親友と記憶
あ~やっとだ。
シン。
よかった、よかった目が覚めて。
目の前の少年がそう言っている。
耳鳴りはするけど、まあまあ体調は良さそうなんだ。
シン?、、ねえ!シン。
怪訝そうな感じでこちらを見る少年を見返しながら思う。
君の名前が思い出せないんだよ。
反応の薄い俺を見ていて「変だ」と感じたらしい。
寒くない?だいじょぶかい?。
ちょっとそのままでいてよ、シスターを呼んで来るからさ。
そう言って俺の膝を軽く叩いて立ち上った。
彼の背の高さも俺と同じ位かな。
見上げながらそんな事を考えていると。
ねえ喉乾いてるでしょ、後で水と何か持って来てあげるよ。
そこにいてよね、動き回ったらダメだからね。
そう言って彼は部屋を足早に出て行った。
本当に人の名前が頭から抜けている。
シスターの名前も思い出せないから重症かもね。
この部屋で一緒に生活しているだろう他の子供の名前も出てこない。
転生の悪影響なんだろう、色んな事が思い出せない。
俺って今、何歳になったんだろう。
そして此処はどこなんだ。俺はどこに居るんだろうか。
分からん事だらけだな。
ここの人たちに教えてもらうしかないかな。
まずは、大人の人のシスターの話を聞いてからだな。
シスター、どんな人だろうか怖い人はやめてほしいよ。
おばあちゃんかな?。
それとも意外と若い人とか、何人いるのかなあ。
はあ、修道院のシスターさん。優しい人だと良いなあ。
暫くすると。
ドアが静かにスライドして開いた。
黒っぽい厚手のワンピースみたいな服を着た女の人だ。
シスター?さんがこっちを見てる。
意外と若いシスターさんでビックリしたよ。
ア~ッ。シン!良かったわ。
一声、小さな声で俺の名前を呼んで部屋に入ってきた。
大人用のスリッパが入口の横に有ったのね。
俺の前まで。来て膝立ちになって俺の顔を見ている。
そして俺の手を軽く握ってくれた。
温かい感じの手だ、うん温かい。
良かったわ。
4日前に具合が悪くなって、気を付けていたのに。
一昨日の朝。急に熱を出して倒れた時には驚いてしまったわ。
薬草を煎じて飲ませても、あなたは少ししか飲めなくて。
熱が下がらずに困っていたのよ。
いつまでも目覚めずにいたから。
あなたまでも、神に召されてしまうかと心配していたのよ。
目が覚めて本当に良かったわ。
神様に感謝しなくてわね。
ねえ聞いている?、シン。
あなた大丈夫なの?。
真剣な顔で俺を見てくれる。
俺はどんな顔をして良いのか困るよ。
どうやら俺は。4日間熱を出して昏睡状態だったらしい。
確かに目を覚ました時、体中が痛かったし。
気分も最悪でしたよ。
うん、やっぱりシスターの名前も思い出せないよ。
顔を見て、何でかな。
思い出しそうなんだけど、言葉が出て来ないんだ。
きっかけが欲しいな、何でもいいから。
シン。貴方は、まだ横になって休んだ方が良いみたいね。
上着を脱いで。ベッドでもう暫く休みなさい。
夕食まで。まだ、だいぶあるし体を労わりなさい。
服は身近に置いて良いわ、寒くしないようにね。
アルロ!。
人物の名前が出た瞬間に「ズキン」と頭が痛くなって。
木の台に座ったまま頭を両手で押さえて。
突っ伏してしまった、痛い、痛い、痛い。
うううっ頭が痛い。
シン!大丈夫?シン。
咄嗟にシスターが俺を優しく抱き抱えてくれている。
優しいなあ。
すぐに頭痛は収まって来たよ。
俺は大丈夫だから。チョット頭が痛くなっただけだよ。
もう大丈夫!。
俺がそう言うと。シスターは俺を包んでいた両腕の力を緩めてくれた。
そして身を起こした。
まだ俺を見詰める顔は心配そうにしているけど。
俺が笑ったからか、安心してくれたみたいだ。
後でアルロにスープとパンを持って来させるから。
出来るだけ食べなさいね。
あなたは4日間何も食べていないから。
少しでも食べて体力を戻さないといけないわ。
体力を戻さないと。
また病に取りつかれてしまうから、分かった?。
目が覚めて起きれた事を、院長にも報告しなくてはね。
さっきも言ったけど。今日はこのまま休みなさいね。
子供達には多分アルロが伝えるだろうし。
いい休むのよ。
そう言ってシスターは立ち上がり部屋を出て行こうとした。
出口の扉の前で振り返り。
少し笑顔になって静かに出て行った。
ありがとう、リビエさん。
俺はそう呟いた。
シスターの名前「リビエ」さんだと思い出した。
さっき「アルロ」と言う名前が出てから。
一気に記憶が頭の中に流れ込んだようだった。
1人でいると。しばらくして。
部屋にアルロが入ってきた、片手で扉を開けていたよ。
反対の手には木のトレーを持っている。
シン、このスープとパンを食べて早く元に戻ってよ。
病人は嫌いなんだからさ。これ以上は要らないんだよ。
シン、また一緒のさ、。
ありがとうアルロ。
俺も言われたとうり早く元気になりたいよ。
そんな事を言うアルロに俺は礼を言う。
アルロは少し涙目になりかかってるのが分かった。
そんな会話を少ししてトレーを受け取った。
小さめの木の器と、木のスプーンとパン?。
スープは木の器に入っていて暖かい。
白くてクリームシチューみたいで美味しそうだよ。
具が何か入っているかな。
スープは薄い塩味で野菜が少し入っていた。
野菜の味も美味しい。
パンは。
パンと言うよりも硬めのナンみたいで小さく薄めだ。
薄い卵の黄身みたいな色だな。
パンは思った程硬く無いけど口の中でモソモソして。
粉っぽくて美味しくない。
少し塩気がある位で甘味が無いんだよ。
スープが無いとダメな奴だなこのパン。
シン。
今日はこのまま休みなよね。
君が目を覚ました事はみんなに僕が伝えておくよ。
僕は。はまだ手伝いが有るから行くけど。
夕食に起きられるようになれるよね。
じゃあねシン。
そんな事を言うアルロに俺も軽く返事をする。
うん分かったよ、。
あと少し休めば大丈夫だと思うから、またあとでね。
アルロは速足で部屋を出て行った。
アルロって良い奴だな。
孤児院の仲間で、男同士で歳も同じ位だろう。
俺には分からないけど「シン」と「アルロ」は親友なんだろうな。
アルロがみんなにも伝えるって言ってたね。
みんな元気かな、ああ名前が浮かんで来るよ。
寝ていたベッドから起き出し。
まだ木の台に座りながら思ってしまう。
なんだか頭の中では大人の考えだけど。
言葉にすると子供っぽくなる気がするんだよ。
なんか変な感じだけど馴染むのかな。
子供と大人の記憶の融合、、どうなるんだろうかな。
バッサリと抜けてた少年「シン」の記憶部分も思い出せた。
ここは、「ローヌ修道院」とその「孤児院」だ。
院長は「ケシーレ」さんだ。
これからだな。
この世界の生活が始まるのはと想像して。
少しでも楽に生きて行けますようにと。
「神様」お願いします。
小さく声に出した。




