季節感
今朝も孤児院を出て。
俺達3人組は宿屋の手伝いに向かって歩ているよ。
勿論行先は、ジャスリーさんの営む宿「銀杯」だ。
3人で通りを歩いていると気付くんだよね。
街の中を歩く人達の装いが変化してる。
段々と秋冬物に衣替えが進んでいる様で。
季節の移ろいを感じるよ。
道を行き交う人たちが、みんなが厚着になっているよ。
温かそうだな羨ましいなと思う。
朝晩の温度が少しずつ下がって来ているからね。
実を言うと。最近は物凄く肌寒い陽気になってるだ。
陽の出ている間は大丈夫なんだけど。
だから、そんなに寒いとは思わないけれどね。
それがイケないんだ。
昼でも太陽?の高さが段々と低くなり。
日中の時間が短くなっているのも分かってるよ。
俺の嫌いな。また寒い季節の到来さ。
街の人達の服が厚くなってるね。そろそろ俺達も上着が必要だよね。
ああ。寒くなって来たよね。
素足で履く靴が嫌な季節だよね、もうつま先が痛いよ。
直ぐに冬になるからな。嫌だな寒いのなんて。
俺は寒いの嫌いなんだよ。要らないよね寒いの冬は嫌いだ。
孤児院で。
朝ベッドモドキから出るのが物凄く億劫になるんだよ。
だって寒いんだもの。
顔を洗う井戸の水も段々と冷たくなって来たし。
釣瓶を落として井戸水を汲み上げて盥にあける。
盥の水を見ていると、夏とは別物に感じられるよ「ひえひえ」だ。
冬に井戸水は温かいとか言うけど、ヤッパリ冷たいよね。
朝の食事に出るスープもすぐに冷めてしまうから。
温かい内に急いで食べるんだ。
春夏仕様の肌着と薄手のシャツだけしか着てない俺達には。
冬は辛い季節だと思う。
早めにリビエさんに言って。
冬物の上着や靴下を倉庫から出してもらわないと。
朝。仕事に行くのが辛い季節だ。
いやいや!部屋の中でも寒いんだよ。
暖房設備なんかろくに無いからね。無いね。
ここの街。
ジャーレンタは、冬になっても雪は降らない地方に有るらしく。
今までで雪を見た事は無い。
水が氷ったりもしてい無いので。
ここは案外南寄りの地域に有るのかなとも思うよ。
シンの記憶だけどね。
ここの町じゃなくて。
冬に雪がドッサリと積もる様な街や地域だと地獄の様だろうな。
孤児なんて、生存率が滅茶苦茶低くなって生き残れないよ。
そんな。嫌な事を事を考えながら歩いていると。
ジャスリーさんの宿屋についた。
入口の扉から静かに入り、見つけたジャスリーさんに今日も元気に挨拶だ。
お早う御座います。ジャスリーさん。
いつもの様に3人で、周りの迷惑にならない声で朝の挨拶をした。
宿屋の1階のカウンターの中に居る。
ジャスリーさんとロジーヤさんが返事をくれた。
リークさんは飲食スペースの掃除をしている様だ。
おう!お早うさん。お前ら今日も頼むぞ!。
3人ともお早うね。
今日は1人と2人の2組に分かれて仕事を頼みたいの。
シンは1人で厨房の奥で。
私と一緒に昼の食材の洗浄と皮剥きをして欲しいの。
シンは刃物を使うから安全に注意よ。
慎重に怪我をしない様にね。
アルロとケリオサには。
少しだけ厨房で食器の洗い物をお願いよ。
それが済んだら。
2階の2人部屋が1つ空いたからね。
部屋を奇麗に掃除と。シーツ変えとベッドの仕立て直しね。
2階の部屋は階段を上がって左の部屋ね。
入る時には必ずノックをして確認して入ってね。
じゃあ始めるわよ。
さあ、今日も宿屋の手伝いを始めますか。
ロジーヤさんの言った手伝いの段取りでは、俺は厨房の奥だから。
アルロとケリオサに「後でね」と声を掛けて分かれて仕事の向かう。
俺は1人でカウンターの横の跳ね上げ板を潜り。
ロジーヤさんと厨房の奥に歩いていくよ。
跳ね上げ板は、カウンターから飲食スペースへの。
人の出入りが楽になるよに出来てるんだな。
カウンター奥の厨房は案外広くて。火を使う竈が4つも並んでいたよ。
鍋やフライパンも大きい物が並べられて置いてあるし。
お湯専用の大きい鍋と竈も2つ並んでるよ。
朝食が終わったばかりだろうけど。
もうジャスリーさんが鍋を振って料理を作ってる。
前のフロアーから料理のオーダーが入ったんだろうね。
飲食スペースのテーブルにお客さんがいたかな?。
見てないや。
