パン屋さん
意外な効果
2月の中旬。
いつまでも冬の底冷えが終わらない
相変わらず寒日が続く。
先日の事。
ラツェの休みに合わせて
工房に連絡を取り訪ねた。
俺達3人はドワーフの親方から
それぞれナイフを貰った。
そのナイフの刃渡りが20cm程で
握りの部分が12cm程。
全長だと30cm 強だ!
意外と大きいナイフだろうか。
ラツェには。
赤と言うか。紅色と言うか?
そんな目の覚めるような
色合いで設えられた。
美しい?ナイフを親方から貰った。
ラツェはナイフを受け取ると。
そのナイフの謂れを聞いているからか?
両手で胸の前で持って跪き。
それから額にナイフを当てて
「女神様」に
小言で祈った。
親方はラツェのその姿を見て
ニコニコと頷いていた。
俺達男2人も親方から
片膝をついてナイフを受け取った。
アルロのナイフも目の覚める様な
蒼い色で染められた皮で仕立てられた
目立つナイフだ。
俺の貰ったナイフは!
黒く染められてた皮で
設えられたものだった。
なんで俺は黒?
そんな事を思い出しながら
木の台に固定された
大きな金属のボールに入ったものを
両手で持った木のヘラで混ぜている。
粉と水と何かを少し?
3つを混ぜてネトネトにしてる!
パンの生地かな。
今、俺たち二人が居る場所は
ジャスリーさんの宿屋の隣の建物。
新しく仕事をさせてもらってる
ルジロさんのパン屋さんだ!
そのバックヤードに居るんだよ。
二人とも、しっかり捏ねて混ぜてくれよ。
混ざって一塊になったら俺に言ってくれ!
そこからが大事な工程だからな。
午前中はジャスリーさんの宿屋の仕事で
午後からパン屋さんの仕事をしてる。
何でパン屋さんかと言うと。
ジャスリーさんに聞いたんだって。
俺の清浄の魔法が良く効くと!
そんな風にルジロさんが教えてくれた。
食品を扱うお店は
清浄の魔法が必須なんだって。
俺の方はモッチリと固まってきましたよ。
おお!良いじゃないか。
アルロ君の方もそれで良いよ。
後は俺がやるから。
シン君、俺に清浄の魔法を掛けてみて!
両手を強くね、具合を見たいから。
良いですよ、
ルジロさん手を出してください!
行きます!
殺菌だ!滅菌だ!綺麗になれ!
手から服に流れて行け。
そんな風に気合を入れた。
ん~。
なんだ~?
おいおい!
調理服まで綺麗になってないか?
服のシミが無くなってる!
シン!凄いな君の魔法。
うちの奥さんの清浄だと
コンナ事起きないよ。
どうしてだ?
あはは。
こりゃ~今日は
良いパンが出来そうだ!
さぁて!パン生地を仕上げるぞ!
そんな風に言ってルジロさんは
生地を小分けにして整形していく。
コロコロと転がす様に丸めて
軽く引っ張り伸ばす。
あれはドッグパンの様になるなかな
俺達が食べた事無い奴だ。
丸いままの形の生地も次々と出来て行く。
普通の丸いパンダ。
よ~し!
ここはもう良いよ。
2人はね。
うちの奥さんの方を手伝ってあげて。
焼き窯から出来上がったパンを出してよ
あそこに有るトレーに乗せてくれる。
パンをお店に出す準備だから。
焼き窯は凄く熱いから気を付けて。
細かい事は奥さんに仕事を聞いて。
アッチを任せるよ頼むね。
奥さんに窯の注意点を聞いて
パンをトレーに出す。
目の前に焼きたてのパンが並ぶ
焼きたてのパンの良い香りが鼻を抜ける。
あ~美味しそうだ。
高温の窯からパンを出すと
外気との急激な温度差で
まだチリチリと音が
爆ぜる様な小さな音が
パンから聞こえる。
さっきの細長いパンも
旨そうに焼けてるよ。
切れ目を入れてジャムか
マヨとチーズとミルで挽いた
ブラックペッパーを軽く
塗して食べたい!
全部出せたわね。
トレーをそのまま、お店の方に並べるから
2つ持って私に付いて来て。
パンを落とさないようにね。
俺とアルロは慎重にトレーを2つ持って
奥さんに付いて行くよ。
パンなんて買えなかったから
初めてパン屋さんに入るよ
バックヤードからだけど。
2人とも空いてる棚にトレーを置いてね。
後ろに残ってるトレーも此処に持って来て!
