そもそもどうして僕は冷静なんだろう
時は淡々と過ぎていく。「彼」の種族の住処に変化はない。結構時が流れたと思うが、「彼」が一番年下なことには変わりはない。僕は相も変わらず「彼」の目を通して周囲を眺めている。飽きることもなく。
いや、何故飽きることもなく眺めていられるのだろう。毎日毎日変わりのない景色、会話もない。いつか来た森の民の会話位しか理解出来た言葉もなかったというのに、何故僕は平気なんだろう。
一度死んだことがあるからって、冷静すぎないか。というか、普通死んだらそれで終わりじゃなかったけ。死んだ後に起こったことって、あぁ死後の世界でなんか言われて転生されたんだった。あの時僕は何を望んだんだろう。
「剣と魔法の世界って、貧弱だったら生き残れないよな。切られようが魔法で襲われようが、そうそう倒されないタフさが欲しいな。あと、できれば長生きできて温和に暮らせると。」
うん。そうだった。そんな事を望んだった。確かに「彼」の身体は頑丈の様に見える。岩で出来ている身体に傷をつけるのは、そう簡単なものではないだろう。暴風雪や雷雨にも平然としているってことは、寒さや電撃の耐性もあるんじゃなかろうか。岩だから素肌よりも炎には強そうだ。
確かに僕が望んだタフさを体現している様に思える。「彼」の中で過ごすようになってから、「彼」の仲間が減った記憶もない。となると、「彼ら」は長生きな種族なんだろう。そして温和な事も間違いない。
あれ、ひょっとしてこの種族、僕が望んだ通りの種族なのか?ならば、何故僕は「彼』の中に隠棲することになったんだろう。本来、「彼」は僕だったんだろうか?
でもなぁ、岩を食べるのは無理だし、「彼」の言葉~スピリット・タン~は話せないからなぁ。「彼」の仲間と意思疎通が出来ないのでは、暮らして行くのは無理だったろうし。
こうやって引きこもって過ごしているのも悪くはないのかもしれない。いや、良くもないんだが。