第一話「異世界へと爆誕、お家へ帰してください」
―迂闊であった。それはまさに一瞬の出来事であった。
師走が近くなると大学というものは嫌というほどレポート課題を出してくる。それにぶつくさと文句をたれながらキーボードを叩くというのが大学生というものである。
例にもれず私もここ数時間、ワードと睨めっこしながら取るに足らない題材を必死に盛り上げて、水増し水増しの努力をしてきたのである。
だがもう限界。そろそろ一息入れよう。キッチンへ向かい、すかすかの冷蔵庫を開けた。そう、それこそが私の最大の過ちであった。電子レンジで缶のおしるこをチンしてしまった。おしるこを飲むことに夢中になっていた私は、熱を帯びて膨張し爆発寸前になっているおしるこの缶に気がつかなかった。それからはもう大惨事である。破裂した缶は四方八方に欠片をまき散らす。缶はそのうち一つ、プルタブを私の脳天に突貫せしめ、即座に私を絶命させてしまった。現世からは以上です。
さんさんと照りつける太陽が瞼を通り抜ける。嫌というほど暑苦しい。ふむ、私はおしるこに殺されたと思うのだが、はてさてどうして芝生の上に倒れ込んでいるではないか。体を起こしてみると、まったく長閑な平原が広がっている。はるか向こうには45度ほどの角度を以て切り立った山なんだかあるいは崖なんだかわからないものが連なっている。そしてその標高は雲より高く、まるで天を刺すかのようにそびえているのである。
「どこだここは?!」
口をついて出た言葉はそれである。私がいるはずなのはさして広くもない、それでもって日当たりもよくない家賃4万ちょっとのボロアパートであるはずなのだ。それがどうしたことか。まるでファンタジーの世界である。よく見りゃそこら辺の草からは黄色く光るパーティクルがかげろうのごとくたなびいている。
「これは…夢?というか、異世界?」
どこも神様仏様か知る由もないが、スチール缶に殺されたバカを異世界に転生させる寛大な存在があったようだ。これからは万物に謝意を込めて生きるとしようではないか。なお夢の可能性は疑いもしない模様である。さすが文系大学生。
しばらくそこいらを歩いていると、少し離れたところに小さな集落があるのが目に入った。これはフラグが建ったに違いあるまい。よし、あそこから私のハーレムチート生活は始まるのである。
「縺ゅ↑縺溘?√←縺ェ縺溘〒縺吶°?」
う~ん!言葉が通じないとは思っていなかったぞ!ハハ!