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1、魔王に食べられると思ったら魔王を逆に食べていた

 魔王グラヴィデスは煌々(こうこう)と燃える街を天空から見やっていた。


グラヴィデスは酷薄な紫色の唇に冷笑を浮かべると、眼下(がんか)の地獄絵図を見やる。


「おお、見たまえ、アンジェルネ。お前の帝国は滅んだ……老人も子供も大人も、男も女も余の奴隷よ。どうだ、感想はあるか」


 魔王は金髪(きんぱつ)碧眼(へきがん)の美少女に問いかけるが、返答はない。

 毒々しい角からは彼が残虐な魔人であることを十分に誇示していた。


「ふむう、いかんな。感動し過ぎて言葉を失うとは!」


「オホホ。魔王様、絶望に(さいな)まれているその女をいかがなされますか」

「うむ。この一年、様々なことをして遊んだな、アンジェルネ。このミトファーデリア帝国の残虐(ざんぎゃく)少女帝(しょうじょてい)たるそなたは凡愚(ぼんぐ)どもとは違い、簡単に余の言いなりにならぬのは楽しかったぞ」


 少女帝・アンジェルネはガタガタと震えながら、魔王を仰ぎ見る。女帝とは到底見えぬボロ衣を身にまとった彼女はどう見ても物乞いにしか見えない。


「さて、最後の儀式といこうか。アンジェルネ。魔族の祭典にて大賢者・ヤ―ゼンハイクトの子孫の魂を私は食すことにする。サーシャよ」

(かしこ)まりました。ウォ―テリア島にて、儀式の準備は整っております」


 妖艶(ようえん)な美女が答える。魔王の参謀である女魔人・サーシャ・ギュラテウス。グラマラスな美女はアンジェルネの金髪を乱暴に掴む。


「キャアッ」

「さて、行きますわよ。小娘。最後の儀式です」


 アンジェルネの体が抱え上げられ、空高く女魔人は飛び上がる。


「いざ、ウォ―テリア(じま)へ!」












ミトファーデリア帝国の領有するウォ―テリア島。巨大な島で人口は一万人ほどで(にぎ)わっている。だが、今は島は魔族たちに占領されていた。帝国貴族のバカンスの地として知られた地に一人の青年が十字架にくくりつけられ、恐怖に怯えた表情で取り囲む魔族たちを見ていた。


帝国の辺境の村人であるルシアス・イオケイス・ヤ―ゼンハイクト。十九歳。大賢者の子孫にして、帝国の血を引く羊飼いの青年である。


「た、助けてください。魔王様ぁ、私は何の取り()もない村人でございますぅ。食べてもおいしくございませぇん!」

「ふむ。ルシアスよ。怖くなどない、安心して余に身をゆだねよ」

「ひぃぃぃぃ、こ、殺されるぅ、た、助けて、女帝様っ」


突然、目の前に魔王が現れたため、パニックに(おちい)るルシアスは自分が尊敬する女帝の名を呼ぶ。


「はっはっは。ルシアスよ。サーシャの抱えている女を見よ!この一年・拷問によって変わり果てたが女帝アンジェルネであるぞ!」


ルシアスは女を目を見開いて見つめる。間違いない。かつて、幼少の折、大賢者の子孫に会いたいと言ってきた金髪の気の強そうな皇女(こうじょ)。その皇女が美人になっているものの、女帝であることが即座にわかる。


「何の力もない私を許して……」


女帝は目を伏せ、悔しそうに唇を噛む。


「あ、あ、あ……終わりだ。もう終わりだ……」


ルシアスはぱくぱくと口を開閉する。魔族たちがその光景を見て、(はや)し立てる。


「さすがは俺たちのボスぅぅぅぅーーーーっ、その人間の魂を食ってしまいましょうぜ。そして更なる力を手に入れましょう!」

「敬愛すべき魔王様。この儀式ののちにますますパワーアップされるのでございますねっ。キャー。この調子で人間界・魔界・神界・精霊界を支配する超越(ちょうえつ)(しん)になってくださいませええっ」


男女の魔人たちが魔王を口々に()めたたえる。


「待て、そう褒めるでない。まだにっくき勇者の若造との決戦が控えておる。その戦いに勝利するため、村人・ルシアスの強大な潜在霊力は我が(かて)となろう。さて、ルシアスよ、何か言い残すことはあるか」


ルシアスはただの村人に過ぎないが、大賢者の子孫のためにその潜在霊力は半端ない。魔王はその特殊能力・霊力測定を行い、ルシアスの膨大な霊力を自分のモノにすることに決めている。魔王は(たわむ)れに村を略奪したときにルシアスを発見。この島に捕えておいたのである。


「お、幼馴染のヘレナと結婚したかった!彼女と共に愛を(はぐく)みたかった!」

「ほう……サーシャ、その女は今、どうしておるか」

「はっ、勇者パーティー専用の拷問城の建設に励んでおります。労働奴隷になっています」

「ふむ。安心せよ。ルシアスよ。そなたの死後、ヘレナは我が手元に置き、たっぷりとかわいがってやる。安心せよ……」

「そ、そんなっ、ヘレナを、俺のヘレナを……ヘレナに指一本でも触れてみろっ、あの世から呪い殺してやるっ」

「フフフ。できることならやってみよ、凡夫(ぼんぷ)めが」


 魔王は失笑すると、ルシアスの胸に手を当てる。


「さて、いただくとするか」


 ルシアスの胸から白い気体が現れる。


「フフフ。すごいぞ。すごい霊力である!これにより、余はさらなるパワーアップを遂げることになろう。見よ、我こそが魔界に君臨する最凶の魔王・グラディ……え?」


 魔王グラヴィディスが間の抜けた言葉を発すると白い気体にすっぽりと取り込まれてしまった。


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