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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している
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02-4.「初恋は叶わない」と誰かが言った

「あえてのツンデレを発動するとはね。よっぽど、照れちゃってるのー?」


「うるせぇ! ツンデレじゃねぇ!」


「ぷ、ぷ、ぷっ」


「うるせぇ! その笑い方止めろ!」


 恥ずかしそうに顔を反らすリンの手を、握りしめる。


 ……ごめんね、ライラ。


 心の中で謝る相手は、この場にリンを寄越したであろう親友だった。


 ……私は、別に、リンなんて友達としか思っていないから。


 そうでなければいけないのにも関わらず、ガーナはリンから視線を外せなかった。赤らめている姿を見て、胸が高鳴る。


 ……ありえない。ありえないんだから。


 大好きだと公言している兄を見ても、起きなかった現象の答えを知っている。


 それは家族愛や友情とは違う現象だった。


 ……あぁ、でも、なんで、優しいんだろう。


 心のどこかでは貴族ばかりの学園では、それを体験することはないだろうと諦めていたことである。


「仕方ないからぁ、リンで我慢してあげるわ」


「俺も仕方ないから、ヴァーケルの相手をしてやるよ」


 向き合って笑い合う。


 ……こんなこと知りたくなかった。自覚なんてしたくなかった。


 仕方ないと口にしながらも、リンは嬉しそうだった。


 それが友人だからであると心の底から信じられるほどに、ガーナは鈍感ではない。


 リンはガーナに好意を抱いているのだろう。


 なにかとガーナの会話に口を挟むのも、気にかけてくれるのも友情とは違う好意を秘めていたからなのだろう。


 一度、気づいてしまえば、辻褄があってしまう。


 それはガーナの都合の良い妄想なのか、勘違いなのか、それとも事実なのか。


 そんなことはどうでもいいと思えてしまう。


 気付いてしまう。


 上昇する体温につられるように、ガーナも頬を赤らめた。


 ……私、好きかもしれない。


 気付いてはいけないと思いつつも、それを喜んでいる自分がいた。


 ……初恋ってやつ?


 確信のない可能性。


 だけども、ライラよりも叶う可能性があるだろう。


 そう思ってしまう自分が嫌になるが、一度、気付いてしまえばもう後には引けない。


 ……大丈夫。私は割り切れるから。


 丁寧に誘導するリンに寄り添うようにして歩く。


 少しだけこの関係に甘えてしまいたかった。


「ねえ、リン」


 ……多分、好きよ。


 この気持ちは、夢を見たことによる不安から生じた感情だろうか。


 不安を遠ざけるように芽生えた感情だろうか。


 現実逃避のような感情だろうか。


 そうだとしても、ガーナは笑ってみせるだろう。


 ……きっと、それを言うことはないけど。


 衝動のままに、言葉にしそうになる。


 それを隠すように笑みを浮かべる。


「なんだよ」


「うふふ、あのねぇー。馬車の中で見えてた塔、忍び込んでみたいなぁ」


「は? 無理に決まってるじゃん」


 身体を押し付けるようにしても、リンは困ったように笑うだけだった。


「えぇー、だって、怪しいじゃないの! いいじゃないの! こっそり忍び込んでみようよ!」


 拒絶したり説教したりしない。


 そんないつものことにすら、嬉しさを感じて、ガーナは笑う。


 なにげない話題だって二人ならば楽しいものだった。


「あれ、気になるのよねぇ」


「止めろ。絶対に近寄るんじゃねーぞ」


 馬車に乗っている時に目にした、隠されるようにして存在していた塔を思い出す。


「そう言われると気になるよねぇ」


「死にてーなら行けばいいじゃん?」


 一目見ただけで、重要文化財である塔の一角であるとわかった。


 塔の中でも、限られた者しか入る事が許されない場所だ。


「死にたくはないけど。なぁーに、そんなにヤバいところなの? まぁ、確かに曰く付き! って、感じだけど。そこがまた魅力的じゃないの! 素敵なお話が眠ってそうな予感がするわ!」


 それが目の前にあるのだ。


 当然、ガーナは侵入するつもりだった。


「バカ言ってんじゃねえよ。本当に呪われても知らねえからな」


「ええ! 呪われるの!? ぜひとも行ってみたいわ!」


「バカじゃねえの?」


 廊下でも、引っ付いて歩けば、周りからの視線を集めた。


 今ではその視線の中を堂々と歩ける。


 学園に入学をする前のガーナならば、恐ろしいと悲鳴を上げて逃げ出していただろう。


「うふふっ、やっぱ、リンは最高ねぇ」


「は? いっ、いきなり何だよ!!」


 ……劣等生でも血筋なら文句はないって?


 視線の多くは、女性だった。


 男性からも視線を集めているが、それらは、すべてガーナに向けられている。


 ……男たちの目的は私? いやね。私はそんなにお手軽な女じゃないのよ。


 ちょうどいい遊び相手として見ているのだろう。


 ガーナはそんな視線には一切答えない。


「だって、欲望にまみれた醜い視線で、この私をみないもの! まぁ、そんな視線で見たら、私の偉大なお兄様に殺されちゃうけどね。うふふ。しかも、今日は珍しく来てるみたいだし?」


 ……わかっていないわ。


 名門貴族の生まれだからこそ、一緒にいるわけではない。


 ……リンの魅力を何一つ理解してない!!


 それ以上に、リンの人柄に惹かれたから一緒にいるのだ。


 リンだからこそ、バカなことを言い合って笑っているのだ。


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