伝わらない話
私は空き瓶が好きだ。
空き瓶は何もない状態でこそ意味があり、何かを中に詰めてしまえば空き瓶としての機能を存在を失う。
水を入れたならば『水入りの瓶』に、ジャムを入れたならば『ジャムの瓶』に。
本来なら『瓶』として存在する筈なのに、無理やり中身を詰められる事で『何か』が入った『瓶』と成り果ててしまう。
何もないからこそ美しい、何もないからこそ魅力的。そんな話もあるだろう。
こんな話をしても中々そうだと肯定し、首を縦に振ってくれる者はいない。大体の者は『使えるのなら何でも良い』、『物は使ってこそだ』と言い私とは話が合わない。
だからだろうか。
今更こんな話を誰もいなくなった、何も詰まっていないまっさらな大地となったこの世界を眺めてふと遠い昔。たった一人だけだった意見の合う君の事を思い出すのは。
この空となった美しい世界が伝わらないのは、きっともう私もこの世界から消えるからだろうか。
ひとつ、ふたつ、みっつ……君との思い出だけを持ってこの世界から出ていこう。そうして眺めていよう、空となったその世界を。
あぁ、なんて美しいのだろう。
世界を滅ぼした『私』はただ『君』にこの空の世界の美しさを伝えたかったんだ。
『君』も一緒に滅ぼしてしまったこの世界の美しさに『私』はずっと気が付かない。