岩精霊《トロウル》を選んだ僕が馬鹿でした
身体の自由を失ってから結構な時間が経っていた。自由を失ってしまったものの、「彼」が見聞きすることは全て僕も感じられる。僕はどうやら「彼」に憑依することになっていたのだろう。だが、砂利を食べるのを拒否して逃げた時に憑依先の精神~「彼」~に体を取り返された。
悔やまれるといえば悔やまれるが、「彼」の生活を見ていると今の状態でいいのかもしれないと思えてきた。下手に憑依して過ごしていたら、僕の神経が持たなかったんじゃないか。「彼」の暮らしを見ていてそう思ったのだ。余りにも文化が違いすぎる。
まず、「彼」は人間ではない。身体は岩でできている。だからなのか、衣服の類は身につけていない。動きは鈍重だが力はとても強いように感じられる。岩をべりべり剥がしてがりがり食べているのを見ると、到底非力な種族とは思えない。
生活サイクルは一日以上、それこそ人によって異なるようだ。「彼」は三日起きてぐっすり寝る。どれくらい寝ているのかはわからない。「彼」が寝てしまうと、外で何が起きているのかさっぱりわからなくなるからだ。「彼」とよく一緒にいる「黒い岩」は、二日動いて一日寝ている。寝ていると言っても、そこらの地面にごろっと転がったり、手近の岩に寄りかかっているだけだ。
寝てしまうと、ちょっと見では普通の岩と区別がし難い。これ、間違って食べられることはないんだろうか。ちょっと気にして「黒い岩」が寝ている時に注意していたんだが、間違って食べてしまうことはないようだ。どうやら、寝ている仲間と普通の岩の区別は出来ているらしい。
常に野宿して、岩を食べるだけの生活。しかも、聞いたことがない言語での会話。いや、これ憑依して生活していたら、絶対初日で詰んでいたと思う。
岩を食べても、特に排泄する様子はない。食べたものは全部吸収しているみたいだ。なに、この効率が良すぎる生物。一次産業自体なくても暮らしていける。武器らしいものもないようだが、何かあったら素手で殴るだけで片付きそうな気もする。ひょっとすると力だけならザンスのオーガーと五分だったししないか。この種族。
ひたすらタフで、食事にも苦労しなくて、ぼーっと日向ぼっこすることが多くて。農業も工業も必要ないのか「彼」らって。動物が「彼」らに手を出すこともないだろうし。ゆったりした暮らしが出来る種族の「彼」の中でのんびり過ごしている僕は、ひきこもり・ニートのスローライフ。
あ、これも悪くないかもしれない。




