私が作る都市伝説
一括にまとめまして「あなたと作る都市伝説」再始動でございます。よろしくお願いします。
「ここが、変わった生き物を見たって場所ですか?先輩」
ある休日の日。僕は高校の先輩に連れられ、近所の山に来ていた。
「そう!そうなの!確かに私見たのよ、このあたりの木の陰から、変な影が動いたの!あれはきっと未確認生物に違いないわ!こんな近くにいるなんて、我ながら大きな失敗をしたものだわ、誰かに見つけられてしまうところだったもの!」
先輩は、興奮した様子で僕に話しかける。
この人は、宇宙人とか、UMAとか、不思議な物への興味がとても大きい。今までに何度も、『宇宙人がいるわ!』とか言って、この先輩には連れ出されているが、一度として本当だったことがない。それどころか、関係ない人を巻き込んで、僕まで頭を下げなければいけないこともあった。今回もどうせ、見間違いの類だろうと思いながら、僕はこのにいる。
「……それで、その生物はどんな形だったんですか?」
既に面倒な気持ちを抱えながら、僕は先輩に付き合うことにした。
「よくぞ聞いてくれたわね、さすが私の見込んだ男だわ。そう、あれは大体人間ぐらいの大きさだったわ。」
「それ……普通に人じゃないんですか?詳しい姿は見てないんでしょう?」
「ええ、見てないわ。でも、あれは明らかに人間とは違うわ。だって、あいつには触角が生えていたのよ」
「触角?」
「角かもしれないわ。なんにせよ、頭の上に、何か突起物があったことは確かだわ」
適当に散策をしながら歩いてはいるが、はっきりいって探す気はほとんどないと言っていい。角だなんだといっても、結局は遠くから見た情報で、根拠は全くない。早く帰りたいという気持ちだけが、僕の中で積もっていく。
「待って」
「え?」
突然、先輩が僕の腕をつかんできた。僕は慌てて止まった。
「なんですか、先輩。ここには何もありませんよ」
「いえ、あるわ」
「……?何があるんですか?さっぱり分からないんですが」
「あの木を見てみなさい」
先輩は、少し奥にある木を指さした。よく見ると、何か紙が貼られているようだった。
「なにかのヒントかもしれないわ。見に行きましょう」
「はあ……」
先輩に言われるがままについていき、木に貼られた紙を見てみる。
「『この山立ち入るべからず』……。なんですか、これ?」
紙には、崩れた字体で文字が書かれていた。何やら怪しそうな雰囲気を醸し出している。
「まさか……私が見たのは、この山の霊だったのかしら」
「霊?どういうことですか」
「きっと、この山に入っていた私に警告をするために、この山の霊が私に警告をしに来たのよ。きっとそうだわ、それ以外ありえない」
話が飛躍している。ここまでのめり込んでしまえば、先輩を止めることは、僕にはできない。
「ねえ、霊がいるということは、ここで誰かが死んだ、ということじゃない?」
「亡霊ってことですか?さすがに信じられませんけどね」
「でも、向こうを見てみなさい。スコップが落ちているわ」
見ると、そこにはスコップがあった。土が付いており、誰かが使用したものだと推測できた。
「……ねえ、この木のそば、掘ってみない?」
「え、掘るんですか?」
「ええ、もしかすると、死体が埋まっているかもしれないわ」
先輩の言動はどんどんエスカレートしていく。こうなったら、言われるがままにして、何もないことを証明するしかなさそうだ。
「……分かりましたよ。掘りましょう。でも、何もなかったら帰りましょうね」
「ええ、分かったわ」
根拠もない推理でありながら、先輩の顔は自信に満ちていた。それはいつも通りのことだ。だがなぜだろう。今日の先輩の表情は、いつもとどこか違う気がした。長い付き合いのせいか、少し敏感になっているのかもしれない。
とにかく、始めないことには終わらない。僕はスコップを手に取り、地面と向き合う。
「よし……、やるか」
スコップを突き刺した土は、思いのほか柔らかかった。軽快なペースで、僕は土を掘っていく。
「できるだけ深めにお願いね。何かがあるかもしれないもの」
「はいはい」
先輩の言葉に適当に相づちを打ちながら、僕は地面を掘り進めた。
「………………ん?なんだこれ」
ふと、スコップの感触に違和感が起きた。
何かが埋まっているような感触。石でも埋まっているのかと思ったが、そこまでは固くない。
「どうしたの?何か見つけた?」
「いえ、この下に何か埋まっているようで……」
「きっと霊の手がかりよ。掘り起こしてみましょう」
それまで遠くで眺めていた先輩が、僕のそばに寄ってきた。
僕は慎重に、埋まっているものを掘り起こしてみる。
そして――
「……なんだよ、これ…………」
それは明らかに、人間の体のそれだった。地中深くに、寝そべった形で埋められていた、その人間の頭には――
脳天を見事にとらえた、大きめの包丁が突き刺さっていた。
「頭――――触角――――え?」
瞬間、背中に痛みが走った。
見るとそこには、深々と突き刺さった、大きめの包丁が――
「――――――!」
声にならない悲鳴を上げ、その場に倒れこむ。上を見ると、先輩はにこりと笑っていた。
「私ね、気づいたのよ。都市伝説がないのなら――自分で作ればいいんだって」
先輩は僕を、少しずつ、掘り進めた穴の方向へと動かし始めた。
「先に入ってた彼は、私は全然知らないけれど、君の気を引くために利用させてもらったの」
「――――――!」
「ありがとうね。協力してくれて。きっとこの都市伝説は、私が広めてみせるわ」
少しずつ、意識が遠のいていく。もう喋る気力もない。
そして、僕の体は勢いよく、穴の中へと転がり落ちた。
「『地中深くに眠る死体と、その者たちの亡霊がさまよう山』……。なかなか、興味を引く話だと思わない?」
消えていく意識の中で、最後に見た彼女の笑顔は、悔しいが、とても美しく見えた。