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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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05-1.抗うことすらも許されないのだろうか

* * *



 人込みの中に姿を消すように歩いて行ったガーナの姿をライラは見つめ続けていた。それに気づいたイクシードは、彼女の頭を撫ぜる。


 乱暴な仕草ではあったが、それが慰めているのだと気付いたのだろう。ライラは眼を細めて静かに微笑んだ。


 ……愚かなことをしてくれるものだ。


 それを離れたところで見つめていたのは、ガーナの背中を押した張本人であるシャーロットだった。


 シャーロットの隣には、挨拶回りから戻ってきたレインが食事をしている。


 シャーロットと比べると小食なレインに対して、シャーロットはこれでもかというほどに食べさせようとしていたが、拒否されてしまった。


 ……計画の範囲に収めたのは褒めてやらねば。


 始祖になる以前からの付き合いである彼を思い、笑みを浮かべた。


 そして、レインの肩を叩き、視線を彼らの方に向けさせた。


「……お世辞にも良い趣味とは言えませんよ」


 レインは軽蔑の籠った視線をイクシードに向けていた。


「なにを言うのだ。愉快ではないか、互いに思いあう友情だからこそ、崩壊していくのを見るのが楽しいではないか。まったく、笑ってしまうほどに純粋な友情を築いていたものだな」


「正直に暇つぶしだと言ったらどうですか」


「……父に似てつまらぬ男になりおったわ」


「それは初めて言われましたね。普段から母似と笑われたものですが」


 軽口を叩きながらも向かう先は、視界に映る二人の元だった。


 並んで歩けば、周りの人は逃げるように道を作った。


 仲違いをしていたと思われていた双子の姿をした親子が、会話をする姿に誰もが恐れを抱く。


 伝承や記録でしか知らない初代当主と二代目を連想させた。


 それは、二人の本質か。それとも雰囲気か。


 ……的を射ているとは知らずに、恐れを成すか。


 どちらにしても、答えに近づけば、それを否定するしかないだろう。


 人間は得体のしれないものに恐怖心を抱くものである。


「その強情さは、父似よ。私が間違えるわけがあるまい」


「強欲な母似ではなくてなによりです」


「可愛くない返答だな。まったく、どこで子育てを間違えたのか」


「最初から間違っていましたよ」


 レインの言葉に対して、シャーロットは頷いてしまう。


 正しい子育てをしていたとはシャーロットも思ってはいなかった。


「気づいた時に言うべきだったのではないか?」


「言ってしまえば、貴女は俺たちを甘やかすのをやめたでしょ?」


 前世の記憶を取り戻した影響があるのだろうか。


 レインの性格はなにも変わらなかったものの、堂々とシャーロットに言い返すようになっていた。


「あいわらず、貴様の周りは騒動で溢れているな」


 レインに悟られないように、話題を反らす。


 話題を振られた二人の迷惑など考えない。考える必要ないのだろう。シャーロットにとっては、楽しければ何だっていいのだ。


 それにより友情に亀裂が走っても気にしない。


「相変わらず苦悩が絶えないな。ギルティア」


「はっ。この程度、苦悩でもねえけどなァ」


「そうか? それにしては手の込んだことをしたようだが」


 イクシードは信じられないと言いたげな表情を浮かべた。


 ライラの心を操ることなどイクシードにとっては簡単なことだ。


「演出家とでも言ってくれ。たまにはいいだろ?」


「愉快な演劇を提供してくれたことは感謝をしよう。巻き込まれた彼女たちには同情をするが」


「同情? お前が? よく言えたなァ、おい」


 彼に寄り添っているライラのことを忘れてしまったかのような大げさな仕草を浮かべるイクシードに対して、レインは冷めた目を向けていた。


「……クソガキ。なに睨んでやがる」


 その視線に気づいたようだ。


 イクシードは忌々しいと言いたげな顔をしてレインに声をかける。


「貴方を側近に選んだ母の思惑だけは、理解できないと思っていただけです」


 それに対し、レインは何もなかったかのように返答をする。


「それが師匠に対する言葉かァ?」


「俺が望んだわけではありませんので。それに、貴方に教えられなくても、母様と父様から教育を受けていましたので、敬意を払う必要性を感じませんね」


「あぁ、そうかよ。可愛くねえなァ、クソガキ」


「それはよかったです。貴方に可愛いと言われた日には、吐き気で夜も眠れそうにありませんから」


 イクシードの言葉に対して、レインは平然と言い返す。


 そのやり取りを聞いていたシャーロットは懐かしそうに眼を細めた。


「このクソガキ……!」


 露骨なまでに嫌悪感を露にするイクシードに対し、シャーロットは動じなかった。


 特別扱いをしているレインを貶されていることを気にしていないのか。


 それとも、なにかと文句を言うイクシードの態度に慣れてしまったからなのか。


「それよりもその娘をどうするつもりだ? 同盟国の第二王女を操り人形として遊ぶようでは始祖として少々教養が足りていないように感じるが。中途半端な魔術では心までは壊してはいないのだろう?」


「まあな。そうだァ、シャーロット。お前の好きなようにしていいぜェ」


「私には人形遊びの趣味はないよ」


「たまにはいいじゃねえかァ。着せ替え人形にする必要はねえんだ。手足を千切ってもいい、操り人形にして戦争を引き起こしてもいい。お前の好きなようにしていいぜェ?」


「それをしたいのならば好きにすればいい。私が関わることではないだろう」


 シャーロットとイクシードの会話の内容を理解できないのだろうか。


 レインは口を開いたまま、目を見開いていた。


 レインの目線の先にはライラがいる。


「どうした、レイン。なにか気になるのか?」


「……先ほどから思っていたのですが、ライラ第二王女殿下の様子がおかしいのは彼の魔術によるものですか?」


 人形のような表情をしているライラは彼らの会話を聞いているとは思えなかった。


 涙を流し続ける不気味な人形と成りつつあるライラを見つめる。


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