それは気紛れ
俺は。
ラビリンスの探検を午後の早々に諦めて。
ロドラへ向かう馬車に乗り込んでいた。
その途中で見た空の様子を口にしたら。
馬車の御者さん曰く。
明日の天気は崩れるよ。
その会話の後に冷たい風が吹き始めた。
うわぁ~何だこの風。
前から来る風が急に。
冷たくなったじゃん!。
首筋を抜ける風がぁ~。
うひぃ~寒い。
上空の黒い雲の下から。
体験した事の無い冷気が。
俺達の乗った馬車を襲う様だよ。
くぅ~。
こいつは堪らねぇ!。
お客さん!悪いが。
ここで1回馬車を止めるぜ。
俺も防寒をしないと。
このままで行ったら。
町に着くまでに凍えちまう。
止めるぜ。
馬車が止まり御者の人が。
自分の麻袋から布を出したのかな。
布か革製品か良く分からないけど。
それをフワッと纏ったよ。
襟にはファーみたいなのがツイいてるなぁ。
素手だった手にも手袋もはめたよ。
コートの様な上着かなぁ。
あぁ~良いな!温かそうじゃん。
支度が済んだのか。
防寒かぁ~。
今の俺だと対策できるのは。
うぅ~ん。
敷き布を体に巻く位いかな。
無いよりマシだよなぁ。
よし俺もやろう!。
魔法袋から敷き布を出して。
一旦大きく広げて。
出来るだけ風を防ぐ様に。
体に巻いて行くよ。
うぅ~。
これで少しはマシになれば良いけど。
待たせた!。
今から馬車を動かすから。
それと俺の経験だと。
この風は嫌な予感がするんだよなぁ。
出来るだけ早く町に入りたい。
馬車の揺れがきつくなるけど。
ここからスピードを上げるぞ。
暫く我慢してくれ。
えっ!。
確かに天気が急変してるけど。
そんなにこの風が危険なんですか?。
まぁロドラ方面の空には。
真っ黒の雲が覆ってるけど。
毎年、偶にあるんだよ。
痛い位の大雨に合わされたり。
アッと言う間に吹雪いて来たり。
氷の粒がバラバラと落ちて来たりなぁ。
今までであの雲を見た時は。
まあ良い事は無いなぁ。
そうなんだ。
ロクなもんじゃ無いんだなぁ。
良し。
ここからは飛ばすぜ。
それっ!ハァー!。
ヤァー。
馬車が動き出して。
グングンとスピードを上げていく。
馬車の車体がギシギシと捻じれ、撥ねる。
飛ばしてるなァ。
暫く走っていると。
前から顔にに当たる風が痛く感じるよ。
パシパシと何かが当たる?。
あっ!。
冷てぇ。
雨?雪?。
前の方の景色が。
降る雨のせいでか。
微かに霞んで来たかな?。
あぁ~雨はヤダ!。
なんだよ、おい。
落ちて来るのが早いじゃ無いか!。
まだ降ってくれるなよ!。
あは!御者が叫んでるよ。
まだ小粒らしいけど。
相対速度で顔に雨粒が当たって痛いよ。
段々と雨脚が強くなり。
更に気温も下がって来てないか、これ。
パシパシと音を立てていた雨は。
カシャカシャと音色を変えて来たよ。
雨粒が雪みたいのになって来て。
周りが見にくくなっちゃったよ。
雪かと思ってたら。
痛い痛い!。
雨に小さな氷の粒が混じって来てるぅ~。
あぁ~コレは霰?雹は止めてぇ~。
これ以上は勘弁してよ。
馬車のスピードが落ちて来た。
こんな状態じゃあ真面に走れないもんね。
コリャ駄目だな。
まあ、ここまで来たら。
ロドラの町まではあと少しだから。
ここからは逆にスピードを落として。
安全重視で町に向かうから。
旅の無理は禁物だから。
その意見に賛成!。
敷き布に水分が沁み込む前に。
内側から手で水滴を払った。
まあ、もう沁みて来てるけどね。
ゆっくりと街道を進む馬車。
今はすっかりと。
黒い雲の下に入っている。
あれから天気は雨から霰移り変わり。
今は、、、。
音も無く白い雪が落ちて来ている。
その降る様と来たら。
此処は雪国かよって思う位の勢いで。
