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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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04-2.ガーナとライラはすれ違う

「へえ、そう。兄さんの気まぐれだと思う?」


「いや、気まぐれではないのだろうな」


「……ふうん。ねえ、ねえ、シャーロットは、なんで、こんなことになっているんだと思う?」


 シャーロットはガーナの問いかけに対して、ケーキを食べながら考えていた。


 ライラと親しい関係を築いていないシャーロットにとっては、彼女がどのような変化を迎えていたとしても興味を抱いていないのだろう。


 しかし、それなりに関心を向けているガーナの問いかけを無視するつもりもないのか。珍しく、二人の様子を観察して答えを導きだそうとしていた。


 ……本当にろくでもないことだったりして。


 ガーナはシャーロットが考えている姿に対して、既視感を抱く。


 普段ならば考える間もなく、答えを導き出しているシャーロットが考えている時はろくでもないものだと知っていた。


「逆鱗に触れたのだろう」


 シャーロットの答えは簡単なものだった。


 それは長い付き合いから導き出されたものなのだろう。


「逆鱗?」


 ガーナは聞き返した。


 ……そういうのって、触れた相手を傍にいさせるものなの?


 むしろ、逆鱗に触れた者と距離をとるのが普通だろう。


 社会的な制裁を加えようとしても、おかしくはない。


「そうだ。ギルティアの悪癖だ。触れてはいけないところに触れたのだろう」


「……そうなると、どうなるの?」


「命を落とすまでの間、彼奴の操り人形になるか。飽きて捨てられるか。どちらにしてもまともな人生は歩めなくなるだろうな」


 シャーロットの言葉に声がでなかった。


 ガーナはライラたちになにがあったのか、知らない。


 しかし、シャーロットが導き出した答えは想定外だった。


「なによ、それ。兄さんだってやっていけないことがあるわ!」


 ガーナは非難の声をあげた。


 その声が本人たちに届かないとわかってはいた。


 悪癖だと断言したシャーロットの言葉通りならば、イクシードは同じようなことを何度も繰り返してきたのだろう。


「それがどうした?」


「どうした? じゃないわよ! ライラの一大事じゃないの!」


 それが運命の恋人同士の再会によるものだと言われてしまえば諦めることもできただろうが、ライラの人生を台無しにするつもりなのだと知ってしまえば、諦めることはできない。


「そうか。それならば、助け出してやればいい」


「方法があるのね!? よかった! てっきり、どうしようもないのかと思ったじゃない!」


 シャーロットはその言葉を聞いて笑った。


 まるでイクシードの暴走も計画の一つであったかのようだった。


「心を呼び戻せばいい」


 あっという間に、ケーキを食べ終わったシャーロットは近くにいた執事に新しいものを用意させる。


 華奢な身体からは想像ができないほどの速さで、甘いものばかりを食べていくシャーロットを気にしている暇もない。


「亡霊を追い返してしまえ。聖女ならば、できるだろう」


「待って、亡霊って? それに心を呼び戻すってどういうこと? 今のライラには心がないの?」


「そのくらいのことは自力で導き出せ」


「いやいや、無理よ! 時間がないの! あのままだとライラが壊れちゃう!」


 ガーナの言葉に対して、シャーロットは笑みを浮かべる。


 それは不気味なものだった。


「それはどうして知った?」


「見たらわかるでしょ!?」


 危機感がないのだろうか。それとも、ライラがどのような事態に陥っていたとしても興味がないのか。


 シャーロットが笑みを浮かべるとガーナは心臓が軋むような気がした。


「それならば、直感のままに進め。私の言葉など不要だろう」


 背中を押すように、シャーロットはそれだけを言い、立ち去った。


 ……直感ね。それしかないよね。


 不思議なことは今までも起きてきた。その度にガーナは救われてきた。


 それならば、今はガーナが行動をするべき時なのだろう。


 ……兄さん。


 ガーナが知らないことは山のようにあるのだろう。


 兄妹として育ってきたとはいえ、始祖であるイクシードは遠い存在だった。


 ……私には今の兄さんが間違っているように見えるんだよ。


 敬愛する兄を全肯定するだけの日々に終わりを告げる。


 自分自身を信じ、自分の足で歩いていく。ガーナにはそれしかできない。


 ……私にできることをやらなくちゃ!


 大股で歩き出す。


 堂々とした足取りで二人の元に近づく。


「兄さん! ライラ!」


 呼びかければ、二人は同時にガーナを見た。


 面倒そうに顔を歪めるイクシードに比べて、ライラは笑っていた。楽しげに微笑み、ガーナに手を振るう。


 ……私の思い込みならそれでいいの。


 社交の場でもあるからこそ、話をしていただけだったのだろう。


 周りが思うようなことなんて二人には無かったのだ。だからこそ、周りの目に気付かなかっただけなのだ。


 ――そうであればいいと心の底から思う。



「ガーナ、テメェは本当に空気が読めねェーなァ」


「え?」


「わかんねェーのかァ? 此処まで堂々と話してりゃァ、バカで愚図でどうしようもねェお前でも気付くと思ったんだがァ」


「なっ、何を言ってるのよぉ? 兄さん」


 イクシードの言葉に、思わずライラを見る。


 微笑んでいるだけのライラは、関与せずと言いたげな目を向ける。それは、今まで向けられたことのない冷たい視線だった。


「や、やだ。ライラ、何を怒ってるの? 私が寝坊したのを怒ってるならぁ、本当にごめんね? 私も、まさか寝ちゃうとは思わなくて……」


 声が震えてしまう。


 どんなことをしても笑っていたライラは、微笑むだけでなにも言わない。


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