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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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04-1.ガーナとライラはすれ違う

* * *



 ……どうして。


 一足先に会場にいる筈であった親友の姿を探し、人込みを避けるように歩いていたガーナが見たのは、イクシードと談笑しているライラの姿だった。


 ガーナが知っている限りでは二人には接点はない。


 しかし、熱に浮かされているかのようにイクシードに寄り添っているライラの姿は幸せそうにも見えた。


 ……どうして、ライラに手を出したの。


 遠目で見た二人の異様な光景に気付いているのはガーナだけだろう。


 ライドローズ帝国が誇る始祖の一人と、異国の第二王女が寄り添う姿を誰も気に留めていない。異常な光景に危機感を抱いているのはガーナだけだった。


 ……ライラに何をしたのよ、兄さん。


 問い詰めるべきだろうか。


 それとも様子を見守るべきだろうか。


 ……正気じゃないわ。


 ガーナは二人に気付かれないように距離を縮める。


 傍にいたリンもライラの異変に気付いていないのだろう。この状況がおかしいと感じているのはガーナだけだ。


 ガーナだけが世界の外側に放り出されたような妙な感覚に陥る。


「なにを呆けているのだ」


「うわぁっ!?」


「化け物を見たような眼をするのではない。騒々しい」


「だっ、だって! アンタがいきなり私の後ろに来るからぁ!」


 心臓が飛びでてしまうのではないかと心配になってしまうくらいに飛び上がった。


 自身の胸を抑えるガーナに対して、シャーロットは煩わしいものを見るかのような視線を向けていた。彼女もライラの異常な姿に気付いているのだろう。


「まったく、もう、私の可愛らしい心臓が止まったらどうするつもりなのよ」


 今はシャーロットに構っている暇はない。


 元々、シャーロットがレインを危機に晒すのではないかと考え、参加を決めた当主就任の記念パーティーであったのだが、その心配は無用だった。


「そしたら、蘇生魔法でも使ってやろう」


「冗談じゃないわよ。バカじゃないの。蘇生魔法なんて空想魔法の一つよ? 実際には誰もできない魔法なの。知らなかったの?」


「そうか、それは知らなかった。現代の魔術師は才能のない者しかいないのだな」


 いつの間にか和解をしたようで、シャーロットとレインの間には距離はなくなっていた。


 問題が解決されていたことに安心したのは束の間だった。


 今度は別の問題が発生している。そのことに気付いたガーナはシャーロットに構っている余裕などない。


「はぁ? 意味わからないことを言わないでよ。それより、向こうに行ってて」


「おや。珍しい。どうしてだい?」


「私は、今、忙しいの! ライラの危機なんだから!」


 視線をライラに向ける。


 イクシードと会話をするライラの口元に、ケーキを差し出すイクシードの姿に目を見開いた。優しそうな表情を浮かべながら話をしているイクシードの姿も、誰かの為に尽くす姿も見たことがなかった。


 ……最悪。


 それはライラだからこそ向けられているものなのか。


 それとも、ろくでもない企みによるものなのか。


 ……よりにもよって、ライラに手を出すなんて!


 ガーナには区別がつかなかった。


 ただ、イクシードの行動はライラにとっては良いことではない。


「……嘘よね、ライラ」


 イクシードは他人を喜ばせるような行為はしない。他人の命も意思も興味がない人だということは、ガーナもよく知っていた。


 ……だって、ライラは強いのに。


 王女として相応しい教育を受けている。


 ライラは意志を貫く力が強かった。他人に利用をされることがないように特殊な訓練を受ける機会があったのだろう。


 それは始祖の前では無力だった。


 別人のような振る舞いを強制されているとしか思えない。


 ガーナはそれを見つけ、拳を握りしめる。


 ……なんてことをしてくれるのよ、兄さんのバカ。


 イクシードは敬愛する兄だ。


 誰よりも彼のことを信じている。


 それでも、親友であるライラに手を出したことは許せなかった。


 ……ライラになにをしてくれたのよ。


 裏切られた。そう錯覚すらしてしまう。


「珍しいこともあるものだ」


「……珍しい?」


「あの男のことよ。貴様も知っているであろう? 彼奴は、軽薄なところはあるが本気にはならん。そんな彼奴が執着を見せるとは珍しい」


 そもそも、兄が誰と居ようがガーナには口を挟む権利は無いのだ。


 それなのに、直ぐに口を挟み、喚くガーナを笑いながら受け入れてきたイクシードは、ただ、周りに居た女性に本気で無かっただけなのだ。


 本気じゃなかったからこそ、執着心を持たなかった。


 本気になる必要がなかったからこそ、強制力を発揮しなかった。


「そういえば、兄さんとは付き合いが長いんだっけぇ?」


「それなりの付き合いであるな」


 隣に並び、手元にあるケーキを口に含む。


 珍しいとは口にしているが、特に驚いた様子もない。


 それどころか、納得したような顔をしている。まるでこうなることを知っていたかのようだった。


「兄さんはどうしてライラと一緒に居るのか、聞いていない?」


「聞いていないが」


 ……これも【物語の台本(シナリオ)】の影響の一つなの?


 シャーロットと出会ってから、振り回される関係といえば、【物語の台本】に関わることか、始祖そのものに関係しているのか、そういうものしかなかった。


 人形を相手にしているようには見えない。


 しかし、ライラの目には光はなく、操られているようにも見えてしまう。


 まるで心を封じられてしまっているかのようだった。


 ……どちらにしたって、ライラは関係がないじゃないの。


 ライラはアクアライン王国の人間だ。第二王女という身分もある。


 それを自己都合で振り回していいものではない。


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