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あなたと作る都市伝説  作者: えのぐふで
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秘密の愛は血濡れ色(後編)「少女の眼にも狂気」

前後編の物語「秘密の愛は血濡れ色」の後編です。よろしくお願いします。

 子供の頃は、よく砂場で遊んだ記憶がある。中でも俺が一番はまっていたのが、宝探しだ。適当な木の枝なんかを砂場に埋めて、それを他の子供で見つけ出すというものだ。当時の俺は、物を隠す役がとても好きだった。公園の小さな砂場の中で、なんとかして見つからないように思考を凝らしたものだった。

 だがしかし、人間を隠すというのは生まれて初めての経験で、率先してやりたいなどとはとても思えなかった。

 そんなわけで、俺と捻乃ひねのは、俺の部屋で荷造りをしていた。遺体を引っ越させる荷造りを。

「といっても、あまり準備はいらないんですけどね。このリュックをそのまま埋めてもいいわけですから、スコップさえあれば――あ、先輩。スコップ持ってますか?」

「実家にはあるけど、アパートにまでは持ってこねえよ。というか、埋める気だったんならお前が持ってこいよ」

「いやあ、あのリュックには死体を詰めるだけで精いっぱいだったんですよ。意外と入るものだとはいっても、かなりのギリギリです。スコップを持ち歩いて行動するのは、さすがにきついものがありますからね」

 まあ、普通の女子高生がスコップ片手に街中を歩いてたら目立つだろうな、と。彼女がそうしている有様を想像しながら思った。

「そういう事で先輩。私は今からホームセンターにでも行ってスコップを買ってきますので、これを見ておいてください」

「……冗談だろ?」

「冗談じゃないです。大真面目です」

「ここは別に誰も来ないっていう保証はないんだぜ? そんなところに死体を置いて行くっていうのかよ?」

「大丈夫です。先輩ならきっと隠し通せます。大学生でしょう?」

 こいつは大学生を何だと思っているのか。

「まあ先輩、よろしくお願いしますね。帰ったら合図として4回ノックをしますので。行ってきまーす」

 とても軽い調子で外に出ていった捻乃。その背中を止めることはできなかった。

「……」

 本当に、どうしたものか。こんな爆弾級の荷物を置いていかれては、落ち着く気持ちも落ち着かない。

「とりあえず、隠さなきゃだよな……」

 サイズはかなりあるリュックだ。隠せる所なんて限られている。とりあえず手近にあったクローゼットを開いて、そこにリュックを詰め込む。

「さて、これからどうしたものかな……」

 中々とんでもないことに首を突っ込んでしまったと、今になって強く感じた。人殺しの手伝いなど、これからの人生でまず起きないであろうものだ。

 めったにできない体験だ。いい悪いかは置いておいて。

 しかしこういう状況になると、普段あまり人と関わることのない生活をしておいて良かったと感じる。誰かが来る可能性が低いのは、この状況では非常にありがたいことだ。

 ただ、ひねくれた考え方をするならば、これ以上共犯者は増やせないということだろう。別に増やしたいわけでもないし、増えたところでどうするのかという話なのだが、困ったときに道連れになってくれる人がいないというのは中々辛い。あまり人と関わらないとはいっても、天涯孤独で生きているわけでもないのだ。当たり前だが、人は一人では生きていけない。

「……くだらないな」

 心の中とはいえ、柄にもなく一人語りをしてしまった。こんな状況に置かれていて、平静でいられなくなっているのだろう。こうでもしないと、精神を保てない。

 そういえば、捻乃が言っていた『秘密』とは何なのか、と考えが及んだ。殺人を犯してしまうほどに聞かれたくない秘密とは一体何なのか。気にならないわけはなかった。

 しかし、その思考は続くことはなかった。扉をたたく音が聞こえたからだ。4回のノック音を聞いてから、俺は扉に向かった。

「やっと帰ってきたか。ったく、こっちは気が気でいられなかったんだぞ…………って、え?」

 軽口を叩きながら扉を開けると、そこにいたのは捻乃ではなかった。捻乃よりも身長の高い(というか、ひょっとすると俺ぐらい高い)、長い黒髪の女性。彼女はうっすらと笑みを浮かべて立っていた。

