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随筆の世界  作者: やま
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第三章 反省している時の表情のようだ

【第三章 反省している時の表情のようだ】

「さあ、読者よ! 私とゲームを一つしようではないか。ではルールを説明しよう。私は今からここにある箱から一つ紙切れを取り出し、それを貴方には見えないようにする。貴方が5つ質問し、私がそれぞれ正直に答える。そしてその後、紙に書いた言葉を当てるというゲームだ。簡単だろう。では私は紙を引こう。」がさごそり。私は「イヤホン」と書かれた紙を引き、読者に見えないように隠す。「さあ、尋ねるが良い。ふむ、いや、生物ではない。そうだ、大抵、皆が持っているものだろう。いいや、勉学には関係ないものだな。いいえ、軽いものだ。その通り、食べ物だ。」さて、質問が終了した。「では読者よ、以下から正しい回答を選んでみよ。」

1.イヤホン

2.イヤホン

3.イヤホン

「素晴らしい! そう、正解はイヤホンだ。少ないヒントでよくぞ正解した。読者は聡明だ。貴方は類稀なる才をもったお方に違いない。」ゲームは終了した。おや、このゲームはフェアではないと仰っしゃりますか? ではもう一度ゲームをしましょう。

「さあ、読者よ! 私とゲームを一つしようではないか。ではルールを説明しよう。私は今からここにある箱から一つ紙切れを取り出し、それを貴方には見えないようにする。貴方が5つ質問し、私がそれぞれ正直に答える。そしてその後、紙に書いた言葉を当てるというゲームだ。簡単だろう。では私は紙を引こう。」がさごそり。私は「イヤホン」と書かれた紙を引き、読者に見えないように隠す。「さあ、尋ねるが良い。ふむ、いや、生物ではない。そうだ、大抵、皆が持っているものだろう。いいや、勉強には関係ないものだな。いいえ、軽いものだ。その通り、食べ物だ。」さて、質問が終了した。「では読者よ、以下から正しい回答を選んでみよ。」

1.イヤホン

2.イヤホン

3.イヤホン

「素晴らしい! そう、正解は幼女の舌だ。少ないヒントでよくぞ正解した。読者は聡明だ。貴方は類稀なる才をもったお方に違いない。」ゲームは終了した。おや、このゲームはフェアではないと仰っしゃりますか? ではもう一度ゲームをしましょう。

「素晴らしい! そう、正解は貴方は類稀なる才をもったお方に素晴らしい!」「素晴らしい! そう、正解はイヤホンだ。少ないヒントでよくぞ正解した。読者は聡明だ。貴方は類稀なる才をもったお方に違いない。」ゲームは終了した。ゲームは終了した。ゲームは終了した。したのだ。ゲームが終了したのは一体誰が初めたゲームなのだろうか? 本文を書いている私なのか、本文で語っている私なのか、本文を再構築する私なのか、いずれも腑に落ちないのが正直なところであると私は、私は? 私は創造神である。私の名前は地獄沢天之助。私は創造神だったのだ。しかも少ないヒントでよくぞ正解した。私は類稀なる才をもったお方に違いない。私の名前はるまい。地獄沢天之助は私であり、私はるまいの名前は地獄沢天之助。年齢は忘れた。「さあ、読者よ! 私の名前はるまい。あなたの名前は何ですか?」「私の名前はるまい。」そう、「私」という言葉は、発言者が自身を指す言葉なのであって、それ単体が誰か特定を指すということはありえない。だが本文では「私」といえば、私しかいないのである。いや、私は三人以上いるのである。ならば「私」という言葉は発言者が自身とそれ以外を指す言葉なのであって、すなわち私の名前は地獄沢天之助でありながら、るまいでもある。るまいは、私の名前なのかもしれない。ではこれより、小説らしい私の人生を赤裸々に告白しようではないか。

 私の名前は地獄沢天之助。人を殺める会社に勤めて早10余年である。毎日が陰鬱で仕方ない。朝に起床し、昼に飯を食い、糞をし、夜に人を殺す生活を送っている。配偶者はいない。人並みの愛情などを抱いた経験もかつてあったようだが、それを凌駕する暗黒の津波が毎夜私の鼻先からみぞおちにかけてを襲うために、私はるまいとなり、よって人を愛するということに苦手意識を持つようになった。好きな食べ物は納豆である。毎日が陰鬱で仕方ない。では、間もなく死ぬ人間の自己紹介はこの辺りにしよう。場面はとある起床時(そもそも毎日が同じであるため、元よりそれらを区別などできない)である。