厨房の奥の隅に食材が置いてあるのが見えた。
大きな木の箱が3つ積まれている。
上の箱を覗くとジャガイモに似たオレンジ色の野菜?が一杯入っている。
俺は。これの皮を剥くのかな。
シン。一番上の箱を横に下してちょうだい。
中の物を確認するから。
2箱が同じ物のハズだからね。
下の箱は中が見える様に縦と横にずらしてちょうだい。
木箱の厚さも3つ分で俺の腰ぐらいかな。
1つでも持ったら結構重いけど横に1つ下したよ。
2個目の箱を下のと90度回転させて。
一番下の箱の中身が良く見える様に置き換えた。
うん良いみたいね、問題無さそうだから。
下した1箱と同じもう一つも裏の井戸に持って行ってね。
2箱が同じ泥付きの野菜だから。
井戸水で綺麗に野菜の泥汚れを洗い流すからね。
綺麗に洗えたら、桶に入れ変えて元の所に置いて来てね。
それから中で洗った物の皮剥きをするからね。
後の1箱の野菜は私が洗うからね、さあ野菜を持って井戸に行くわよ。
水が冷たいけど頑張って洗いましょう。
う~~~ん!宿屋の中に入れたら。
なんだかんだと人が居て火を使うから温かいんだけど。
それなのにぃ~~~~あぁ~。
がぁ~~~~ん!。
井戸で野菜の洗い物とか。凍える凍えるよ~~~~!。
客室の掃除とか別な仕事がしたかった。うぐぐぐぅ。
うおぉ~~~~~~気合いだ!。
身も凍るような水仕事を必死の思いで熟し。
木箱二箱分の野菜の水洗いが何とか終わったよ。
何回も井戸から綺麗な水を汲んで泥をしっかり洗い落とした。
俺はやり遂げたぞ。
これで、この野菜を厨房に運んで皮剥き作業の開始だ!。
厨房の中でやるんだよね?。
お願いします、建物の中で作業させて下さい。と願った。
あっ、、ロジーヤさん。
さっき中で剥くって言ってたな。
さあ!、シン!。この野菜を厨房の中で皮剥きするからね。
しっかり残りの野菜を持って来てね!行くわよ。
やったよ!。
寒空の下の井戸端じゃ無くて済んだよ。ああ良かったよ。
おお!厨房の中は外よりも随分と暖かくて、幸せな気分だ。
木箱2箱分の野菜を桶に移し入れて。
何回かに分けて無事に厨房の隅に運び入れ終えた。
幾つか並んだ木桶の前に小さい椅子を置いて。
さあ皮剥きの準備をする。
木桶の中の泥を落とした野菜だけど「じゃが芋」に似ているんだよ。
ただ外皮がオレンジ色だけどね。
大きさも、大人の拳大で見た目もそっくりなんだよね。
俺って。今までに「これ」食べた事有るのかな。
ロジーヤさんも俺の横に同じ様に椅子に腰かけたよ。
手には小さなナイフを2本持っていた。
そして、その内の1本を手渡された。
綺麗に手入れされた小さ目の刃物だった。
このナイフは果物ナイフとは少し形が違うかな。
刃渡り10㎝程の長さで。見た目は片刃なんだけど。
刃の先端の2㎝の部分が裏反りして、そこだけ両刃の形になっている。
面白い形だね。
さあ、始めるよ。
シンは前にも皮剥きをした事あるわよね。
でもナイフの扱いには十分気を付けてね。怪我はしない様にね。
前と同じ要領で芋の皮を剥いて行くわよ。
芋の傷んでる所は大きめに切り取って捨ててね。
量が多いけど、2人で気を付けて頑張ってやろうね。
「じゃが芋」モドキをガンガンと皮剥きして行く。
シュ、シュ、シュ、シュ。
シュシュシュ、、シュ、シュ。
シュ、シュ、、、シュシュ、、シュシュシュ。
無言で皮剥きを進めて行くけど。
この微妙な前屈み姿勢でいると、腰が痛くなりそうだよ。
今の体は若いけど。
ここに来る前は腰痛持ちだったから思い出すんだよ。腰痛をさ。
なかなかに皮剥きも大変な仕事だね。
皮剥きしてる途中で「モドキ」を持つ手がヌルヌルしてきて。
モドキを何回も落としそうになるよ。
皮を剥いたら、ロジーヤさんが大きさを揃えて切り分けて。
水にサラス所まで同じなんて。
じゃが芋モドキ、、、、色はオレンジだけど。
お前は、じゃが芋だよな。
人参に似てる野菜も有ったんだよ!赤い色でビックリだね。
カボチャはまだ見てないけど。あったら良いな、美味しいから。
葉物野菜は見てても良く分からない、まあ緑色の葉っぱだね。
レタスかキャベツか良く分かりません。
なんとか。全ての野菜の下拵えが無事に終わったよ。