 ――その右手に、大きめのスコップを持って。

「初めまして。私は継芽命つぎめめいと言います。あなたの後輩、豊浦捻乃さんと同じ高校で、一緒に部活をやっている者です」

 彼女は続けた。

「捻乃さんから事情は聴きました。今から捻乃さんの代わりに――私に協力してください」

                      ※

「貴方の言いたいことはわかりますよ。何で事件の当事者である捻乃さんの代わりをこの女がやっているのか。こいつが代わるべきなのは彼女ではなく自分のほうだろう、と。そうです、その通りです。その点については申し訳ありません。でも、彼女を責めるのはやめてください。だって彼女と代わると言ったのは、私なのですから」

 まくしたてられた言葉の最後で、大事なことを彼女は言った。

 現在地は俺の部屋の中。スコップを持ったままの初対面の女性と話しているこの図は、なんとも奇妙なものだ。

 彼女から聞くところによると、俺の部屋から出ていった後の捻乃と彼女が偶然に出会い、事情を聞いたところ、彼女――継芽命(高校三年生、俺の一つ下だ。中々大人びている)が捻乃の代わりになり、俺とともに死体遺棄を行うという案を持ち出したらしい。何て勝手なことを言っているのかと起こりたい気持ちは、いったん心の中に留めておいた。

「……で、なんで君は俺と一緒にこんなことをするって言ったんだ?」

「それは簡単な理由です。私が一度、あなたと会ってみたかったからです」

「……俺と?」

「ええ、あなたとです。捻乃さんから色々と話は聞いていましたので。彼女の先輩として――いえ、違いますね。私個人として、あなたがどんな人物か気になったのですよ」

「……君の考えは、まあ分かった。でも、なんで今なんだ? こんな時じゃなくて、もっと普通の時にでも会えただろうに。捻乃なら俺の連絡先は知ってるだろう」

 今である必要性、他人の都合をないがしろにしてまで、今でなければならないわけは、果たして俺には分からない。ただでさえ後輩のわがままに付き合わされているのに、さらに別の人間のわがまままで聞いている暇は、本来ないのだ。

 彼女もそれは分かっているのだろう。深くうなずいてこう言った。

「それはそうですね。あなたの言う通りです。私は昔から、思いついたらすぐに行動しないと気が済まないタイプでして。こんな形になったことは本当に申し訳ないと思っています。本当にすみません」

 折り目正しく礼儀良く、彼女は深々と頭を下げた。

 それに納得できるかは後にして、とりあえずはなってしまったものはどうしようもない、というのが現状だろう。今更後戻りなど出来るはずなどないわけで、彼女にとやかく言っていても始まらない。

「言いたいことは色々あるが、まあ事情は分かった。とりあえずは、あれをなんとかすることに集中しよう」

 視線をやる先は、もちろんクローゼット。開いてリュックを取り出して、床に置いた。

「……この中に、捻乃さんが殺したという女生徒が?」

「ああ、全く信じられない話だよ。まさか後輩の女の子にこんなことに巻き込まれるなんて」

「……中を、見せてもらってもいいですか?」

「ん? ああ、まあいいが……。あんまり見てても気持ちの良いもんじゃあないぞ?」

「いえ、私の後輩がやってしまったことなのですから、私も彼女に謝らなければいけません。今更そんなことをしたところで、彼女が救われるわけではありませんが、せめてもの筋は通しておきたいのです」

 中々立派な娘だ、と感心した。俺なんかよりも、ずっと落ち着いていてしたたかだ。捻乃とは一つや二つの年の差だろうに、こんなにも差が出るものなのかと思ってしまう。(俺が言えた話ではないが)

 彼女はリュックを開けて、女生徒の遺体が詰められた袋を目の当たりにした。再び広がった異臭に、俺はまたしても顔をゆがめた。しかし彼女はそんなものなどお構いなしという風に、それに手を合わせた。

「本当にすみません。貴方は何も悪くないのに、こんなことになってしまって。あの子も心の中では反省しているはずです。許してくれとは言いません。一生をかけて償わせます。ですからお願いです。あの子を、分かってあげてください。お願いします」

