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第3話 『魔王城の魔王様』

 働き始めて1週間、やっと子ども達や仕事にも慣れてきた。今は昼寝の時間に昨日もらった魔力計を試している。所謂、片眼鏡のような形でレンズを通して見た魔物の魔力を数値化できる、それを応用して『完全透過』したトール君を見つけられるという訳だ。


「ぶっちゃけ、スカ○ターだよなぁ。まぁ、とりあえず試してみよう。」


 寝ている子ども子ども達を見てみる。確か、トリス先生曰く……


「子どもの魔力は50〜100位で大人がその10倍が平均。ただ、あくまで魔力の量だから数字がそのまま実際の強さに繋がる訳では無いわ。そもそも、今の魔界で強さがあってもねぇ……。」


 との事。


「どれどれ……。」


 ピピ……エリル→78 リリ→81 コバタ→72

 メーサ→52 トール→63


 どうやら、うちのクラスの子ども達は平均の範囲のようだ。ちょっと、安心。


――カラカラ――


「ノゾム先生、ちょっといいかしら?」


 トリス先生が入って来た。


 ピピ……トリス→5730


 なん……だと……?


「ちょっと用事が……ってどうしたの? そんな震えて。」

「いいいいえ、なななななんでもななないですよ!! そそそれより、何の御用でしょうか?」


 トリス先生、何者だよ……!?


「あぁ、社長が今から会いたいって連絡があったの。」


 ここ魔王城カンパニーの社長といえば確か、魔王にあたる存在だったはず。正直会いに行くの怖いんですが……。


「面接とかも私がしたから、まだ社長とは直接お会いして無いでしょ? どう? 今から一緒に来れそう?」

「えぇーと、俺は平気ですけど、子ども達が寝てるんで部屋を離れるのは……」


「それは私が見とくから平気だよ!」


 ズルリとドアから現れたのは隣の『陸棲魔獣クラス』の担任、ウェンディ先生だ。彼女はラミアという種族で上半身は人間だが、下半身はヘビだ。明るく、気さくなとてもいい魔物(ひと)である。


「え? でも、そしたらウェンディ先生のクラスが……」

「ん? だーいじょーぶ!」


 そう言うと体をくねらせ小刻みに動き出した。背中が割れ少しずつ中身が出てくる。脱皮をしているようだ。30秒程で完了すると、脱け殻の方がムクリと起き上がり、


「はい、これで大丈夫! あたしの得意技、『脱皮分身』だよ!」

「頼むわね、ウェンディ先生。」

「宜しくお願いします。」

「はいはーい!」


 部屋を出て社長室に向かう間に聞いてみた。


「あの、社長ってどんな方なんですか?」

「んー、一言で言うと、とても良い人よ。」


 良い魔王ってどんなだよ。


「ま、会えば分かるわ。」



――社長室――


「社長、ノゾム先生を連れて来ましたよ。」

「おーぅ、入っとくれー!」


――ガチャ――


「失礼します。」

「おぉ、君がノゾム君だね。忙しいところわざわざすまんね。早く話したかったんじゃが、わしもそれなりに忙しい身でな。まあ、立ち話もなんじゃ、そこに座っとくれ!」


 社長がそう言った途端、部屋のテーブルにあったイスが「ガタリ」と音をたてひとりでに引かれた。同時に何も無かったテーブルにカップとお菓子が出現した。


「さて改めて、わしが魔王城カンパニー4代目社長兼、28代目魔王じゃ! ま、後者の肩書きはもはやあまり意味を成してはおらんがな。」

「あ、託児所に勤めさせて頂いています、ウサ ノゾムです。」

「うむ。話は聞いておるぞ。中々苦労しとるようじゃの。」

「えぇまぁ……。」

「うむ、色々聞きたい事もあるのじゃが、まずはこちらの話を聞いてもらいたい。あ、お茶と茶菓子はおかわりあるからの。君の故郷の日本から取り寄せたものじゃ。口に合うと良いが……。」