後は私が並べて行くから。
ああ~~。
今日は4種類のパンが焼き上がるわね。
あなた達のお陰だわ
久しぶりに4種類も焼けた!
私と旦那だと、いくら頑張ってもね
2種類か、良い所で3種類が限界なのよ。
良かった!あなた達に仕事を依頼して。
こんなに近くに良い子がいたなんて。
ジャスリーのお陰ね。
そんな風に奥さんが話しながら
俺達の運ぶパンを棚に並べていく。
次のパンもすぐに焼きあがる。
さっきの生地がどんなパンになるのか
楽しみだよ。
あなた達、此処は済んだから。
少し休憩しましょう!
窯の方へ戻るわよ。
店には売り子さんが1人居るから
俺達は言われた通り奥について行くよ
奥のバックヤードで
椅子に座って、お茶をご馳走になる。
少しするとルジロさんも奥から出て来た
2人ともコレ!
これ、さっきの生地で焼いたパンだよ。
香りも良いし柔らかく出来た。
いい出来だよ食べてごらん!
どんなだか感想を聞かせて。
2人の目の前に
細長いパンの乗った
トレーが置かれた。
薄小麦色に焼けたコッペパンだ。
手に取るとまだ暖かい。
そして手触りが柔らかいよ。
指が「イツモノパン」と違うと教えてくれる。
右手に持ってハムッと噛んで口に頬張ると
鼻に甘く良い香りが抜ける
柔らかくて薄甘くて!
美味し~!
夢中でパンを頬張る!
あ~~。
これチョッと懐かしいパンな感じ。
美味し~です。
こんなパン食べた事無いです!
凄いですルジロさん。
食べさせて貰って有難うございます。
でも。
こんな美味し~パン食べちゃうと。
これからが辛くなりそうで。
アルロ~。
凄く美味しいですルジロさん。
ぼくもシンと同様にこれからが
普段のパンを食べるのが
辛くなりそうで。
ルジロさんが笑って俺達を見てる。
奥さんも同様だ。
御茶を飲みながら
パンに夢中だ。
ははは!大袈裟だな。
ただのパンだよ。
チョッと出来が良いけど。
2人共。そんなにパンが美味しいかい?
よし俺も!味見するか!
そう言ってルジロさんも食べ始めた。
お!確かに旨いな。
いつもより柔らかいし
香りも良い。
多分だけど。
これシンの清浄の効果かも知れないな。
普段のものと違うのはそれしか無いから!
ヤッパリ「清潔」が基本なんだな。
奥さんも。
今日の午後のパンの出来は上等ね
いつもより柔らかくて美味しい。
そんな事を夫婦で言ってるよ。
今日は今焼いてる窯で終わりだって。
パン屋さんの仕事は意外と早く終わりそうだ。
休憩を済ませ、最後の窯のパンを出す!
今回の焼いた窯の分は
まだ店には出さない奴だって。
夕方から出すやつなんだって。
2人は、今日はコレで終わりで良いよ。
はいこれ。ギルドに出す報告書ね!
ルジロさんはバスケットを差し出す。
これは修道院に持ってて。
2人に手伝ってもらって焼いたパン。
さっきの美味しいパンだからね。
多めに入れてあるから。
修道院の皆で食べてみて
感想を聞きたいんだ。
頼むよ。
それと2人とも。
半日で良いからさ。
1日おきにウチに来ない?
そうしてくれると
美味しいパンが焼けるんだ!
考えといて。
美味しいパンには惹かれるけど。
そんなに多く来れないです!
色んな仕事がしたいから。
出来るだけ来ますけど。
美味しいパンは食べたいけど!
1日おきには無理ですよ。
他の仕事もしたので。
また来ます。
そんな~~!
アルロ~~シ~ン!
うちに一杯来てくれよ~~!
ルジロさんは項垂れた。
じゃあこれで上がりますね。
また来ますから。
パン屋さんを後に
俺はギルドへ向かい!
アルロはパンを持って
修道院に先に帰った。
冒険者ギルドに入り
窓口で仕事の報告書を出す。
ヒビカさんはお休みかな。
さて、今日も頑張ったよ。
早く修道院に帰ろう。
急いで冒険者ギルドを後にして
夕方の道を急ぐ。
えっ!
また?