「…………」

 こんなことは言うべきではないだろうが、俺は彼女の懺悔を、ただただ美しいと感じてしまった。心の底から死者を思い、心の底から悔いた謝罪だった。

 ただ、少し引っかかってしまう。捻乃が心の中では反省していると、あの時の会話の中ではどうしても思えなかったのだ。継芽は本当にそう思っているのかもしれない。それは彼女が捻乃と話して抱いた感想なのだから、捻乃が彼女にだけ見せた感情があるとするなら、それがどのようなものであるのか、それを知らない俺にはどうこう言うことはできない。

 ただ、捻乃が彼女に見せた顔があるように、俺にだけ見せた顔があってもおかしくはないはずだ。その顔を知っている俺には、どうしても継芽の言葉を素直に飲み込むことができなかった。

「……すみません、余計な時間を使ってしまって」

 気づけば彼女は懺悔を終えていた。リュックは再びとじられている。

「いや、いいよ。そっちこそ大変だな。後輩のトラブルに付き合わされて」

「自分でやっていることです。大変などとは思っていません」

「……そうかい。それじゃあ、そろそろ始めようぜ。さっさと終わらせて、いつもの生活に戻りたい」

「ええ、そうしましょう」

 かくして、俺と継芽命、初対面の二人の死体遺棄劇は幕を開ける。

 いや、開くべき幕など、本来はないのだろう。

                      ※

 一介の高校生と大学生の移動手段など、ごく限られたものである。ましてやこんな物騒なものを抱えていては、電車やバスはまず使いたくない。俺と捻乃の家は近いわけではないが、ともすればあいつはどうやってここまで来たのだろうか?リュックを抱えて澄ました顔で電車に乗る彼女の姿が想像できた辺りで、その思考はやめた。

 ただ幸いなことに、このアパートからほど近いところ、歩いて三十分ほどのところには山があった。数年前から整備はされておらず、人はもちろん寄り付かない。まさに絶好の場所だ。まさかこれも計算して、捻乃は俺のところに来たのだろうか。そうなのだとすれば、感心こそしないが、意外と考えている奴だとは思う。

「いいえ、それはないと思いますよ」

 そんな俺の考えに、継芽は苦言を呈した。

「捻乃さんがあなたのところに来たのは多分、貴方しか頼れる人がいなかったからでしょう」

「……俺しか? あんたじゃあ駄目なのかよ、先輩なんだろ?」

「ええ、先輩です。あの子は大事な後輩です。だからこそ、あの子にとっては駄目なんですよ。あの子は非常に友達思いの優しい子ですから。私はもちろん、部活の他の仲間たちにも、迷惑はかけまいと思ったんでしょう。普段はあまり周りとの関りもない子ですし、今の彼女にはあなたしか頼れる人がいなかったんじゃないですか? 彼女が本当に心を許せる相手である、あなたしか」

「……てっきり、なめられてるモンだとばかり思ってたんだがな」

 数年間の付き合いがあっても、知らないことはあるものだ。あいつがそんな人間であることを、俺は初めて知った。

 そして同時に、少しは力になってやりたいと思った。あいつが俺を信頼しているのなら、その信頼に少しは応えてやりたい。

 たった一人の後輩に、少しは先輩面をしてやろう。

 たどり着いた山の麓で、そんなことを思った。

                      ※

「ここら辺か?」

「ええ、この辺りまでくれば充分でしょう」

 山登りは意外ときつかった。整備されていないので、雑草は生え放題。それにこのバカでかいリュックを背負いながらとなると、さらに面倒だ。

 ただ何とかある程度まで登り、埋葬のスポットを確保した。後は単純作業だ。ただ、人を埋めるほどの穴を掘るのも一苦労で、あまり運動をしない俺の体は悲鳴を上げた。

「きっつい……」

「お疲れ様です。後でもう一度埋めていただきますので」

 運動不足がこんなところでたたるとは思わなかった。後でまた同じような作業をしなければいけないと思うと気分が下がる。

 とりあえず、リュックを穴の中に入れるところから始める。

「あの、すみません。リュックだけは、私に預からせていただけませんか?」

「いいけど……どうして?」

「捻乃さんから聞いたんですけどこのリュック、この子の物だったらしいんですよ」

 この子の物、つまりは遺品というわけだ。

「なるほど、分かったよ。ただ、後で捻乃に渡しといてくれ」

「ええ、そのつもりです」

 こうして協力してこそいるが、あいつはやってはいけないことをした。その罪は重いし、忘れてのうのうと生きることは許されない。あいつにはこのリュックで、あいつには犯してしまった罪を一生忘れないままに生きてもらう必要がある。

