待ち人は来たるか
シンは停滞中
昨日の夕食で食べたパンは格別に美味しかった。
うん,間違いなし!。
1人で静かに食べる食事より。
ワイワイと多くの仲間と食べる食事は最高だよね。
でも、またパン屋さんに補給に行かないと。
宿屋の朝食をカウンターで1人、食べながら思案中。
パンと、、後は何が要るかな。
右ひじをカウンターに突き、手で頭を斜めに支えて。
トレーの横のスプーン?を左手の指の爪で弾いていると。
近くで声がした。
朝から飯を食いながら。
何で。そんなに難しい顔をしてんだよ、シン?。
何か困る事でも有ったのかぁ?。
俺を見下ろしてるジャスリーさんだ。
ははは。何も無いですよ!。
困りごと何て。
ただ、自分用のオヤツに買い込んでた美味しいパンを。
チョット間違えて孤児院で出しちゃって。
孤児院のみんなと夕食に食べちゃったんですよ。
それが、、は~ぁ!。
俺が右手で両目を覆うと。
なんだよ!。
食い物の、、パンの事か?。
そんなのは良いじゃ無いかよ。
仲間と旨いモンガ食えたんだからな。
はは。
ジャスリーさんが俺に向かって。
こう、カウンター越しに笑って言ったよ。
確かにそうなんだけど。
あの時のパンにはもう会えないから。
たぶん。
あのパンは特別美味しかったから。
はぁ。
話を聞いたジャスリーさんが離れていく。
その後も、1人カウンターで。
最後のハーブ茶をゆっくりと飲んでいると。
少し離れた後ろのテーブルから。
4人の商人さん風の人達の話が聞こえて来た。
普通に話してる、だから良くは聞こえないけど。
商売の事かな?仲間と会話してるよ。
明日は。早朝からロドラへ向かおう。
ああ。私もそれでいいよ。
予定の仕入れは終わってるからね。
まぁ、、。
俺も済んでるから問題ない。
アッチで、良い値で売れると良いがな。
今回の荷は重い金物が多いからな。
移動には余計な時間が掛かるだろう。
途中の野営が些か心配だな。
まあそこいらは、、。
護衛を雇ったから問題無いだろう。
中堅で悪い噂のない3人組の冒険者だ。
ああ良いな、楽が出来るか?。
聞こえて来た話は、商品の運搬?かな。
商人さんも大変だ。
アッチでも。
ロドラのラビリンスの御宝の出物に。
アリ付ければ上々なんだが。
さて、、どうなるか。
、、数が出れば良いけどなァ。
ラビリンスが有るんだ!。
いいなぁ。
聞こえる声が次第に大きくなってくる。
噂の又聞きだから分からんが。
最近になって、良い魔道具が出るらしいぞ。
ああ私も耳にしている。
上位パーティーの探索の階層が深くなって。
多少だが当たりの確率が上がって来てるとさ。
、、噂だが良い事だろう?。
ラビリンス産の魔道具か。
、、さて!俺達のも運が向いてくるか。
数日後が楽しみだな。
ああ、、。
ふふふ!。
何かしら拝みたいものだ。
そうよな!。
さしあたって。俺は今の魔法袋を大きくしたいが!。
はは!。
それは強かに金が掛かるぞ!。
むろん承知の上だ。
自分の商売を大きくしていくには。
掛けも大きいのが必須だろう?。
ああ、御明察!。
然り。
また声が聞き取りにくくなった。
おっ!ラビリンスが有るんだね。
ロドラって、確かここの隣町だよねぇ。
うぅ~近いのかなぁ、遠いのかなぁ?。
ふ~う。
まあ今は良いかな。
アルロ待ちだし。
御馳走様でした。
お金はココに置きますね。
おうよ!。
階段を上がり部屋に戻る。
さてと。
昨日買った服の感じを確かめてみて。
う~~、合うかな?。
良かった。
どの上着用の服も大丈夫そうだよ。
ズボンの裾の長さも何だか誂たみたいだ。
上着も、肩とかが窮屈にならずに済んだよ。
しっくりと着心地も悪くない。
へへ!運が良かった!。
俺の服の見立ても上々だな。
ズボンは新しく買った厚手の物で。
上着を普段用の元の物に着替えていく。
うん!これで少しは耐寒性が上がったかな。
まあ寒いのに変わりは無いけどね。
さてと今日も、また買い物に出掛けますか。
先ずはパンと、、。
階段を下りて行き。
俺!出かけますから部屋の鍵です。
おう!確かに預かった。
行ってこい。
宿を出る時にテーブルの方を見たけど。
さっきの商人さん達は既に居なかったよ。
