串焼き
意味不明に異世界に転生した俺だけど、何とか今日も生きてるよ
そして、あっという間にここでの生活が、数か月分過ぎて行った。
そろそろ、この世界の季節は日本で言う処の、夏の盛りを過ぎようかと言う頃合いだな。
この世界の夏の盛りの気温は、最近の日本の酷暑なんかと違っていたよ
体感で30度くらいの温度までだったからね、チョットきついと思う位だった。
この国で大流行していた、恐ろしい病だったけれど
俺の病が癒えたと同様に、ジャーレンタの街の中からも消えて行ったよ。
前にも言ったけど、沢山の人々があの恐ろしい病で亡くなってしまったんだ。
だから数か月がたったとは言え、街の中は少し寂しい感じの場所もあるんだ
住宅街に空き家が結構できたとか、普段の買い物をしていた商店が無くなったとか
リビエさんが食事の後に言ってたから。
なぜか転生して12歳の俺だけど
生まれ変わってから、孤児院の仲間とも仲良くやれているよ。
そして宿屋のジャスリーさん達、大人が良く面倒を見てくれるんだ
宿屋の昼食を奢ってくれる時も有るし、御菓子をやパンも貰えたりするんだ
腹減らしの孤児院の俺達には、なにより食事が有りがたいよ。
宿泊客の中にもお馴染みさんが出来たんだ。冒険者の人達や行商の商人さん達だ
結構な数の人達にも俺達孤児は可愛がられているんだ。
青空市場の人達も同様で良い人たちなんだ
そんな大人の人達の善意が12歳の俺には堪らなく嬉しいよ。
そんな事を考えながら、今日も俺達男3人組は宿屋の手伝いに来ているんだ。
宿屋の観音開きの扉を入り元気よく、お早う御座いますと3人で挨拶をすると
「みんなおはよう。今日も宜しくね」
「先ずは階段を3階まで綺麗にしてね」
と、宿屋の女将さんのロジーヤさんが言ったので、俺たち3人は「はい」と返事をした。
3階から初めて下の階に下りながら掃除をして行く段取りだ。
階段の途中に有る踊り場の部分も隅に気を付ける
俺達3人の階段の掃除はいつも分業で進めて行く感じだよ。
1人目のアルロが柔らかい箒でゴミを落として行き、各階で一旦集めるんだ。
2人目ケリオサが乾いた雑巾で軽く拭き上げて床を仕上げて行く
3人目の俺は手摺の部分と叩き棒で天井や壁の蜘蛛の巣の掃除だ。
そんな感じで周りに気を付けながら掃除するんだ
1階の部分まで問題なく掃除が出来たので、ロジーヤさんが居るカウンターへ報告をしに行く。
俺が代表して声を掛けるんだ
「階段の掃除が終わりましたよ、ロジーヤさん」
「3人ともお疲れ様」
「もう1つ、仕事を頼むわ」
「3階の階段を上がって右の4人部屋が一部屋空いているの、そこも掃除をしてね」
「お客さんの忘れ物は無いと思うけど、それも確認してね」
「後は、棚の汚れと窓のガラスの汚れにも気を付けてね、ああっ窓から落ちちゃだめよ」
「ベッドが多いから大変だけど3人でお願い、シーツはいつもの所に有るから」
ロジーヤさんに、次の仕事の指図をされたので、掃除して綺麗になった階段を
3人で上っていくが、午前の半端なこの時間だと宿泊している人と擦れ違う事はない
みんな仕事に出ていることが多いから。
この宿の3階の右の部屋は、通りに面した見晴らしのいい部屋なんだ。
4人部屋だから4つの小さ目のベッドが左右に2つ並び、小さなテーブルと4つの丸椅子が有る
入り口のドアの横に少し縦長の棚が2組あり、壁に洋服賭けの出っ張りが数個付いている
基本宿屋の部屋には備え付け以外余計な物は無いね
夜の灯りは、ランプか魔法の灯りで頼まれれば有料で付けるみたいだよ
お客によって、ランプを持ってたり、生活魔法で灯りを自分で点ける人が居るからね
先ずは、ベットのシーツ交換を設えて行き、棚掃除と床の掃き掃除に分かれて作業していく
ベッドは小さいけど、その下の隠れてる影の部分の掃除が厄介なんだよね
ゴミも有ったりするし、木の床だから箒だけだと中々綺麗にならないんだな
テーブルと丸椅子も、乾いた布で汚れを見ながら拭き掃除をして行くんだ。
2か所ある窓のガラス掃除も、乾いた布での拭き掃除だ、窓枠も綺麗にして行くよ
乾いた布での拭き掃除が基本だね、水で濡らせた布での掃除はあんまりしないんだ。
雨戸みたいな木の板の移動部分も壊れてないか見て確認していく
防犯用の鍵の部分の閂や鉄の棒にも不備が無いかも見て行くよ
綺麗に部屋の掃除が終わったら、3人で部屋になにか不備が無いか最終確認をする
問題なければ、これで終わり。
子供の仕事にはハードだよね!