シン。お疲れ様、ここはこれで終わりね。
他の2人も、客室の掃除が終わってるかもしれないから。
あの飲食スペースの隅の椅子で、一休みしてて良いわよ。
厨房の中は、竈に火が入っているから。
午前中なのに熱気が籠ってるよ。だから暖かくて良いんだ。
ジャスリーさんは2個の竈に向かってガンガンと料理を作ってるよ。
すでに準備してある野菜と何かの肉で、炒め物かな?。
相変わらず、ここは忙しいな。
ジュウジュウと焼ける音がぁ~~~。
うあっ~~~~いい匂いが立ち込めるぅ~~~。
旨そうな、、、いや絶対旨いに決まってるよね。
ヤバいよ。ここに居ると腹が減る。駄目だ早くここを出よう。
ロジーヤさんが「一休みしてて良いわよ」なんて。
そう言ってくれたんだから。
できたらアルロとケリオサも仕事が終わってると良いな。
一緒に椅子に腰かけて一休みしたいからね。
そんな事を考えながら厨房を抜けて跳ね上げ板の所も抜けて。
カウンターから飲食スペースへと外に出た。
あ~もう居た居た!。
飲食スペースの端に置いて有る予備の椅子に座ってる。
2人を見付けたよ。
手を挙げて2人の所に向かって歩いて行き。
俺も。並んだ椅子に座ったよ。
お疲れ。そっちはどうだったの。
皿洗いの時がきつかったよ。
ジャスリーさんの造る、料理の良い匂いが拷問だからね。
あはは。俺も同じだ。さっき匂いの拷問に合ったよ。
あとは俺達の方はいつもと同じだよ、。
除して綺麗に設えて問題無し。シンはどうだった。
俺の方は水仕事だからね寒くなっちゃたよ。
冬は寒くてさ、外での野菜洗いが大変だったよ。
これからどんどんと寒くなるもんね。
寒いのは嫌いだよね。
寒いのは、これからが本番なんだよね。
あ~~あっ早く温かくなんないかな!。
あはははっ~~~。
そんな寒さの事を隅で話し合ってたけどね。
今日も「銀杯」の飲食スペースは人が多いなあ。
ここの宿屋は。
ジャーレンタの中でもかなりランクが上の宿屋さんなんだ。
主人のジャスリーさんは料理が美味しくて。
人柄も良くて、お客さんへの対応が親切だからね。
女将のロジーヤさんも。
娘のリークさんも美人で明るくて話しやすい人柄だから。
なをのこと繁盛しちゃうんだ。
宿の設備は平均的なんだけど。
部屋や飲食スペースが綺麗で食事も美味しいと評判なんだよ。
飲食のお客さん達も。
昼にはまだ早いのに半分ほどのテーブルが埋まって来てるよ。
食事を終えたお客さんが席をを立って、宿から出て行った。
ここの料金は前払いなんだよね。
それを見た俺達は。
3人で今空いたテーブルの食器やゴミをカウンターへ持って行った。
ケリオサがテーブルと椅子を軽く拭き掃除をしてくれたな。
これで次の人が席に着いても問題なしだ。
また元の隅の椅子に3人で静かに腰かけていると。
リークさんが別のお客さんの配膳を終わらせて。
此方に来てくれた。
みんなで片付けと掃除をしてくれて有難うね。
そこにいていいから。3人で座ってて。
何か持って来てあげるからね、食べなさいよ。
ありがとう。リークさん。
3人の声が揃ってしまった。
何か食べさせて貰えるのが。
俺達孤児院の子供には一番嬉しいんだ。
3分もしない内にリークさんが木のトレーに乗せて。
俺達の所に持って来てくれたのは。
ソフトボール位の大きさの焼かれた。
小麦の「ナン」の様な薄パンに具を挟んだ物が1個ずつ貰えた。
厚焼きの「タコス」みたいなのだな。
具材は薄くスライスした細切れの焼き肉だった。
3人で齧り付いたよ。
肉だよ肉!薄パンが思いの外ムフッと柔らかくてビックリだよ。
肉の味付けは塩味だね。
脂をひいて良く焼かれているが柔らかで。
あぅ、旨い、旨すぎです。
3人の美味しい賄のパン擬きは、アッと言う間に消えた。
その余韻に浸って座っていると。
リークさんに、今日の仕事は終りで良いと告げられた。
3人共。今日はもうお終いで良いわ。
そして。
今日も終いの挨拶をして、帰るのだ。
孤児院に帰ったら忘れずに。
リビエさんに厚手の服を出してもらわなくっちゃねと。
3人で話しながら街の中を歩いていく。
日の傾いた夕方に吹く風は。
直ぐに俺達の体温を奪っていくよ。
あ~寒い。




