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戒め①(ベルトラン視点)



 賑やかだった商業エリアの屋敷から、一台の豪華な馬車が王城へ向けて出発した。

 馬車の上部に取り付けられた家紋はモンテカルロ公爵家のものだ。

 王族の馬車を使ってはさすがに目立つだろうという配慮だったが、ベルトランとアリステラがカンザナイト家に訪れたことは、既に街中が知るところとなっていた。

「楽しかったですわね、ベル様」

「そうだな」

 少し酔っているのか、頬をほんのりと染めたアリステラが、嬉しそうに口元を綻ばせながらベルトランを見つめる。

 ルビーの婚約破棄を知ってから、ベルトランにさえも呪詛を吐く勢いで怒っていたアリステラだったが、吹っ切れた様子の親友を見て漸く落ち着いて笑えるようになっていた。

「ベル様の言うように、あんな男と別れられたお祝いというに相応しいものでしたわ」

「いかにあいつが、いやカンザナイト家が慕われているのか分かると言うものだ」

 事実、後から後から平民貴族を問わずにカンザナイト家にやって来ていた。

 中にはアルビオンの結婚式に出席した後に来た者もいたが、どうやらアルビオンは出席者に花嫁変更の件を伝えていなかったらしい。

 学院時代の顔見知りが疲れたように愚痴っていたのを耳にしたロイドが、お疲れさま~とグラス片手に近寄って情報収集していた。あの男を魔具部門にしているのは勿体無いと思ってしまう能力だ。

「ところでベル様。カンザナイト家が男爵位を叙爵される件についてですが…」

「心配か?」

「はい」

 一部の貴族の間では、成り上がりと言われる程にカンザナイト家は目の仇にされている。

 というのも、ルビーの祖父が準男爵位を受けてから、カンザナイト家の勢いが留まることを知らないからだ。

「お茶会でいらない忠告をして下さる方がいらっしゃって…」

「忠告?」

「ええ。ルビーがベル様を狙っているそうですよ」

 苦笑を漏らしながら、馬鹿げた話をするアリステラは少し疲れた顔をしている。

「有り得ないだろ?」

「そう言ったのですが…」

 今回のこの婚約破棄騒動は、ルビーが仕組んだものだと言うのだ。

「あの男からベル様に乗り換える為だそうです。だから、今のうちにカンザナイト家を懲らしめましょうと言われましたわ。まぁ、一蹴して差し上げましたけど」

「……どこの家だ」

「ファーミング侯爵家ですわ」

「ポーリン嬢か?」

「ええ」

 夜会の度にいつも纏わりついてくる令嬢の名を出せば、アリステラがため息交じりに頷いた。

 ベルトランの婚約者の座を狙っている彼女は、アリステラとルビーの共倒れでも目論んだのだろう。

 更に、あの家も王都で大きな商会を営んでいるが、ここ最近は不景気で余り商売が上手くいっていないと聞いている。だからこそ余計にカンザナイト家を落とすチャンスを常に狙っていると思われる。

 だが、カンザナイト家をどうにかしたところで、ファーミング侯爵家の商会が持ち直すとは思えない。

『ありゃダメだわ…』

 それは、冷やかし半分で店に行った時のロイドの言葉だ。話を聞く限り、平民というだけでそれはもう酷い対応をされたらしく、あんな商売をしていればその内潰れるだろうと断言していた。

 ロイドは別に汚い格好だった訳ではない。王宮魔術師としてそれなりの給金を貰っているので、一般的な平民よりは遥かに良い物を着ていたのに、店に入った瞬間値踏みされ、商品を見る間はずっと背後に張り付かれていたと言う。

 たまたま入ってきた貴族の知り合いと話してから急に態度が変わったけれど、印象は最悪になったと言っていた。

『貴族向けの店は何軒か回ったけど、あそこが一番酷かった』

 婚約者であるエミーリャの為の誕生日プレゼントは、結局カンザナイト商会で買ったそうである。

「ロイドさんは色々と精通してらっしゃるわね」

 感心したようなアリステラの言葉にベルトランも大きく頷いた。ロイドは絶対に諜報機関に所属するべきだと思う。

「そもそも、どこをどうして俺とカンザナイトの仲を邪推出来るんだ?」

「平民であるルビーやエミーリャがベル様と親しくしてるのが気に入らないのですわ。ロイドさんを含め、三人とも素晴らしい人物だからこそ親しくさせて頂いているというのに、何も知らない外野が本当に煩いことです」

「全くだ。あいつらの今の地位は努力あってのものだ。それに、あいつらからの意見は、俺たちも学ぶべきことが多い」

「ええ。平民の生活が分かるというだけでなく、何をどうすれば人のためになるのかを考えさせられることが多いですもの」

 だが、その意見そのものが気に食わない連中が多い。

 平民の癖に生意気なのだそうだ。

 下らない。

 事実、ベルトランはあの時、平民であるあいつらの意見を聞かなければ、今こうしてアリステラの隣には居られなかっただろう。

「ノータリン王子か…」

「あら、懐かしい呼び名ですわね」

「時々思い出して自分を戒めている」

 この一言を聞かなければ、今頃自分はどうなっていただろう。

 それを考えると、身震いがくるほどの寒気が起こる。

 そして、あの時引き返すことが出来て良かったと、心から思うのだ。


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