残酷な世界
何だか声が聞こえる。
「起きろよシン。夕食だぞ食堂に行かないと駄目なんだぞ、起きろよ」
ああっアルロが起こしに来てくれたらしい
「アルロ、もう夕食の時間なの?」
ベットの中から体を捻って聞いた。
「早く行かないとみんな待ってるからさ行こうぜ」
「分かったよ今服を着るからちょっと待ってね」
急いでズボンと丸首の上着を着て準備をした、そんなに寝てたのか。
部屋を出て廊下を二人で食堂へ歩き進むが、アルロが俺の様子を見てる。
あれから良く寝たし体調も良くなってるから平気なんだけど心配してるみたいだ。
「なに」とアルロに声をかけると
「熱とか頭痛いとか平気なのかと思ってさ」
やっぱり心配してくれてたんだ、良い奴だなアルロは。
「良く眠れたし昼にも食事が出来たし、大丈夫だと思うよ。」
とアルロに説明した。
「なら良いけどまだ無理するなよ」
「分かってるよ、ありがとうアルロ」
そんな話をしながら食堂に向かったが迷わずに歩いて行ける
シンの記憶が戻って修道院の事も孤児院の事も思い出したから。
廊下の天井には、あの光る物が数個有って薄暗いけど周りが見える。
食堂の扉の少し前で俺は立ち止まった、思い出したんだ此処の事。
俺が病になる前の事を、、、はあ、溜息が出る。
立ち止まった俺にアルロが声をかけてきた。
「早く入ろう、おなかがペコペコなんだよ俺」
扉を開けて先に入っていくアルロに続いて俺も食堂に入っていく。
あの光る物が天井に幾つかあって、この部屋の前の方が明るくなっている
意外と広い食堂なんだよな、食堂の後ろのドアから入った俺たちに
みんなの視線がこっちに向いてる、優し気な視線と表情だ
前の方の小さめのテーブルに黒っぽい衣装のシスターが2人座っていて
その前にある長テーブル1つに子供が5人座っている
片側に女の子4人、向かい合って男の子が1人だ、俺たち2人も男の子側に座った。
何か言いたげな子もいたけど皆喋らずに黙っている
院長のケシーレさんが俺に声をかけてきた。
「二人とも来たわね皆待っていたわ」
「シン、良かったわ無事に回復したのね、ほんとに良かった」
「まだ無理は出来ないから明日は孤児院の中で休んでいなさい」
「体の様子を見ないと、また病がぶり返すといけないからね」
「分かったかしら、後はリビエと相談しなさい」
俺は明日も休んでいいらしい、確かに病み上がりの子供じゃあね。
「さあ食事にしましょう準備してね。リビエ、ラッエ、アルロ準備を、お願いね」
おケシーレさんの言葉で食事の配膳がはじまる。
ラッエと呼ばれたのは孤児院で一番年上の女の子だ。
別のテーブルに置かれた鍋からスープを木皿に移しパンと一緒に配り始めた
スプーンも一緒だ木のコップにも水をそれぞれ注いでいく。
パンはやっぱりあのモソモソする薄い奴だ。
配膳が終わってみな席に着いた。
。
「さあ、頂ましょう」
ケシーレさんの一言でみな食べ始めた、今夜のスープも塩味で野菜入りだ
透明感が有る、多分タマネギとニンジンぽいのが刻まれて入っている
お肉さんは、ほんの少しだけ入っている様だもっと居てもいいのに。
痩せっぽちの少年の俺はあっという間に完食してしまったよ。
薄いパンもスープとなら案外美味しく頂ける、まあ腹ペコだからかもしれないけど。
みんなも段々と食事が終わっていく、お喋りは無しだな
一番年下の女の子、、ジュニューも何とか食べ終わったようだ。
シスターの二人はそんな子供たちの姿を見ていたのだろう
少し間を置いて院長のケシーレさんが皆に話し始めた。
「みんな聞いてね」
「今日、シンが病から回復して元気な姿を皆に見せてくれた事を嬉しく思うわ」
「今年の流行り病は最悪よ。皆も分かるでしょう多くの人達が亡くなったから」
「年初めにはここの孤児院に貴方たちも含めて21人の仲間がいたのに」
「今ここに居るのは貴方たち7人だけしかいない、あの子達は天に召されてしまったわ」
「私もリビエも祈りながら看病して手を尽くしたけれど叶わなかった」
「神様が下した人々への試練だと思うけれど」
「もうこれ以上は御許しを請いたいわ。残された貴方たちとこの国の未来の為に」
「みんなも今以上に体に気を付けるのよ」
そう言ってケシーレさんは胸の前で手を重ね祈り始めた
それを見てリビエさんとラッエも同じように祈り始めた。
3人の祈りはすぐに終わった、さあ食後の片付けをしないといけない
本来なら片付けと洗い物は俺の仕事なのだけど、1つ年下のケリオサが変わってくれた。
俺は今1人で孤児院の部屋に向かって廊下を歩いている。
さっき、ケシーレさんが言ったことだけどこの孤児院だけじゃ無いんだ。
ここの街でも大勢の人々が今回の流行り病で命を失っている大人も子供も
貴族も平民も階級に関係なく公平にだ町の人口の2割程だろう 。
そしてこの街を治めている国全体でも同様らしい。
もしかしたら、この世界全ての国々で、街や村で起きた事かもしれない
この病は大災害。天災なのかも知れない。
もし、日本だと1億2千万人のうち、2千4百万人程が2か月足らずで死んでしまったら
どんな事になるか想像も出来ない、ただ死んでいくだけじゃ無いから病院は人手不足で
パニックになるだろう、その後もあるのだから。
人手不足による様々な停滞、社会構造にも大打撃だ
近代社会程、長く回復できないダメージになるだろうな。
そんなどうしようも無い事を考えていると部屋の前の扉の前についた。
難しい事を考えたから頭が痛くなりそうだ、早くあのベッドに入って寝てしまおう
部屋に入り、、、ああ先ずは開いている窓を木の板で閉めなくちゃ
しっかり閂を止めて、開かないことを確かめた。
あとは服を脱いでベッドに潜り込んだ、ああチクチクするよ
でも潜り込むと意外と肌着だけでも温かくなる。
ベッドの中で丸くなって微睡むと。
天に召されたみんなの事を思い出す、ああ「シン」の記憶だ。
小さい子が多い、笑っている顔、泣いている顔、、、
何かをこちらに差し出す仕草をする子、、
優しい兄貴分の男の子がこっちを見て何か言ってる様だけど
なんだか分からないよ。
一緒の育った仲間が天に召されてしまった事が悲しい
悲しい気持に心が沈んでしまう、泣いてしまいそうだ。
みんなにまた会いたいな。
、、、
、、、、