憑依したら異世界の常識なんて把握している。そう思っていた頃もありました。
(見覚えがない天井だ…って現実逃避か)
開けた目に見えているのは、岩肌の天井だった。洞窟で生活していた事は無い筈だから、記憶があるはずもない。そう思った僕は、過去の記憶が蘇って来ないことにも気がついた。
(あれ、ひょっとして記憶喪失?どこかで頭でも打った?)
とはいえ、頭痛がある訳でもない。ひょっとして僕は野外生活者だったのだろうか?いや、就職活動をしていた筈だ、面接が3つ被って困っていたはず。寝ている場合じゃない。起きようとしたが体が動かせない。
(おかしい、交通事故で崖下の洞窟まで落ちた?)
その時だった。横の方の岩が動き出した。岩が動くなんてそんな馬鹿な。ゆっくりと近づいてきた岩は巨大な人のような形をしていた。そいつは、口と思しき所に壁から剥ぎ取った石を詰めるとガリガリと噛み潰しながら、僕の顔にその顔を近づけてくる。
(食われる?いや、岩と一緒に食べるってなに、わわわっ 嫌だ、嫌だ、嫌だ)
岩を噛み砕きながら、口を僕の口に押し付けてきたそいつは、口に含んだ石~いやもう砂利か~を僕の口に押し込んできた。砂利なんか食えない。逃げようとしても体は動かない。逃れようと必死で思っていると
ぷつん
という音のようなものが聞こえて、視界がすっとズームアウトしていった。そして「僕」が砂利を噛み砕く音が体に響いてくる。さっきまで出来ていた視界の制御も全くできなくなった。