異世界ファンタジー神の嘆き ~転生トラックと異世界チートの隙間にできた闇~
生き返りチートで世界最強~人生初の全クリはリアル異世界でした~
のスピンオフ。是非本編も!!
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神じゃよ。
ワシはファンタジーの世界を司る神なんじゃよ。
ここでは、日々は幸せじゃった。
真っ白なデスクに真っ白な椅子。書く物も白じゃぞ。
壁は見えぬ程遠く、無限の広さを感じる。
寝ようと思えば、真っ白なふかふかのベッドが用意され、腹を空かすこともなく、いつも旨いものに囲まれておる。
ワシは、神となって長い長い青春を謳歌しておった。
「神様~。いつもの雑誌ですよ」
「はい、ありがとう」
この事務の女の子はおっちょこちょいだが、よく気が利くし、明るい子だ。
名は何と言ったかの。
もう長いこと、神をしておるから、色々と忘れてしまうのも致し方ないことじゃが。
「それと、転トラが発生しました」
「またぁ~~?!」
今届いたばかりのワシの愛読書であった機関誌、『月刊ゴッドだ神』に、手をやった。
いつもの癖で1頁目を捲ってしまった。
やめればいいものを。癖とは恐ろしいものじゃ。
目次の次頁には、デカデカと『転生トラックによる死者数』の特集があった。
はあぁぁぁああ……。
ここ数年、地球という惑星のしかも日本という小さな小さな島国で、トラックによる死亡事故が多発しておる。
しかもなぜか手違いによるものが多いのじゃ。
「神様~、お亡くなりの方がお待ちですよ~」
「老骨にはきついのう」
「まだまだ若いでしょ! 神様は、まだ2,000歳にもなってないんですから。ヒヨッコヒヨッコ」
2,000年も生きてヒヨッコとは、神とはやはり過酷な労働じゃ。
ファンタジー神になった当時はこんなことになるとは、誰も予想せんかったのじゃが。
椅子を90度回転させ、座り直すと、そこは面談室となった。今まで見えなかった壁も瞬時にできあがる。
これは便利なんじゃが……。
転トラに遇ったのは、中年のおっさんじゃった。いつもは、ろくに仕事もしておらぬ若い男じゃったが。
こやつは「死んじまったのか」と言っておるあたり、諦めも良さそうじゃ。
いつものように決まり文句を告げてやる。
ついでに詫びとして、能力も授けねばならん。
「ほれ、チートとやらじゃぞ。受け取れ」
「はあ」
なんとも気の抜けた返事じゃ。本来、取り違えでの死亡事故など滅多に起こらん。
その為、初めに発生した時は、神会議でも穏便に済ませようとした。その袖の下が転生と能力付与じゃった。と聞く。
ワシには知らん所で話が進んでおったので、よう分からん。
なんせヒヨッコじゃからの。
しかし、それからというもの神会議の予想に反し、出るわ出るわ。手違いによる死亡が無数に発生し出した。
神会議の連中は一時のブームと決めつけ、なんも対策を打たなかったのじゃ。
それでワシばかりに負担が掛かるはめになってしもうたのじゃ……!!
「もう転生トラックが多過ぎて、転トラと呼んでもとるぞ。悪ふざけも過ぎるとな……」
気付くと中年のおっさんがまだおった。
しかも、こやつに気付かず独白してしもうた。ワシ恥ずい、恥ずい。
ここは威厳をもって……。
「お主まだおったのかーー!!!」
「はあ」
「とっとと、ファンタジー世界に行って、キャッキャッウフフでもすればよろし!ワシは知っておるぞ! この幸せ者!」
「はあ、そうですか」
なんとも気の抜けたおっさんじゃ。
どうせハーレムとやらで良い思いをするのじゃ。悔しいのう。悔しいのう。
椅子の向きを変えると、また広い壁の見えぬいつもの部屋代に戻った。
ワシはこの数年間休むことなく、転トラの若者の相手をしてきた。
それは大変じゃよ。変なテンションの者も多いからの。
なぜかは知らんが、転トラした奴や昔ながらの転移でファンタジー世界に来た最近の者は、よくモテるのじゃ。
なーんの取り柄も無さそうな奴ばっかじゃがのう。不思議じゃ。不思議。
不思議といえば、もう一つ。
地球の日本には、ケイサツという奴らがおる。
こやつらは、日本の事故や事件をとりまとめるのが仕事じゃ。
じゃが、日本で起きたトラックと人との衝突事故の数に転トラでこっちに来た者たち人数が含まれておらぬらしい。
『GODだ神』の情報じゃがな。日本という国も杜撰じゃのう。
少し休もうと思い、『GODだ神』を読むことにした。
「神様~」
また事務の小娘が呼びに来た。
「嫌じゃ、嫌じゃ。また転トラしてきたこれといって特徴の無い若者の相手をするのは、もう嫌じゃ」
「違いますよ。ゲーム界のRPG神から、連絡が入っています。それで…」
RPG神?!