昨日と同じようにパンを購入してから。
冒険者ギルドに顔を出してみた。
道から1段の段差をサッと蹴上がり。
そのまま、す~っと入口を抜けると。
あっ!シン君だ。やった!。
偶々だろうけど。
受付嬢のヒビカさんがいた。
ロビーの掲示板に依頼表を張り出していたよ。
足音で入口へと振り返ったんだろうけどさ。
俺を見つけるなり名前を言われて。
ビックリだよ。
ヒビカさん。
ラビリンスから帰って来ましたよ。
また、ここで新前冒険者しますからね。
宜しくですよ。
すると、ささっと俺の横に来て。
俺の姿をキョロキョロと見回しているよ。
お帰り!。
良かったわ怪我も無く無事みたいね。
じゃあ。シン君はまた、いつものお仕事ね!。
ふふふ!良い事だわ。
そんな事を言いながらカウンターの向こうへ。
ツカツカと歩いて行ったよ。
いつものお仕事、、。
あれかな?。
今の時間のギルドは空いているから。
俺がカウンター越しにヒビカさんの前に行くと。
ふふ。
シン君!早速で悪いけど。
アレを掘ってきて!イッパイでお願い。
その依頼表は今から書くから待っててね。
目の前で。
小さな紙にスラスラと仕事内容を書き込んでいく。
そして、サッと俺に渡してきた。
はいシン君!これが今日の野芋の採取依頼表よ!。
依頼内容を確認して、問題無く出来るなら。
ギルド職員の私に提出してちょうだい!。
うぅ~!時間が勿体ないわ!。
さあ、さあ。
早く!。
ヒビカさんの態度だけど。
何だか前よりも切羽詰まって無いかな?これは。
確か野芋の採取する人数は増えたはずなんだけど。
何でだろう?
ヒビカさん?。
今の野芋の採取って人が増えてますよね?。
前よりも量は一杯取れてるんじゃ無いんですか?。
最近アルロ君と仲間の子達が居なくなってね。
1日に数個だけ、前の量に戻ったのよ。
あぁ~。
あの大きな野芋達は夢だったのかって、。
私の友達たちと嘆いているの。
だから今は悲劇的な状況なのよ!。
あぁ~~!。
シン君!。
もう私ね。3日は食べて無いのよ!。
ねっ!大問題でしょ。
だから、早く!。
シン君なら。
今から出ても片手以上の数は採取できるでしょ?。
俺は驚きつつ依頼書をヒビカさんに渡して言ったよ。
野芋の採取依頼は受けますよ。
はいこれ。
じゃあ行ってきますね。
シン君お願い。
野芋、いくつでも良いからね。
ヒビカさんに挨拶してギルドを出る。
芋堀道具のスコップ?だけを借りて魔法袋に入れる。
さて、久しぶりにあの場所へ行きますか。
町の中を進み、門を抜け街道を暫く歩くと。
川へ向かって森の方へ1人逸れていく。
まあ、見回しても街道には人影は無いけどね。
草原を向け河原へ緩い坂を下りていくと。
シャラシャラと流れる水面の音が聞こえてくる。
最後にきつい断崖を下りて河原へ到着だ。
おぉ~!、アルロ達の芋堀の跡が分かるじゃん。
これは結構な幅で掘ったなァ。
コレだけの量を掘ってギルドに収めてたのが無くなると。
はは。確かにヒビカさんが悲しむわけだ。
俺も今日からは、また頑張って掘りだしますかね。
それからは休憩もソコソコにして、芋堀だった。
勿論!昼の食事は美味しいパンだよ。
2個も食べちゃったよ、最高。
俺は、午後からも頑張りました。
午前中に4個を掘り出して、午後は6個掘ったよ。
へへへ!10個も掘っちゃったよ。
これはヒビカさんに自慢できるでしょ。
夢中で掘ってたから空が赤くなるまで河原に居た。
ふぅ。夕暮れが近づいてきたので撤収だよ。
河原を離れ草原を進み街道を歩いて町へ帰る。
町の門を抜ける頃には、既に空は濃い群青色になり。
多くの星たちがキラキラと瞬き始めていた。
町中の雑踏は雑音だらけで寒さを忘れさせる。
ギルドに入ると多くの冒険者で賑わっていたよ。
宵の口だ、皆が依頼を済ませ帰って来ている。
ヒビカさんの窓口も多くの冒険者が並んでいるよ。
俺も躊躇いながらそこの列に並んだ。
周りの冒険者をコソコソと見渡すと。
麻袋を持っている人が多い事に気が付いたよ。
小声で。
あっ、イケね。
忘れてたよ、やっちゃった!。
つい、野芋を魔法袋に入れて来ちゃったよ。
もう麻袋に入れ替えられないじゃんか!
