者はいなかった。


 ……問われてみれば、おかしいことだ。


 千年前から続けてきた帝国を維持する為だけの殺戮は正当化されてきた。


「人間にとっては大切な価値観の一つだ。母様は嬉しく思うぞ。お前がまともな感性を持っていることを誇りに思う」


 シャーロットはレインの頭を撫ぜる。


 人間として当たり前の価値観なのかもしれない。それをレインが主張したことが嬉しくして仕方がないというかのようにシャーロットは笑う。


「だが、母様たちは、その価値観を理解してあげることはできない」


「どうしてですか?」


「他人の命に価値を見出せないからだ」


 シャーロットはレインの問いかけに答える。


 それは幼い子どもが母親に疑問を投げかけるようなやり取りだった。


「そんなことはないでしょう。だって、貴女は俺のこともリンのことも救ってくれたのに」


 レインはシャーロットの答えを否定する。


「お前たちは他人ではないだろう?」


「そういう問題ではありません。それなら、師匠が利用された時はその命を見捨てることができますか?」


 レインの問いかけにシャーロットは不思議そうな顔をした。


 ……考えたこともないな。


 それから視線をイクシードに向ける。


 ……ギルティアの命が脅かされた時の行動か。


 千年近くの年月を生きているとはいえ、そのような状況に遭遇したことはない。いつだって、イクシードは生き残り、彼を残して命を落とすのはシャーロットだった。


「それが最善ならば見捨てるだろう」


 その問いかけの必要性を感じることもできない。


 始祖として生き続けることが約束されている。死に別れたとしても、なにも問題が起こらなければ数十年の月日を得て再会を果たすことになるだろう。


「そりゃあそうだァ。ちなみに俺も見捨てるなァ」


「実際、ギルティアは何度も私を見捨てただろう。従者でありながら主人の最期も看取らない薄情な男だ」


「あァ? 間に合わずに死んじまったからだろォ。子どもが死んじまったからって後先考えず、戦場に突っ込んでいくバカが悪いなァ」


「はは。あの頃は感情で物を考えるところが残っていたのだろう」


 二人の会話を聞き、レインの表情は曇る。


 シャーロットの子どもはレインの前世である。


 彼らは革命戦争と共に命を散らした。その後、始祖として戦場を駆け抜けていたシャーロットも命を落としていたことを知らなかったのだろうか。


 歴史の授業では始祖の死は教えない。


 命を落としても、不死鳥のように蘇る。


 始祖は帝国の歴史を支える基盤であり、それが滅びることはありえない。


「レイン?」


 シャーロットはレインの名を呼んだ。


 しかし、反応は薄いものだった。知りたくもなかったことを聞かされたかのような顔をしている。今にも泣きそうな表情だった。


「ジョン。お前が気にすることではない」


 それが前世の感情によるものだと素早く判断をした。


 前世の記憶を取り戻し、その人格や才能すらも混じり合ったとはいえ、思考はかけ離れている。


 七百年前と現代では考え方は多少なりとも変化をしている。


 その間を保ち続けることでしかレインは自我を保てない。


「可愛い息子の頼みだ。呪いを解いてやろう」


 シャーロットは、視線をライラに向ける。


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