 確かに見たことがあるメーカーのクッキーだ。いやいやそれより、何言われるのか気になるんだが……


「まずはわが社の成り立ちを聞いてもらいたい。少し長くなるかも知れんがの。」


 そう言って社長は語り始めた――


「今より遥か昔、魔界では人との関わりが一切禁じられていた。人は我ら異形のものを恐れ、逃げ、時には武器を取り向かって来た。我らも身を守るために戦うしか無く、種族によってはこちらから戦いを仕掛けもした。

 また、運良く関係が築けても長くは続かなかった。我らと共に過ごすには人の体は脆すぎる。我らの能力で意図せず人を傷つけ、取り返しのつかない結果になる事も少なく無かったそうじゃ。」


 それに関してはこの1週間、身を持って知りましたよ……。


「それをよしとしなかったのがわしの曾祖父、わが社の初代社長にあたるお方じゃ。」


 ――魔物も人も言葉を解し、心を持ち、愛を知っている。両者がすれ違う事こそが最も悲しむべき事だ――


「曾祖父の言葉じゃ。当時名実共に魔王だった曾祖父は部下達と共に人について調べ、秘密裏に人間界に使者を送り、人の文化や品々を魔界に持ち帰った。魔物に人について知ってもらい、まずは魔界の方から人を受け入れる為じゃ。」


 確かに、魔界には人間界のものが溢れている。食べ物、街並み、嗜好品……魔物が居なければ「人間界です」と言われても疑わないだろう。


「同時に人にも我らを受け入れてもらおうと色々やってみておるのじゃが……こちらは芳しく無いの。何せ同族同士でも宗教、価値観、民族の違いやらで争ってばかりじゃからの。」


 お恥ずかしい限りだ‥‥。


「そうして地道に努力する事、数百年。人を受け入れる準備は整った! そして記念すべき1人目が……君じゃよ、ノゾム君!」


「は……?」


 おいおい、なんか大きな話になって来たぞ……!


「さて、ここで1つ質問じゃ。人を受け入れるにあたってわが社で行うのは当然として、更に託児所で、というのもわしは以前から決めておった。何故じゃと思う?」


 待て待て、まだ驚きでそれどころじゃ無い。でも、何で託児所?

 今までの話からすると……


「……子どもなら新しいものも受け入れやすいのと、もし何か事故が起きても魔力が小さい分被害が少ないから……でしょうか?」


 実際はそこそこな被害を被ってますけど……。


「うむ。半分正解かの。君が言った事も判断材料にしておる。が、最も重要視したのはの……これからの魔界を背負う子ども達、そしてその子達を育てる親。彼らにこそ知ってもらいたかったのじゃよ。『人は怖くない』だけでは無い。『人と魔物は手を取り合って生きていける』という事を! これからの魔界と人間界の未来の為に!!」


 ……なんというか、魔王(しゃちょう)、めっちゃ良い人だな……。


「その為にも君にはより一層職務に励んでもらい、子ども達と絆を深めて欲しい。

 さて、次は人間界の話を君から聞きたいのじゃが……」

「社長、すいませんがそろそろ時間が……。」


 トリス先生が話を遮る。確かにそろそろ子ども達を起こす時間だ。


「えぇー、もう少し位いいじゃろ?」

「ダメです。」

「むぅ……、仕方ない。またの機会にしようかの。ノゾム君、また話せるのを楽しみにしておるよ。」


 そうして、社長との初対面は終了したのだが……


「ノゾム先生。社長の話でプレッシャー感じて無い?」


 帰り道でトリス先生に図星をつかれる。


「正直、かなり……。」

「勿論社長の言った事も大事だけど、あなたは今まで通り子ども達と接してあげて。『人と魔物』では無くて、『先生と教え子』として、ね!」

「っ! わかりました!」


 トリス先生の言う通りだ。俺は別に人魔親善大使として魔界(ここ)に来た訳じゃない。保育士として来たんだ……!


 さて! 戻ったら可愛い寝ぼすけ達をしゃんと起こすとするかな!



 ……余談だが、ポケットに入れていた魔力計を見ると社長の数値が計られていた。


 魔王→2260


 平均を大きく上回る数値! 流石魔王! と言いたいが、その魔王をダブルスコアで凌駕するトリス先生って……。

 次回予告 第4話『魔王城の求人案内』

 ノゾム先生の就職活動です。

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