天から落ちて来てる。
この降り方だと。
こりゃ~積もるのか。
一晩降ったら事だぜ。
はぁ~。
また雪掻きかよ、、。
明日からの仕事がやり辛くなるな。
俺も気分はドンヨリだよ。
寒いのは嫌いだよ!。
苦手なんだって。
俺の乗り込んだ馬車が。
大雪の降りしきる中。
トコトコとロドラの町に着いたよ。
ロドラに到着だ。
降りてくれ。
馬車のステップを踏んでロドラに帰着。
内側から手でバンバンと。
敷き布の雪を払い落したよ。
町中にも雪が積もり始めているよ。
外の街道や草原と同じ様にね。
うぅ~寒い!。
もう無理だ、何もする気が起きない
今日はこのまま宿に帰る。
その前に取り合えず。
「清浄」
これで衣服の水分は無くなった。
これを早く着替えたいし、、。
ふう。
冒険者ギルドには、、。
明日行けば良いよな。
足早に。
宿屋を目指して歩き出した。
少なく無い人の波を抜けて進むよ。
あぁ手足が冷たい。
馬車の移動で体が芯まで冷えたから。
今も体が寒くて震えてるよ。
宿の入口を抜けフロントへ向かう。
中は暖かいけど。
部屋の鍵を下さい。
寒くてそれしか言葉が出ない。
お帰りなさい。
はい、これですね。
部屋の鍵を受け取り。
ありがとう。
ソレだけを口にして階段を上がる。
でも顔に、首に、手に。
動く度に感じる温度が優しい。
あぁ~ここは温かいなぁ。
そんな事に気付いてゆっくりと。
階段を上っていくよ。
二階の通路を進み扉の前に到着だ。
鍵を開け部屋の中へ。
扉を閉めて内鍵を掛ける。
はぁ~帰って来たぁ~。
椅子に腰かけて。
腰のポーチから着替えを用意する。
横のベッドの上に新しいシャツとズボン。
下着も出したよ。
皮の上着を脱いで。
その下のシャツも脱いでしまう。
早く着替えて下へ行こう。
もう我慢できない。
何か暖かい食べ物を体に入れないと!。
木の棒を出して上着の袖に通す。
机と窓の桟に引っ掛けて干しておけば良し!。
ズボンは机の上に伸ばしておこうかな。
普段着の服に着替え終わり。
今日の冒険の後始末をしておくよ。
まあ、何となくの気分で。
さあ下に降りよう。
はぁ廊下も暖かいよ。
1階はもっと暖かかったよ。
フロントで。
今何が食べれるか聞いてみた。
選択肢は3つだった。
料理を簡単に言われたけど。
1、パンと野菜スープ。
2,サンドイッチ1つと濃い目のスープ。
3,丸パン2個と濃い目のスープと肉を焼いた物。
こんな感じだよ。
変更も可能だって言われたけど。
俺はその中から。
一番高い料理を頼んでみた。
じゃあ3で。
コレをお持ちください。
木の小板を渡された。
へへ!3番目の料理だよ。
今はまだ寒いし腹ペコなんだもん。
その代金は銅貨65枚だって!。
高いのか、安いのか?。
現物を見てのお楽しみだな。
階段下の小窓へ向かい中を覗く。
そして声を掛けるよ。
スイマセン。
この料理をお願いします。
中から。
はぁ~い待ってて。
今行くからね。
直ぐに小窓の向こうに女の人が現れてくれた。
コレをお願いします。
小窓の前に手を差し出す。
あぁ~コレは少し時間が掛かるの。
あそこのテーブルで待っててくれる?。
指をさしてる場所は、、。
あぁ~真ん中辺のテーブルだ。
あそこは、、。
俺はそこの所が良いんですけど。
あそこじゃだまですか?。
俺が隅の所を示すと。
何であんな端っこが良いのかしら?。
君!変じゃな?。
真ん中にしなさいよ。
ね!あそこのテーブル。
なんだか押しの強い女性だよ。
えぇ~~~。
あそこのテーブルは、、チョット。
俺に座る勇気はないです。
だから、そこで。
端を指さす。
もう!いいわよ。
じゃあそこで待ってて。
後で届けてあげるからね。