ああ大変だったよ。
休憩がてらに、良く窓の外を眺めるんだ、3階からの眺めは案外気持ち良いものだよね
窓から覗き込んで、宿の前の通りを行き交う人達を眺めるだけでも面白いんだ。
まあ道行く人々の服の色は単調で寂しいけどね。
視線を上げて家々の屋根の上を見回せば、ちょっと背の高い赤瓦っぽい屋根が見える。
この街。ジャーレンタの街守の屋敷だね、すぐ横に尖がり屋根の塔も1つ見えるよ
あんまり大きくは無いけどジャーレンタの街の中心部分に有るんだよね
冒険者の人の話だと、街守の屋敷は確りと城壁に守られてるんだそうだ。
そんな事を考えながらの休憩を終えて、3人で1階に降りてきた
1階のカウンターの奥に居るロジーヤさんに声を掛けて終わったと報告した。
「ごくろー様ね、今日はここまでで御終いでいいわよ」
「明日もお願いね」
昼にはまだ少し早いけど、今日の宿屋の仕事は御終いで良いらしい。
良かった良かった。
3人でニコニコしながら孤児院に帰ろうと相談していると
宿の主人のジャスパーさんが調理場から顔を出して話しかけて来た
「おう、みんなゴクローさん、掃除終ったんだな」
「お前たち、まだ時間大丈夫だろ」
「あっちの奥のテーブルに座って、ちょっと待ってろよ」
「今日の日替わりで出す、おかづの味見をして行けよ」
「ミックス肉の串焼きを3本出してやるからな1本ずつ食っていけよ」
「うわ~~~~~ぃ。ジャスパーさん有難うございます」
「肉の串焼きだよ。いつ食べたか思い出せないって言うか」
「食べた事が無いんじゃない俺達って???」
「俺達って、これが初串焼きだよね、、、、うひ~~~~ぃ」
3人で大騒ぎしてたら、、、、ロジーヤさんに怒られました。
「こら。3人とも大声を出さないでね、ここは宿屋なんだからね他の人に迷惑だよ」
「まあ、初串焼きじゃあ、、、しょうがないかも知れないけどね」
「でも静かに待ってなさい。分かった!」
「はい、、、、御免なさい」
3人で、シュンとなって謝りました。
それから少しの間、待っていると
「ジュウジュウ」とまだ肉の表面の油が焼けている状態の、3本の串焼きが目の前に置かれた。
冷めない様に温められた鉄の皿に乗せられているんだな、凄くいい匂いが昇ってくるよ
「熱いからな、いきなり齧り付くと口の中を火傷するからな、少し待って食えよ」
「ミックス串焼きの塩味付けだ、3種類の肉を使ってるぞ」
「たまにはこんな駄賃も良いだろ、、、なあ」
「食い終わったら皿はカウンターに戻して声を掛けろよ」
そう言ってジャスパーさんは厨房へ戻って行った。俺たちの目の前には3本の串焼きが、、、
いい匂いがするよ、何とも言えない油の焼ける匂い、、、
3人で1本ずつ手に持ってニヤケテしまってるよ。俺もだけどね、えへへ。
良い感じに冷めて来たので、3人で見合わせて串焼きに齧り付いたんだぁぁぁぁ~~~。
肉を口に含みゆっくりと噛みしめて食べて行く、ぁぁぁ天国かとも言える幸福感だよ
串には5個の肉が刺さっていて、俺は一気に2個の肉を頬張ったんだ
もぐもぐと2個分の肉を噛みしめて行くと、、、、
鶏肉のささ身の様なサッパリとして柔らかめの歯応がする。塩味が引き立ってうま~~~!
一口目の肉の味わいを口一杯に残しながら、鼻で荒く息をする。
口を開くと肉の美味しさが逃げるからね。
一口目の串焼き肉の余韻を引きずりながらも
残りの串に刺さった、3つの肉を観察する余裕がやっと出来たよ。
次の肉は薄くスライスされた肉が巻き込まれて串に刺さっている、ミルフィーユ仕立てだ。
その肉を凝視しながら横殴りに武者振り付いたよ、、、これも柔らかいよ~~!
軽く噛むだけで口の中でアッと言う間に細かく解れていくんだよ。
最初の肉よりも油らを多く含んでて肉の甘味と味付けの塩味が。。。うま~~~!
ゆっくりと味わって食べて行くが、、、アッと言う間に無くなつて行くよ。
なのに、口の中で油と塩の複雑な旨さがネッツトリと残ってる旨い!
残りの2個の肉は、赤身肉の見た目で、瓶の王冠より少し大きいほどだよ
その肉の1つを大事に頬張り噛み込むと、肉汁が少しだけど溢れてこれも旨い。
この肉が一番歯応えが有るんだけど、噛む程に旨いんだよ。塩でも十分すぎる旨さだ。
最後の1個の赤身肉も食べ終わってしまう、、、焼き肉は至極。
初めての串焼き肉、、、旨すぎるよ。
此処の宿のランチのおかず、、、旨すぎだ。
3人とも、初めての串焼き肉を食べさせて貰って、暫し余韻に浸ってしまったよ。
そうこうする内に「鐘」が鳴り響いた。昼を告げる鐘だ。
気が付けば、飲食スペースに何組かのお客が入っていたんだ。
俺達は邪魔になる前にジャスパーさんに御礼を告げて宿屋を後にした。
孤児院の仲間に今日の事を言うと、もの凄く羨ましがられるだろうねって
3人で話しながら歩いて行くが、終始笑顔が収まらなかったよ。
焼き鳥や焼トンなんか、比べ物にならない位、旨かったよ。
異世界の串焼き恐るべし!
しばらく俺達3人は、串焼き肉の夢を見そうだ。
その夢は、、、
良い夢なのか
当分の間、、、食べられない
悪夢なのか
どっち何だか。