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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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01-7.それは我が子を愛する母の姿だった

「誰も助けに来ないとは、可哀想な女だな」


「誰も来ないだろ。来れば、また戦争だ」


 両側に居る兵士の声が聞こえる。


 その言葉を聞き、マリーは言い返そうと口を開くが、直ぐに閉じた。


 ……知っているわ。


 言葉が出てこないのだ。


 兵士の言葉が事実であった。


 ……私に価値はないもの。


 言い返すことは出来ない。


 ……アクアラインに負けたばかりの帝国には、私は不要だもの。


 誰も助けには来ない。


 それが、敗者の運命だった。


「お飾り聖女を燃やせ」


 身体を持ち上げられる。


「偽物の聖女を殺せ」


 魔法により発生した風は、マリーの身体を傷つける。


「二度と生まれて来るな」


 傷つけながら、十字架を模された処刑台に身体を押し付ける。


「二度と神を名乗るな」


 それから、直ぐに縄でくくり付けられた。


 逃げられないように強く、強く縛り付ける。


 神に選ばれた乙女、聖女を名乗り、始祖の地位に就いたのがマリーだ。


 それは、敵国からすれば、ただの勘違いしている女性である。


 それを崇めている帝国民の心を折るのには、都合が良い存在でしかなかった。


「偽りの聖女には死を与えよ」


 マリーの一度目の死は見せしめだった。


「……いや、よ」


 逃げられない。


 誰も助けには来ない。


「死にたくない」


 それを理解しつつも、初めてマリーは声を漏らした。


 目隠しを乱暴に剥がされる。


 それにより、世界は再び色が付いた。


 しかし、それは、黒で染まっていた世界の方が安心できたものであった。


 見知った仲間の姿はない。家族の姿もない。知人の姿もない。


 誰もいない。誰も知らない場所で一人、処刑台の上に居た。


 孤独な場は、マリーに囁く。風に乗り、囁きかける。


 これは、罪を背負わないのにも関わらず、罪人たちと共に過ごした罰だと、罪人たちを慕ってしまった罰なのだと、マリーを責めたてる。


「最後に、言い残す言葉は?」


 問いかけられた言葉に、マリーは涙を零した。


 無慈悲にも問われる意味を知っている。


 マリーの返事を待たずに、十字架に火が付けられた。


 勢いよく燃えていく中、マリーは眼を閉じる。


「神は、私を見捨ててしまったのかしら」


 薄暗い景色の中には、なにも映らない。


 愛した彼の姿も、死した友も、兄も、まだに生きているだろう友の姿も、なにもかも映らない。


 最後の時だと言うのにもかかわらず、誰もがマリーを支えようとしていないかのように感じた。



「……いいえ。私は、忘れないわ」


 幻すらも、マリーを見放した。


 そう錯覚してしまう気持ちを押し殺すように、口元を歪めた。


 涙を流しながらも、笑ってみせた。


「私は、間違えていない!」


 叫ぶように言葉を紡ぐ。


 笑い声の中、炎に包まれていくのを感じつつも叫ぶ。


「私の大切な人を奪わせない!!」


 何度も口にしてきた言葉だった。


 それは、最愛の人と交わした約束だった。


「私は忘れないわ!」


 守る為の力を手に入れる約束をした。


 それは、果たされることはなかったが、最愛の人を失う結果にもならなかった。


「帝国もあの人も全てを忘れはしない!」


 幸せだった日々は、色褪せることはなかった。


 いっそのこと、色褪せてしまえば、自身も積み重ね来た年相応の存在になれたのならば、その幸せだった日々に焦がれながらも最期を迎えられたのだろうか。


「だから、邪魔だってさせないわ」


 いつの日か、また会えることを信じていた。


 生まれながらの罪を背負わない普通の少女であったマリーだからこそ、選ばれたのだと知った日を思い出す。


 最愛の人から、最も愛されている証であるのだと信じて、罪人たちと歩く世界へ踏み込んだ。


「だって、私は、帝国の聖女、マリー・ヤヌット。神に望まれた人間だもの」


 思い出は、いつだって輝いていた。


 楽しかった日々は、いつの間にか日常へと変わっていた。


「忘れないで。私は、必ず、この世界を救うわ」


 だからこそ、マリーは普通を捨てた。


 それが、想像絶する後悔の日々であろうと予想した上で選んだ。


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