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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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02-5.「初恋は叶わない」と誰かが言った

「え? まじで来てるのかよ?」


「来てるらしいわよ! なあに、リンったら兄さんにサインを強請るつもり?」


「……いや、そりゃあ、チャンスがあれば」


 イクシードは公の場に出ることを嫌う。


 それを知っているからだろうか。


 リンは嬉しそうに笑っていた。


「ふふふ! いいわね! 素直で素敵よ! 私も協力をしちゃうわ」


「おぉ、そりゃあ心強いな」


 ……リンみたいに素直だと好感が持てるのにね?


 ガーナは黙って見られているのは、好きではない。


 視線を集めるのは得意であるが、それは、何かをした時の視線だ。


「兄さんは人間が大嫌いだけど、可愛い妹の頼みなら聞いてくれると思うわ!」


「まじかよ。その言葉を信じてるからな」


「ふふ、任せなさい! よかったわね! ギルティア・ヤヌットのサインなんて手に入る品物じゃないわよ! 私が兄さんの妹だということに泣いて感謝をしてもいいわよ」


 すれ違う度に見られていては、気が滅入るというものだ。


「はは、手に入ったらお礼をするわ」


「楽しみにしてるわぁ。でも、本当に始祖信仰者よねえ? サインなんて集めて楽しいの?」


「いや、信者というか、ただの収集癖なんだけど。昔からの趣味なんだよ」


「へえ、それ、楽しい?」


「まじで楽しい。ヴァーケルもやってみろよ、はまると思うぜ」


 それを戸惑うことなく口にした事により、視線は一気に減った。


「兄さんのサインは私も欲しいし、やってみようかなぁ! 偉大な兄さんのサインは何枚あってもいいものね!」


 それでも向けられているのは、恐らく、ガーナの口にした偉大なお兄様に興味を持った者たちだろう。


「おう。なにか欲しいものを考えとけよ」


 リンの言葉に対し、ガーナは首を傾げた。


 珍しく機嫌がいいから提案された言葉だろうか。


「へ?」


「だから、お礼。協力してくれるんだろ? 貴族はそういうのには嘘はつかねえんだよ」


 わざとらしく、リンは笑った。


 普段はしない綺麗な愛想笑いに、思わず吹き出しそうになるのを堪えてガーナは頷いた。


「え、ええ、うん。か、考えておくわよー?」


「動揺し過ぎだ、ヴァーケル」


「……やだぁ、名前で呼んでよ。私ばっかり名前で呼んでるじゃないの」


 ガーナは、下を向いたまま言う。


 不意に思いついた事であったのだが、突然すぎたからであろうか。


 リンは、困ったように笑い、それから顔を反らした。


「ここまで来たんだから、良いじゃないの。友だちでしょぉ……?」


 耳まで赤く染まっており、繋いでいない左手で顔を隠す。


 ……早く、答えてよ。バカ。


 胸が高鳴る。拒絶される筈がないと言う自信と不安が、ガーナを襲う。


 ……急すぎた? でも、好きって気付いたら止まれないじゃないの。


 気持ちを止める術は無い。


 本能に従うまま、突き進んでいくだけだ。


 既にリンに好意を寄せていると教えてくれたライラには、後から話す予定だ。


 全てを打ち明けた上で、正々堂々とアピールをする。


 ……好きなのに、引くなんてありえないもん。


 気持ちを伝えないままで終わってしまう事を想像して、寒気がする。


「……ガーナ」


 名前を呼ばれた途端、顔を上げた。


 真っ赤に染まったガーナの顔をリンに見られる事は無かったが、今にも倒れそうな表情をして更に手を強く握る。


 ……本当に好きなんだ、私。


 今まで、どうして気付けなかったのかわからない。


 ……うわ。え、どうしよう。


 初恋だ。


 初めての感覚に心が乱される。


「これからも、名前で呼んでよね。私も、ずっと、名前で呼ぶから」


 ガーナは悟られないように言葉を口にする。


 ……ずっと、なんて、無理だけど。


 卒業後は顔を合わせることさえも許されないだろう。


 魔力欠乏症候群を患っているとはいえ、リンはジューリア公爵家の次男だ。


 いずれ、身分に相応しい家柄の女性と結婚することになる。


 ……無理だって、わかってる。


 初恋は実らない。


 身分の差を縮めることはできず、想いを告げることさえも許されないだろう。



「……気持ち悪いことを言ってるんじゃねぇーし」


 リンは頬を赤らめながら、素っ気なく対応する。


 ガーナの気持ちに気づいていないのか。


 それとも、友人として振る舞うことを選んだのだろうか。


「ぷ、ぷ、ぷっ、顔を真っ赤にしても説得力無いよーん」


「なっ――!? って、ガーナも真っ赤じゃん! 俺のこと、言えねーじゃん!」


「リンも気持ち悪い顔ね! 立派な衣装が台無しよ。まぁ、私はどんな顔をしていても美しいけど?」


「ナルシストか!」


「痛ぁっ! 今日も突っ込みが冴えてるねぇ、リン!」


 騒がしく廊下を歩く二人。


 その眼には、互いしか映っていなかった。

 


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