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destiny [1]  作者: 君島 隼人
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プロローグ

下には群がる2つの軍勢、そしてその半数を占める屍、大地は血に溢れ、空は曇天、酷たらしい情景だけが広がる世界で雲の隙間から溢れた一筋の光に照らされたのはただ1人。

ただの一振りの刃、それを天に向け剣を構えた1人の青年であった。

宙に浮き、互いが向き合う形で存在する2人。下の戦場には目もくれず、ただただ目の前の青年にだけ目線をやる男性の老人。そして、剣を構える青年にこう問いかける

「貴様が死神か。このような形で伝説のような存在を目にすることになるとはな。なぜ、ここに来た?この戦場に死をもたらしにでも来たか。それともこの戦の結末を見届けにでも来たのか?…なぜ黙っている!なにも答えぬつもりか!」

捲し立てる老人の声には明らかに恐れが混じっていた。目の前の剣を持っているだけの青年に対する恐れであることは老人自身理解していた。額に流れる汗すら拭うことができない、青年から少しでも変化があれば対応できるよう全神経を研ぎ澄ますだけで精一杯だった。しかし、青年は剣を構えたまま微動だにしない。それどころか何も感じないのだ。魔力はおろか気配すらない。目の前にあるのは虚像なのではないかと期待したくなるほどに。

老人は考える。

(先手を打ち、畳み掛けるべきか?400も生きて、何をすればいいのかわからないなど、初の経験だ。もし、やつが魔力を一時的に全て抑えているのであれば、最初の一撃を咄嗟に防ぎきることはできぬはず、そこに賭け、最大火力で先制を仕掛けることができればあるいは…)

その時、青年が口を開いた。

「戦争を終わらせに来たんだ。」

老人は感情からか即答した。

「貴様がか?死神などと呼ばれるくらいだ、高いことを口にしても不思議ではない…ないがな!傲慢も過ぎたな!戦争を終わらせる?1人の能力者風情が戯言を!」

続けて述べようとする老人を遮る。

「そう言われても、俺、能力者じゃないしな…まあ、今にわかるさ。ただの一太刀で終わる。この目で結末は見た。あとはそれを辿るだけさ。」

淡々と述べる軽口、誰だろうとその飄々とした態度に同じことを思うだろう。馬鹿にされていると。

自身の恐れを見透かして、足元を見ている。そう感じて激昂するまでに秒の単位は必要なかった。

右手を青年に…いや、死神に向ける。

全魔力を注ぎ込んだ最大火力で放つ無詠唱魔法。

「大魔弾王手!」

直径3メートルはある濃い紫の禍々しい砲弾が瞬間的に現れ、瞬間的に右手から放たれる。青年との距離はおよそ20m。対して大魔弾王手の速度は100m/秒ほど。故に一瞬、青年の手前で爆発し、火の砲弾の10倍はある紫の爆炎に巻き込まれる。爆炎は凄まじく。戦場の兵士は皆、敵味方共々自分達を黒く照らす太陽が如き爆炎を見上げる。

戦況を知るため、戦場から横に数キロ離れた山の山頂付近から老人と死神を青く光る肉眼で観察する青い髪の青年が洩らす。

「おかしい…あの魔法は直撃してから爆発を起こすはず、今、少し手前で…」

同じく爆炎に巻き込まれ、服のみが焼けて、ボロ雑巾になっている老人が勝利を確信し、高笑いをあげる。

「ふはははは、死神と言えど、この距離で禁忌を食らえば二つ名すら残らんであろう!私が自身に強化を積んでいることに気づいていれば、まだ防御くらいはできたかもしれぬのにな!」

誰にも応えられることはないと思い放った独り言は独り言ではなくなった…

「その魔法、確かに高速で高威力だけど、そもそもそれバインド(拘束系)魔法なんだよね。知らなかった?」

顔が引きつる老人。声の状態からして、明らかに無傷。信じたくない、あって欲しくない。脳がひたすらにその事実を拒否し続ける。

死神は無傷であった。それどころか服すらダメージを負っていない。まるで何もなかったかのように彼は続ける。

「それじゃ、続けますかね。」

そういうと、死神から膨大な黒紫のオーラが全身から吹き出る。それを剣にひたすらに注ぎ込む。力を得たのか刀身は凄まじい速度で巨大化し、やがては空を裂いた。老人の顔からは血の気が引き、一気に青ざめるのが分かる。そして、小声で呟く。

「なんだ、その魔力は…黒紫の魔力など見たこともないぞ、それではまるで悪魔の使うそれと同じ…それに剣を巨大化させる魔法など聞いたこともない…貴様は本当に能力者か?」

怯える老人に優しく教える。

「言わなかった?俺、能力者じゃないよ?これも魔力じゃないしね。それにこの剣も…知らないか。まあ、いいや!外野の視線も痛くなってきたし、そろそろ終わりにしようか!」

老人がその言葉で下を見る。そこには敵味方関係なく、絶望に打ち拉がれた兵士達。兵士達は剣を振り上げる気力すらもう持ちあわせなかった。同じような表情を浮かべた彼らはその絶対的力の差にいったい何を見ていたのだろう…

そして、巨大化が続いていた剣、その大きさは最早老人の位置を超えて刃が聳え立っていた。軽々と持つ死神は後方へと大きく跳び、上半身を大きく捻り、剣を振り下ろす!

「さよなら!」

剣が大群、そして老人目掛けて振り下ろされた。

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