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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している
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02-1.「初恋は叶わない」と誰かが言った

* * *



「うわあああああああああああああああああああああ――っ!!」



 自身の叫び声で目が覚める。


 辺りを見渡せば、迷惑そうな顔や驚いたような顔をしている友人の姿がある。


 いつまでも、部屋から出てこないガーナのことを心配して様子を見に来たのだろう。


 ここは、深くて暗い記憶の中ではない。


 海の中に放り出されたかのような息苦しさはない。


 ……あれ、夢だったの。


 それに気づいたガーナは、思わず頬を赤らめる。


「ねっ、寝ぼけちゃった! てへっ!」


 前触れのない行動は、いつものことだと流されることが多いが、今回ばかりは恥ずかしい。


「寝ぼけたじゃねぇーよ!! このアホヴァーケル!」


「痛いじゃない!! ちょっと、寝起きに殴るのは紳士として最低よ! 最低! 常識外れの劣等生!! もっと私を労りなさいよ!」


「お前の方が騒ぐからじゃんか!!」


 起こしに来たのだろうリンは、もう一度、ガーナの頭を叩く。


 ……なによ。リンのくせに。


 一切、乱れていない正装に身を包むリンの姿を無言で睨む。


 ……変な夢だったなぁ。


 着慣れていない深い青色のドレスに触れる。


 これはライラがガーナの為に選んだものだった。


 淡い色をしているガーナの髪と目に合わせたのだろう。


 彼女を引き立てるような色合いは気に入ったものの、なぜか、違和感があった。


 ……それに、とても、悲しい夢だった。


 夢の中のシャーロットは幸せそうだった。


 シャーロットの残した血は現代にも繋がっている。


 彼女は子どもたちを思い続けながらも、一族を見守り続けてきたのだろう。



「……なんだよ」


 リンは訴えると騒がないガーナが不気味に思えたのだろう。


「別にぃ? リンをバカにする気分じゃなくなっちゃったのよね」


「あっそ」


「興味なさそうね。まあ、いいけど」


「どうでもいいだろ」


 リンは素っ気なく返事をする。


 いつもと比べ、対応が素っ気ないのは貴族たちが集まる場所に来ているという緊張感によるものなのか。


 それとも、社交界で異端として扱われることに対する諦めによるものだろうか。


「私、今、夢を見ていたのよ」


 ガーナはリンの変化に気づかなかった。


 ただ、夢の内容を忘れる前に確認したいことがあった。


「どうも納得できないというか。なんというの? 変な違和感があるのよ」


 先ほどまで見ていた夢を思い出す。


 夢の中ではシャーロットは優しい目をしていた。


 それは、レインやリンに向けられている視線と似たようなものだった。


 少なくとも、ガーナは夢で見たような優しい視線を向けられたことはない。


「アンタ、シャーロットと幼馴染だって言ってたわよね?」


「それがどうかしたのかよ」


「あいつって、昔から、ああいう性格をしていたの?」


「は? ……覚えてねえよ」


 リンは嫌そうな顔をした。


 ……仲が悪いってわけじゃないわよね。


 再会を誰よりも喜んでいたのはリンだった。


 少なくとも、ガーナの目にはリンはシャーロットに対し、好意的な感情を抱いているように見えた。


 ……それなら、昔のことを忘れたいとか?


 過去に縋りつき、未来に絶望をしているわけではないだろう。


「嘘はダメよ。リンがシャーロットのことを覚えているのは、知っているんだからね!」


 だからこそ、ガーナは空気を読まなかった。


 触れられたくない話題だと察していながらも、避けることはしない。


「あー……。別に聞いても面白い話じゃねえよ。思い付きで聞いただけなら、そのまま、忘れてくれ。あまり思い出したくもねえし」


 ガーナはリンに手を伸ばした。


 すると、リンはその手を掴み、立ち上がらせた。


 ……貴族みたい。


 何も考えずに行ったのだろう。


 叩き込まれた貴族の性というべき仕草だ。


 ……そういえば、本物の貴族だったわね。


 戸惑うこともなく行えるリンに対して、心の中で褒める。


「思い付きなんかじゃないわよ?」


 知っておくべきだと思ったのだ。


「とっても、大事なことなの。だから、教えなさいよ」


 夢の中で見たシャーロットに対しての違和感を解決させる為には、幼少期を知っているリンの記憶が手掛かりになる。


「どうして、シャーロットは軍人になってしまったの? どうして、レイン君やリンを置いていったの? どうしてフリークス公爵家にこだわり続けるの? 私、どうしても、知らなくちゃいけないの」


 ガーナの言葉に対して、リンの表情は暗くなった。


 ……当時のことを思い出したら、辛い思いをするのかもしれない。


 真正面からシャーロットに抗議をしたレインとは異なり、リンは遠回しにしか接触をしようとしていない。


 まるで、十年前には、なにもなかったかのように振る舞うことを望んでいるかのようにも見えた。


 ……でも、私は知らなくちゃいけない。


 それは現実逃避なのかもしれない。


 いつだって、親しくしていた頃に戻れると信じているからこその行動かもしれない。


 それが叶うはずがないことだと、わかっているだろう。


「……詳しくは知らねえよ」


 リンは重い口を開いた。


 ガーナの言葉に思うことがあったのか。


 それとも、誤魔化そうとして意味がないと悟ったのだろうか。


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