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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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04-4.ガーナとライラはすれ違う

 ……兄さんはなにを企んでいるの? ライラのことをどうしたいわけ?


 それならば、命を狙われているのはライラだ。


 ガーナが引かないのならば、見せしめとしてライラの命を奪うつもりなのだろう。


「……わかったわ」


 その理由はわからない。


 ガーナには理解をすることができない。


「兄さんの言う通りにするわよ」


 ガーナは降参すると言わんばかりに両腕をあげた。


 そのわざとらしい仕草もイクシードは見破っているのだろう。


「だから、ライラを解放して。ライラは関係ないでしょ」


「解放? この女は自分の意思で俺といるんだ」


 イクシードの言葉に対して、ガーナはわざとらしくため息を零した。


 ……少しだけ、ライラの表情が変わった。


 その些細な変化にイクシードは気づいていないのだろう。


「本気で言っているの? 兄さん」


「当然だろうがァ」


 悲しそうな表情を浮かべているライラの目から、一筋の涙が零れ落ちる。


 それに気づかないのにもかかわらず、イクシードは上辺だけの言葉を続ける。


「それは質の悪い妄想だねぇ。一回、頭の検査を受けた方がいいよ? ライラが兄さんを好きになるわけないじゃないの。そんなこともわからないの?」


 ガーナは降参だと訴えるかのように両腕を上げたまま、イクシードを否定した。常に兄の行動を肯定し続けたガーナの言葉を聞いても、イクシードの心は動かない。


 それを自覚する。


 自覚しても、悲しむ暇はガーナには与えられない。


 ……うん、大丈夫よ。ライラ。


 心の中で親友に応える。


 ……私はライラを信じているわ。


 流されている涙こそがライラの本音なのだろう。


 涙を流しているのは、この状況を望んでいないからなのだろう。


「私はライラを信じているわ」


 ガーナはそれに応じるように笑ってみせた。


 誰よりも信じている親友に向けて笑う。


 安心させるかのように、いつも通りを演じてみせる。


「兄さんがなにをしようとしても無駄よ。だって、なにをされても私はライラのことが大好きなんだもの」


 宣言する。


 その言葉がライラの心を動かすと信じていた。


「くだらねえな。此奴はお前のことなんて好きじゃねえぜ?」


「それがどうしたのよ? 私がライラのことを大好きなのも、ライラのことを信じているのも、ライラがなにを思っているかなんて関係がないじゃないの」


「はっ、一方的な綺麗事だな」


「そうねえ。よく言われるわぁ」


 形だけでは降参しているかのように両腕をあげているものの、ガーナは引こうとしない。それどころか、真っすぐにイクシードを見つめていた。


「それなら、言ってやれよ。ライラ」


 イクシードはライラに囁いた。


 それは命令だったのだろう。


 ライラの表情は悲しそうなものから、いつも浮かべている穏やかな表情に変わる。操り人形のようだった。


 ……最低。


 イクシードに対して怒りを抱く。


 盲目的に慕っていたとしても、友人が関わってくるのならば別である。


 ……ライラを人形のように扱うなんて。


 この場で暴言を吐いて、イクシードの腕からライラを奪い去ってしまいたい。


 それは不可能だと知っている。始祖であるイクシードに敵うはずがない。


「ガーナちゃんを責めないでくださいまし」


「アァ? 何でだァ、アンタはあれだけ傷つけられたじゃねェーかよォ」


 イクシードはありえないというかのように、ライラの言葉を否定した。


 それはイクシードの望む言葉ではなかったのだろう。


 ……ライラも抵抗してるのね。


 ライラの心まで操られていないのだと、ガーナは確信する。


「わたくしたちは、唯一無二の親友ですもの。きっと、ガーナちゃんにも、何か考えがございましたのよ」


「甘ったるい考えだなァ」


 目の前で繰り広げられる会話に、ガーナは思わず一歩下がる。


 ……それは、嘘? 本音?


 穏やかに笑って見せるライラの姿に、周りは拍手をする。


 それは、心優しき王女を評価するものだった。


 ……ううん。私が信じなくてどうするのよ。


 自分自身を叱咤する。


 ……兄さんからライラを取り戻すのよ。


 本来ならば、傍にいることは当然のことながら、話すことすら許される立場ではない人間を許す姿は、穏やかな人間性によるものだと判断されるのだろう。


 操られているかのように、拍手をする周囲に視線を向けている余裕はなかった。


 まるで、それすら計算されていたようだった。


 イクシードの思い通りになっている。


 そう感じてしまうのは、何故だろうか。


「ガーナちゃん、私たちは、親友でしょう?」


 一人称の変化に気付く。


 イクシードはその変化にも気づいていないのだろう。


「信じてくださいませ。私は、嘘をつきたくはありませんわ」


 その言葉はライラの本音だ。


 ……自力で解こうとしているのね。


 ライラも抗っているのだろう。


 それならば、ガーナはその言葉を信じるだけだ。


 ……そうよ、私が信じなくてどうするのよ。


 信用関係がなくなれば、それは友人とは言えない。


 誰かを貶めるだけの関係ならば、最初から一緒に居ない方が良い。誰かの不幸を望み、笑い合う時間があれば、良いところを見つけて笑い合った方が有意義だ。


 ……誰よりもライラのことを知っているのは、親友の私よ。私は誰よりもライラのことを信じているわ、ライラだって私のことを信じてくれる。


 だからこそ、ガーナはライラを信じるのだ。


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