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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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01-4.それは我が子を愛する母の姿だった

「……でも、貴女には何か利益があったのかしら」


「交換条件ならば話さない。貴様が知れば、私という存在の浅ましさに気付き、二度と私を友と呼ぶまい」


 シャーロットは、幼い子どもに言い聞かせるように話す。


「それはそれで退屈なものだろう?」


 自身の唇を撫ぜる。それから、指に移った口紅を拭った。


 それは、シャーロットが何かを誤魔化す時の癖だった。


「私は古くからの友を失いたくはないのだよ」


 シャーロットは、生まれながらの罪を背負ってきた。


 罪を象徴するかのように、一族の中でも、特異な体質を持って生まれた。


「出会いはどうであったとしても、今は友人なのだろう?」


 全てを包み込むその力は、時として、殺意を持った人間までも丸め込まれてしまう。


「それならば、細やかな思い出など忘れてしまえばいい。ただそれだけの話だ」


 心の支えとなっていた人間から押し付けられた力はその存在を主張するかのように人々の命を奪い、シャーロットを生かしていく。


 それは怨念のようだった。


 まるで、シャーロットが傷つくことを恐れているからこそ、他人を害しているかのようにも見えた。


「この不死とも呼べる身に堕ちてからというもの、私の本質を知る人間は、少なくなってしまった」


 始祖になる以前から手にしていた生死すらも、全てを飲み込む力は、人々にとっては、憧れであり恐怖の対象だった。


 それは生きている災厄だと噂され、畏れられてきた。


 シャーロットは、誰からも恐怖の目で見られてきた。それが当然だった。


「だからこそ、友を失うのは寂しいものがあるのだ」


 その言葉に応えるようにマリーは再び顔を上げた。


「マリー。我が誉れの友よ。そう受け取っておくれ」


 そんなシャーロットに対して、対等な存在として現れたのがマリーだった。


 人々の心を捕えるのが上手い。まさに聖女として生まれたような存在だった。


 だからこそ、マリーは、シャーロットの唯一心の許せる女友達となった。


 立場を気にしなくても良い存在。周りの眼を気にしなくていい存在。


 それだけで、マリーは対等な存在になれた。


「私は、貴様を恨まない」


 長い月日を共に過ごしてきたマリーに対して、シャーロットは微笑んだ。


 あまりにも優しい笑みに、マリーは、目を反らした。


「貴様が私を裏切ろうとも、私は貴様を信じよう」


 マリーには、シャーロットを災厄と表現した人の気持ちが理解できなかった。


 それは、彼女の美しくも儚い、優しい笑みを知っているからであろう。


 それに反するように、異様なまでに強力な魔力は、シャーロットの存在を強調しているかのようだった。


 一度、その笑みを目にすれば、誰もがシャーロットを崇めた。


 それまで、邪険に扱い、畏れてきたのを忘れたように崇められてきた。


「貴様が私を災厄だと思わぬと言っただろう? その言葉を、生涯、忘れることはないだろう」


 その態度は、シャーロットの心を傷つけていた。


 シャーロットの心が砕けてなくなりそうになった頃、マリーと再会をした。


「安心するがいい。マリー。お前は立派な聖女になれる」


 シャーロットの言葉を聞き、前を向く。


 シャーロットを生きている災厄だと表現する人の気持ちは、一生理解できないだろう。


「マリーも救われる時は来るはずだ」


 今後、何があったとしても、この笑みに惹かれて傍にいることを選ぶだろう。


 マリーは、不思議とそんな気がしていた。


「だから、貴女はとても綺麗なのよ」


 何気ない一言だった。


 素直に思った事を口にしただけだった。


 それが、二人の出会いだった。


「容姿も心も綺麗過ぎるわ」


「そういうのはお前くらいだが」


「そんなことないわ。みんな、同じように思っているわ:


 マリーは当然のことのように言い切った。


 それだけのことにシャーロットは、救われたのだろう。


「真実を知れば、誰もが私が災厄を招いているのだと言う」


 だからこそ、シャーロットはマリーが提案した頼みを受け入れた。


 ついでに様々な条件を付けたのは、貴族として性だろう。


 それを素直に告げる事は、出来なかったが、感謝をしていたのかもしれない。


「いや、それが正しいのかもしれない」


「そんなの、見る目がないだけよ。シャーロットは、お兄様と同じくらいに優しくて、とても、素敵な女性よ」


 マリーにとって、彼女は憧れだった。


 旧家の出身であり気品の備わったシャーロットは、まさにお伽噺のお姫様だ。


 魔術を自由自在に扱い、見たことのない不思議な力すら使う姿は、気高い騎士のようであった。


「誰よりも、家族を愛することの大切さを知っている一人の人間だったわ」


 揺れる紅色の髪と目は、血と表現されることが多いが、マリーには、赤い薔薇に見えた。


 整った顔立ちは、誰もが憧れるであろう。


「そんな貴女から、子を奪いたくはないわ」


 マリーの視線は子どもたちに向けられる。


「なにを言っているのだ、マリー。ジョンとアントワーヌを奪わせるようなことはしないよ。この可愛い子どもたちを不安にさせるような言葉は慎んでくれ」


 その視線から守るように、シャーロットは二人を強く抱き締めた。


「お兄様の予言を聞いたでしょう? その子たちは、本当は――」


「止めてくれ。その言葉を紡げば、私は貴様を殺さねばならない。そのような事をさせないでおくれ。友を殺めるのは、心を痛めるものだろう?」


 シャーロットの眼は本気だった。


 愛する我が子を守る為ならば、国の一つや二つ、滅ぼしかねない。


 狂気に満ちた愛は誰にも止められない。


「……貴女ならやりかねないわね」


 子どもたちを驚かせないように殺意は抑えられているが、状況によってはマリーの首を吹き飛ばそうとするだろう。


「私を殺しても意味がないわ。殺すだけの価値は私にはないもの。でも、その子たちの為なら、シャーロットは私を殺してしまうのでしょうね」


 マリーは悲しそうに笑っていた。


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