 袋をリュックから取り出す。さすがに臭いには慣れてしまった。

 袋を穴に入れ、土をかけて再び穴を戻し始める。

「そういやあんた、捻乃とかと一緒に部活やってるって言ってたよな。どんな部活なんだ?」

 土をかけながら、時間つぶし半分、興味半分でそんなことを継芽に聞いてみた。

「大して大きな部活ではありません。ただ私の趣味に周りを巻き込んだ部活です」

「あんたの趣味? どんなのだ?」

「俗に言う、オカルト研究会というやつです。私が一応部長をしています。部員は五、六人くらいです」

「へえ、そういうのに興味があるのか。意外だな」

 彼女の振る舞い、佇まいからそういうものを結びつけるのはできなかった。それにしてもオカルトとは、中々好奇心旺盛な女の子だ。

「オカルトというより、不思議研究会みたいなものですけどね。怪談や都市伝説、超常現象から様々です」

「へえ。じゃあこんな山なんか怪談にはおあつらえ向きなんじゃないか? 夜中に幽霊が出るとか」

「ええ、そうですね。というかそういうものは、ついこの前調べに行きました。高校の近くの山に、部活の後輩と一緒に。おかげで面白いものが見れました」

「そうかい、幸せそうで何より」

話している彼女の顔は今までで一番純粋だった。

「あなたは、そういうものは信じるんですか?」

「残念だが信じてないね。幽霊とか超常現象とか、そういう訳の分からないものは信じない主義なのさ。都市伝説とかにしたって、誰かが創って言って、それが広まってるってだけの話だろうよ」

「誰かが創って、ですか……」

 彼女は急に黙り込み、少し考えるような仕草の後に口を開いた。

「そうですね、誰かの作り話なんていうのはあり得る話です。でも、話じゃなくて、事象そのものを創っているというケースはないんですかね?」

「……よく分からんな。自分は訳の分からないものに興味を持ってるのに、種も仕掛けも知ってしまってるものを創っても面白くないだろう。そいつにとっては」

「いえ、分かりませんよ。世の中には物好きな人がいるかもしれません」

 彼女はうっすらと笑ってそう言った。

「どうかな、俺にはよく分からん。…………よし、完了だ」

 土を戻し終えた地面は、最初と何ら変わらない様子だった。これでよほどのことがない限り見つかることはないだろう。

「ありがとうございました。こんなことに付き合っていただいて」

「元々は脅迫されてた身だからな。せいぜい捻乃を恨んでおくよ。あんたこそすまんな。後輩のわがままに付き合わせて。あいつは面倒だが、まあ良くしてやってくれ」

「ええ、あなたも仲良くしてあげてくださいんね」

「ああ、言われなくてもそうするさ。なんたって――」

 そう、なんたってあいつは、俺のたった一人の後輩なのだから。

                      ※

 俺と継芽は山を下りた後、それぞれの帰路についた。継芽はあの大きなリュックを持って。

 家に帰ると、さっきまでの疲れがどっと出て、すぐに横たわった。

 そういえば、捻乃の『秘密』というのはついに分からずじまいだった。どうしても気にはなってしまう。まあただ、あいつから言ってくれるのを待つのが一番なのだろう。

 あと一つきがかりなことと言えば、継芽のことだろうか。

 どうして彼女が捻乃に協力したのか、その理由が分からない。俺のように脅迫時見た目にあったようには思えないし、優しさで動いたなんて言うのは、この場合はおかしな理由だろう。そこだけがどうしても謎で、頭に引っかかってしまった。

「まあ、いいか……」

 とりあえずは思考をやめて、ぐっすりと寝ることにしよう。明日からはまた大学に行かなければいけない。いつもの日常が始めるのだ。

 捻乃にとっては新しい日常が始まる。贖罪の日々に、あいつにはしっかりと向き合ってもらおう。

 やがて意識は薄れ、起きたのは次の日の朝七時だった。




 捻乃の死体が見つかったことは、その日の朝のニュースで知った。


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