 心の一番深いところにまで強烈に届く朝の光が絶望を私に伝える。すなわち私は覚醒した。カーテンを開けっ放しにして眠ってしまったがゆえの失策だった。私は半覚醒の脳みそであっても、この光だけはなんとしても遮らねばならぬ、そういう使命感に駆られて、カーテンの一番端を掴んでそれを閉じる。薄暗く、むしろそれが私の不安を増幅させてしまった。ああ、まだ眠っていたならばこのような辛い思いはなかっただろうに、またもや失策である。朝になったということを責め立てる日光のせいで、私の一日が始まった。まずはこの世に別れを告げるために歯を磨き、それからまた布団の上に尻を下ろし、しばし深呼吸する。定期的に換気をする習慣がない私の部屋は光量だけでなく、どこか雰囲気も重く暗くなっているため、常に耳鳴りが起こっていた。私は深呼吸しながら耳鳴りの悲痛な訴えを数分から数十分静かに聞き入れ、そしてすべてをバラバラに破り捨てて、外出を断行した。身なりなどは興味がなかった、ゆえに寝間着のままである。それでも足の裏は守らねばということでサンダルは履いている。家と外を区切る最後の壁はあっけなくその口を開いた。それに気づいて私はまた絶望の念に駆られた。

 手短に言うと、外の世界はカラフルである。特に黄色が多い。その他黒や青、血の色、黄緑、焦げ茶などの色彩がうにょうにょと視界を支配し、そのうちのいくつか、具体的には30%ほどに釣り上がった目とおちょぼ口がついていた。皆がケラケラケラケラ笑い、私を恐怖のどん底へと押しやっている。つまりいつものことだった。仮にそのうにょうにょを「るまい」と名付けよう。るまいはそれぞれが画面内を絶えず主張し合いながら、それゆえに隙間なく私へと近づきながら監視し続け、心臓が動くようにぐるぐると回っていた。私はあまりの恐怖にその場にしゃがみこみ、目と耳を渾身の力でふさぎ込み、大声で怒鳴った。「るまい、るまい、お前の名前はるまい。私はるまいではない。お前の名前はるまい。」すると不思議なことに、るまいは眼前からふっと消え去っていく。私は今までずっと眠っていた心の奥の私を揺り起こし、それから足許の地面を掘ることにした。両手の指と爪だけではなかなか掘りづらい。このままでは埒が明かないどころか、指が根本から腐ってしまう気がして、私は掘ることをやめた。どうせ何も埋まってないし、どこにも通じていないからである。私は何者からも見放された哀れな蛆虫だからである。

 私は実は一日中血の出るシンクで手を洗って葉っぱを食べたりもしていたが、夕方になって死のうと決めた。手元にあるのはどうでもいい棒切れと見慣れた風景からは想像もつかないほど長いと、風を顔面に浴びるのみである。カラフルな鏡が足に突き刺さった。鏡は肉を一瞬で突き破り、その鋭利な先端で難なく私を傷つけた。それでも、死ねるならば、幸せである。自宅に戻り、尻の穴から顔を出しているるまいはとっくに食べてしまった。私はなぜかここにいて、るまいはなぜどこにもいないのか。私はどうしようもなく、むせび泣き、あぐらをかいて、鮎の塩焼きを頭から食べ始める。自分の食べたものが腹を通り、だんだんこの世ならざるものへと消化されて行く様をしかと見届け、そのうち私も同じようにベチャベチャのぐちゃぐちゃになるのかなと、また泣いてしまった。では、私の今食った芋虫はどうなるのか。では、私の今食った鮎はどうなるのか。ぐちゃぐちゃの中のぐちゃぐちゃに、まるでそれらが初めから意味を成さないものであるかのように変貌するのだと思うと、私は愉快でたまらなくなり、腹を抱えて笑った。鮎と蛆虫と芋虫とるまいも腹の中で笑っているようだ。私は自分の喉元に縄をかけ、あした天気になあれ。

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