そう言い残して向きを変えて。
ズンズンと歩いて。
厨房?の奥へ行ってしまったよ。
なんで俺が怒られたんだ?。
はぁ謎だ。
昨日と同じ長テーブルの角へ向かう。
備え付けの椅子に腰かけて。
両手も脱力して下へ伸ばし。
そのまま項垂れて。
頭をテーブルにコンと落とした。
おでこが板に当たったよ。
あっ痛い。
でもそのままで居た。
何て日だったんだろう。
もう散々だったよね。
ラビリンスの中でも。
帰りの馬車でも。
今日を思い返して自分に呆れた。
運が良いなんてさ。
ツイてるとかも思ったけど、、。
ヤッパリそんな事は無さそうだな。
雪が降るなんて最悪じゃん。
おまたせ、、。
、、。
あんた何やってんの?。
そんな恰好で。
料理が届いたらしい。
良いじゃないですか。
これ位、俺の勝手ですよ。
ムクっと体を起こして。
少し振り返り気味に。
すぐ後ろ側の女性に。
こう言ったんだ。
何でも無いですよ。
今日を思い返してただけです。
色々あったんです。
料理はここに置いて下さい、
右手の人差し指で。
トントンと。
目の前のテーブルを突いた。
おっと!。
いきなり危険信号が。
料理を届けてくれた人、、。
女性が。
右眉をピクッと動かして。
目の前にスッと置かれた料理。
あぁ~良い香りだ。
丸パンは温めてあります。
スープは硬芋と青菜の合わせです。
肉は夜狂鳥の半身、味付けは塩と、。
香草を少し。
御口に合うと良いけど。
楽しんで御召し上がり下さい。
では。
なんだか硬い言葉が聞こえたような。
女性は。
クルッと身を翻して厨房?の方へ。
俺って失礼なヤツ?。
少し許して欲しいです。
ああ。
目の前の美味しそうな料理。
あれ?肉は夜狂鳥って言ってた?。
コレから行ってみるかな。
トレーの上には金属の突起2本のフォーク。
それにバターナイフ?みたいなのが置かれてた。
スプーンも1個。
えぇ~と俺はテーブルマナーは無理なんで。
コレってカトラリーだっけ?。
適当に使えばいいね。
肉を切り分けて口に放り込む。
ウマ~ウマ~イ!。
夜狂鳥旨いじゃ無いか。
まてよ、、コレは。
俺は我慢できなくて。
手掴みで鶏肉をバラシていった。
骨を掴み肉の部分を口に運ぶ。
絶対にこの方が旨いよ!。
指に着いた油も、しゃぶっちゃうよ!。
瞬く間に焼き肉の料理は骨だけ残って。
トレーの上から消えた。
舐めた指を睨みつつ。
「清浄」
生活魔法。最高!です。
小声で呟きながら。
パンを千切って口に放り込む。
俺のお気に入りには及ばないけど。
美味しい。
温かいスープをスプーンで口へ。
まだ暖かくてパンが食べやすくなるよ。
あぁ~塩気と甘みが。
美味しい。
はぁ幸せだ。
体もすっかり温まったよ。
空っぽになったトレーを見て。
「清浄」
目の前のトレー、カトラリー、皿が。
奇麗になった。
えへへ。
美味しさへの御礼。
さてコレを返却して部屋の戻ろう。
小窓にトレーを返しに行く。
御馳走様でした。
料理はどれも美味しかったです。
そう言ってトレーを小窓の奥に向けた。
それは良かったです。
またお越しくださいね。
その声を聴いて向きを変えて。
階段の方え歩きだした。
なにこれ!。
ウソウソ!。
何でコンナに奇麗なの?。
あの女性の声が聞こえたけど。
階段を上がり部屋へ向かうよ。
鍵を開け部屋に入る。
椅子には座らずにベッドに腰かけた。
そして。
はぁ~~ぁ、お腹一杯だよ。
ここの宿に泊まって大正解だなぁ。
今日の駄目だった事も許せるよ。
うん!許せる。
そのまま。
ベッドへ後ろ向きに倒れ込んだ。
目を瞑り大きく息をする。
深呼吸かな。
すぅ~~。
はぁ~~。
そのまま静かにしていると、、。
あれ?。
ん?んん?