「なぜじゃ、なぜあのいけ好かぬ神とワシは話をせねばならん! ちょっとゲーム界がVRやeスポーツブームでリア充にも日の目を見たからといって、神の杖を良い物に新調しよって。髭もワシより長い。RPG神なんてのは、数十年前に出てきたに過ぎないはずが、神年齢を買うてワシと同期扱いじゃ。ワシは奴を同期と認めん。非道じゃ。奴は非道じゃ」
「あの~」
「そこまで同期に嫌悪するとは、非道は俺ではなく、そなたではないか?」
事務の小娘とも思えぬ渋く低い声が聞こえ、咄嗟に顔を上げた。
RPG神が足を組んで椅子に腰掛けていた。
「へ?」
「もう! 私はRPG神が来ちゃいますよって、散々言ったのに~」
ワシは事務の方に顔だけを向けた。
「そ、そうなの?」
RPG神が咳払いを1つした。
「そなたも神であろう。他の神の悪口をあそこまでつらつらと申すのものいかがなものかな?まぁ、安心したまえ。神会議には上申はせんことにする」
「な、なにか企んでおるな? そなたがワシのこんな失態見逃すはずがなかろう」
「よく分かっているではないか。はははは」
RPG神は笑う時には、上を向いて笑う。
いつも馬の頭蓋骨を被っておるから、表情が見えんのも厄介じゃ。
馬の頭蓋の額には2本鋭い角が生えており、いつも紫黒色のマントを羽織っておる。
あれが新調した杖じゃろう。持ち手部分が髑髏の形に彫られておる。
1度聞いたことがある。
「そなたは、神なのになぜそのようなおどろおどろしい服装をしておるのじや」と。
RPG神は「RPGでは、他の神に比べて神が人前に現れることが多い。毎度優しさだけでなく、時には厳しいことも云わねばならん。その為にこのような格好をしている」奴はそう申した。
神じゃから、好きにすれば良いが、こうやって神同士で会う時ぐらい馬の頭蓋骨は取って欲しいものじゃ。
パッと見たら、なんか、ヒュッとなる。お股がヒュッとなるんじゃ。
「して、用件は……?」
RPG神が俯いた。泣いているかと思ったが違った。
怒っておる。神は時として、どうしても許せぬ人や地域に神罰を与えることがある。
RPG神の怒りは正に神罰を与える神の怒りそのものじゃ。
「お主がそれほどまで怒り狂うとは……。何があったのじゃ。申してみよ」
RPG神は俯いたまま訥々(とつとつ)と喋り始めた。
「RPGなんてものは、そもそもゲームだ。好き嫌いは当然ある」
「そうじゃな。ワシも『GODだ神』と天使との合コンは大好きじゃ」
「ゲームが苦手でクリアできないのは、よくある事なんだ。俺もそれぐらいでは怒らん。しかし……」
「しかし?」
「ゲームが大好きで散々買い続けるくせに、何一つとしてRPGをクリアせぬのは、如何なものか!? と」
うーん……。
「もしや、それがそなたの怒り狂う理由か?」
「それ以外に何がある!!」
こ、これは……。
どう返すのが……正解なんじゃ……?
「そして、俺は考えた」
ああ、続きを話すのね。
「そいつに神罰を与え、ファンタジー世界に転生さしてやろう……! と」
ん?
「よくよく考えれば、RPGもファンタジーも似た部分が多かった。ただ違うのはコンティニューできるかできないか。そんなもんだろ?」
失敬な! ファンタジー世界はゲームとは違ってリアル世界じゃぞ!
「そうだ。それがいいんだ」
あっ、やっべ。こいつも神だから、心読めるんじゃった。
面倒臭いなぁ。
「そう面倒臭がるなよ」
また心を読おった! ムキー!!
「あの憎き人間をコンティニューなどできぬゲームのような世界に墜とし、RPGをクリアする喜びを味わわせてやる……!!!」
も、燃えておる。
RPG神が燃えておるぞぉ……!!!!
しかし、手違いではない男を転生させても良いものか。
「俺が許可する!無論、お上の承認も取得済だ」
「なんと周到な。お上をどうやって……?」
「それはもう、寝る間も惜しむような良作RPGを次から次に与えてやったのさ! はははは」
「な、なんと、おぞましいことを……!!」
では、その者に強力なチート能力を渡してやるか。
「いや、その必要はない。苦労もなく奴がクリアなどしてもありがたみを感じはせんだろ。欠陥品でも渡してやれ!」
惨たらしいことを……。
「そうだな。武器もないとあっけなく死ぬかもしれん。それでは面白みもない。欠陥能力に欠陥武器を与えてやれ!はははは」
おお! 神は神罰を与えると決めればここまで非道になれるのか……!
ワシは震えて、ただ神罰が過ぎることを待つしかできんわい。
「俺に協力すれば、それ相当のものを用意する」
な、なんじゃそれは?
「同期会会長の椅子だ!!!」
――――!!!!!
ゲーム界が近年、羽振りが良いとは聞いておったが、ここまでだったとは! eスポーツとは恐ろしい。
RPG神は同期会会長ではなかったが、その権利を買い取り、ワシに渡そうとしている。
なりふり構わぬ暴挙とも言えよう。
「では、いらぬか?」
「いえ、喜んで励みます」
こうして、RPGをクリアしなかっただけで神の怒りを買った不運な男の物語は始まるのじゃ。
ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!