俺ってバカだ!。
暫くして俺の順番になった。
あら?。
あらら?。
シン君?採取した野芋は何処にあるの?。
まさか!無しじゃ無いわよね。
ヒビカさんが驚愕の表情で俺を見詰めてくる。
いやぁ~。
野芋は在りますから安心して下さいよヒビカさん。
野芋を載せるトレーを出してください。
サッとカウンターの上に見慣れたトレーが置かれた。
もうしょうがないよ。
右腰に下げてる魔法袋に手を差し込み野芋を持った。
1,2,3,4,5、、、。
途中でトレーが追加されて。
2枚のトレーに10個の野芋を積みあげた。
ヒビカさんの目がウルウルしている。
コレが今日の野芋の収穫ですよヒビカさん。
買取をお願いします。
俺の声に、ハッとしたヒビカさん。
シン君?えぇ~と今?何処から出したのかな?。
君は、何も持って、、、。
ん?。
そこまで言ってヒビカさんは口を閉じた。
野芋の買取ね、待ってて頂戴。
後ろの女性を呼んで、2人で野芋を移動させているよ。
この前も手伝っていた人だ、俺を見て驚いている。
ヒビカさんが直ぐに戻ってきた。
シン君、ギルド彰を出してちょうだい。
お金は?預けるの?持って帰る?。
あっ、ギルド彰に。
はい、これにツケて下さい。
ヒビカさんにギルド彰を手渡すと。
わかったわ、待ってて。
はいこれで終わりよ、ふふ今日は凄いわね。
で?明日は?。
明日も野芋堀に行きます。
俺は数日の間、野芋堀ですかね。
そう。
それは楽しみだわ。
直ぐに答えてカウンターを離れた。
後ろで並んでいた冒険者の男性が。
俺の顔をジッと見ていたよ。
やっちまった!。
気を付けて魔法袋を使う予定だったのになあ。
俺はホントに間が抜けてるよ。
でも、流石ギルド職員のヒビカさんだ。
俺が思わず使っちゃった魔法袋にも。
それは?と声を出しそうになってたけど。
一瞬で雰囲気を切り替えてたな。
打ちひしがれテクテクと道を歩いて宿を目指す。
はぁ~、既になった事は諦めよう。
明日の野芋だ!。
宿に着いて部屋の中へ入り、丸椅子に座る。
「清浄」
はぁ~今日は疲れたなぁ、温かいお風呂に入りたよ。
まあ無理なんだけどさ。
諦めて軽装の普段着に着替える。
さて今日の夕食は、、。
宿の食事にしようか、パンと串焼きで済ますか。
悩んでいるよ。
結局は部屋で夕食をサッと済ませる。
あぁ~!まだ暖かい串焼きが旨い。
パンも旨い。
このメーカーのレモンティーも甘酸っぱくて旨いなぁ。
ついさっきに、つい。
「創生」。
右手に冷えたペットボトルが現れた。
黄色いラベルのレモンティーだ。
消費魔力は、6減っていた。
60円程で買った事が有ったのかな、何時頃だ?。
魔力の残りはえぇ~と、チョコチョコ使ってるからなァ。
魔力 48・227
今日は、後で35貯めても良いかな?。
魔力を13残してれば、何も無いし大丈夫だよね。
もう寝る準備をして、明日に備えよう。
あっ!ギルドにスコップ返し忘れてるじゃん!。
明日お金を払って謝らないとイケないかな。
頭の中がグルグルしてきた。
あぁ~眠い。
次の日も朝から昨日の失敗を片付けて芋堀に励んだ。
その成果は野芋が12個だよ。
ヒビカさんは良い笑顔で俺の対応をしてくれた。
魔法袋の事は触れて来ないよ。
次の日も朝から芋堀だ。
成果は野芋が13個。
ヒビカさんはにこにこだ。
アルロ~!。
早く帰って来てヨ。
翌日、今日も13個。
俺は1人で4日続けて芋堀だよ。
流石に飽きて来たヨ、1日休むことにした。
ヒビカさん明日はお休みにしますから。
疲れたので野芋堀はしませんよ。
自分用の買い物もしたいので休養日にします。
それを聞いたヒビカさんの顔は。
カウンター越しでも分る位に、ピシッと固まった。
ギルドを後にして宿へ帰る。
宿泊代金の延長分を支払っておかないとかも。
あぁ~ヤル事が多いなぁ。
あぁ~だって、だってさ。
アルロが帰ってこないんだもん。
それに必需品の買い物だよ。
パンの補給と串焼きも多めに補給しないとね。
無いと俺のモチベーションが下がるんだ。
あぁダンケロさんの所にも行きたいなぁ。
俺用の防具の小盾の事も聞きたいよ。
孤児院にも行きたい。
あは!野芋も持って行かないとなぁ。
女性陣が大喜びするからね。
それにまたパンを買って夕食を共にしたいなぁ。
あの賑やかさが良いんだよなぁ。
そうだ!。
あそこにも報告に行かないとだよ。
皆が俺を待ってるじゃ無いかな。
アルロは帰らず。
さて、あっちは上手く行ってるのかな。
4人グループなんてさ良いよね。