昨日はもっと。
外とか宿の中で。
色んな音が聞こえてたけど。
今は聞こえない?。
なんだか静かじゃない?。
まさか?。
ベッドから起き上がり。
窓の近づき、そっと少しだけ開けた。
部屋の灯りが外へと届くと。
大粒の雪がサラサラと音を立てて、、。
上から下へ落ちていた。
あぁ~~はははぁ~!。
なんだよ!。
これじゃァ大雪じゃ無いかよ。
パタンと窓を閉めて。
またベッドの上へ戻って来た。
さっき御者の人も言ってたし。
これじゃあ明日は駄目そうだよなぁ。
如何するかなぁ。
宿の外へ買い物へ行くのもなぁ。
ポーチと魔法袋の中には、、。
食べ物は一杯入ってるし。
う~ん。
あと他に要るの物は何だろう?。
防具の上着とかかな?。
あぁ。
ポーチと魔法袋の中って最近見てない?。
便利でポイポイと入れてるけど。
何が幾つ入ってるの分かんないや。
あぁ~見るのが怖い。
だけど見ておかないと、、。
ポーチから中を確認かな?。
腰のポーチへ手を入れて。
何が入ってるかをイメージしていく。
頭に浮かんできたのは。
鋼鉄の短剣 ・ 1<6+>「作・ドワーフ R・A」
鋼鉄の小盾 ・ 1<7>「作・ドワーフ R・A+」
ナイフ ・ 1<9+>「作・ドワーフ R・A+」
スケルトンの短剣 ・ 5<3>
木の棒 ・ 5本<>
小石 ・ 14個<>
木の実 ・ 5個
・・
服 ・ 11枚<>
服 ・ 9枚<>
布 ・ 3枚
布 ・ 7枚
敷布 ・ 1枚
長靴 ・ 1足<>
時の魔道具 ・ 1個
初級ポージョン ・ 1個<1>
テント ・ 1
・・
・・
・・
金貨 9枚
銀貨 117枚
銅貨 296枚
・・
・・
・・
金鉱石 239個
溶けた金鉱石 26個
銀鉱石 45個
溶けた銀鉱石 27個
銅の塊 2個
鉄鉱石 52個
溶けた鉄鉱石 34個
・・
・・
・・
パン ・ バスケット10
串焼き ・ 包み9
丸焼き ・ 包み8
チロルチョ・ 1個
削り節 ・ 1
・・
・・
あぁ~。
何だか記憶にないよ。
適当にやってると危険な香りが。
魔法袋の方には何が入ってたっけ?。
えぇ~と。
恐る恐る。
中に手を入れると。
頭の中に浮かんできたのは。
麻袋 1
銀貨 8枚
銅貨 133枚
魔石 1(極小)・12(小)
・・
金鉱石 26個
溶けた金鉱石 2個
溶けた銀鉱石 7個
・・・
・・・
鉱石類、、。
これはヤバいかも知れない。
あはは。
もう無理!。
着替えて寝よう。
お願いします「女神様」。
今夜の俺が。
悪い夢を見ませんように。
小声でお願いして。
ベッドに潜り込んだ。
なにがどうなってるのか。
本人にも分からなくなっていた。
ああ悪夢。