第2話 『魔王城の子ども達』
ようやくクラス全員の登園が完了した。今日は初日だし、色々な遊びで楽しく過ごそうと思う。
〜鬼ごっこ〜
「はじめは先生が鬼になるから皆逃げてね。じゃあ、数えるよ? 1〜2〜……」
「きゃー!」と叫びながら逃げ去って行く子ども達の声が聞こえる。
天気も良かったので、園庭で遊ぶ事にしたのだ。
「19〜20! じゃあ、行くよー!」
さぁて、誰を狙おうか。周りを見渡してみると、ゴーゴンのメーサちゃんがしゃがみ込んでいる。転んで泣いたとかいう訳でも無いようなので容赦はしない。勝負の世界は非情なものさ。
後僅かなところまで近づいた瞬間――
「眼鏡落としちゃった。」
その一言が聞こえたので、速やかにターゲット変更! また、金縛りにあってはたまったものではない。
次に狙うは夢魔のリリちゃん。
「やー! 先生来ちゃだめー!」
とか言いつつ逃げてるが関係ない。勝負の世界は非情なものさ。
もうすぐで追い付く。捕まえたら、何をしてあげよう。あんな事や、こんな事を………あ……これ『魅了』だ。
気付いて良かった。初日から危うく犯罪者になるとこだ。リリちゃんは諦めて、他を狙う。
「「「先生こっちだよー!」」」
エリル君が余裕な顔で挑発してくる。すぐにでも追いかけたいところだか、『どれ』から狙おう……いやいや無理だろ!
エリル君は計6人に残像分身している。人狼の身体能力ぱねぇ……。
ちなみに、透明人間のトール君は始まった直後から姿が見えない。『完全透過』しやがったな。反則だろ……。
必然的に残りは1人。正直近付くのも怖いのだが、背に腹は代えられない。
逃げる首無騎士のコバタ君にあっさり追い付き、恐る恐るタッチ――
「あぁー、捕まっちゃった。じゃあ、次は僕の鬼だね。先生逃げていいよ! 1〜2〜……」
どうやら、見た目にさえ慣れれば、彼がこのクラスで1番の安息になりそうだ……。
〜おままごと〜
部屋に戻り、今度は子ども達の様子をじっくり見るため好きな遊びをしていいと伝える。
「おままごとしようよ!!」
提案したのはリリちゃんだ。女の子って仕切るの好きだよなぁ。
「リリがママで、コバタ君がパパで〜……。」
テキパキと配役を決めていく。全員決まるとおもちゃの家の中に入って行った。ん? 何故かエリル君だけが、家の外で座ったままじっとしている。あぶれてしまったのだろうか? 心配なので声をかけてみる。
「エリル君もおままごとしてるの?」
「そうだよ!!」
「あ、そうなんだ。何の役?」
「ペットの犬!」
「」
どうやら彼に『狼』としての尊厳は無いようだ。
「じゃあ、お仕事行って来るね。」
コバタ君が家から出て来た。
「あーん、待ってよー。ほらあなた、行って来ますのチューは!?」
「僕、口無いから無理。」
リリちゃんのご両親はとても仲睦まじいようだ。というか、コバタ君。言う通りだが、その断り方はどうなの!?
「ただいまー!」
家を出てすぐコバタ君帰宅。こんなに仕事が早く終わるとは羨ましい限りだ。
「おかえりなさいあなた!」
おまけにあんな可愛い奥さんまで……。
「お風呂でする? ベッドでする? そ、れ、と、も、ここで!?」
「」
前言撤回。あんな肉食な奥さんいらんわ。
「どこでもいいけど、何をするの?」
「んー、わかんない! ママがいっつも言ってるの!」
意味は解って無いようだ……。良かった……のか?
〜お絵描き〜
次はお絵描きの時間にした。おままごとからの流れでお題は『家族』だ。
「先生、できたー!」
1番に持って来たのはリリちゃんだ。どれどれ……青みがかった灰色の人が2人、重なり合って横に寝ている。
「………リリちゃん、これは何をしてるのかな?」
「わかんない! でもいっつもママとパパがしてることなの!」
「そっかー、先生次はお顔が紙いっぱいに描いてる絵が見たいなー。」
「いいよー!」
「えぇー!」
ん? 快く返事をしてくれたリリちゃんは分かるがもう1人は誰だ? 声がした方に振り向くと、コバタ君が立っている。手に持った画用紙には剣を持った立派な首の無い騎士が描かれていた。
「お顔……描かないとダメなの……?」
「いやいや! 君はそれで大丈夫! 見せて見せて! うわー! お父さん剣が使えるの!? カッコいいねー! あっ! 鎧のここは……」
言葉の限りを尽くしてフォローしておいた。
「できたー!」
「僕も……。」
エリル君とトール君が同時に見せに来た。まずはエリル君から。大きな狼が紙いっぱいに描かれている。
「パパはすっごく強いんだよ! この前、海に行った時も海をバァン! って叩いたら、パカッて割れちゃったんだよ! お魚食べ放題だったんだよ!」
「そっかー、すごいねー。」
そろそろツッコミ疲れてきた……。
お次はトール君。持って来た紙は白紙だった。これはもう言われ無くても分かるぞ、うん。
「透明になった、ママとパパだよ。」
やっぱりな。
「上手だねー。じゃあ、次は実体化した時のも描いて欲しいなー。」
というか、君自身にもそろそろ実体化して欲しいのだが……。彼はいまだに、かろうじて全体のカラーリングが分かる程度の薄さだ。
さて、ボチボチ終わりだが、1人だけ1度も持って来ていない子がいる。はた目から見てもすごく熱心に描いてるようだったから、あえて声はかけなかったが、もういいだろう。
「メーサちゃん、見せてもらってもいいかな?」
「う、うん、いいよ……。」
少し照れながらも、紙を渡してくれる。そこには大きなお母さんの顔が上手に描かれていた。たくさんの色を使い、細かいところまでとても丁寧に描いてある。力作だ!
「すごいよ、メーサちゃん! とっても上手!」
「えへへ、ありがとう!」
メーサちゃんも誉められて嬉しいようだ。
「―――――っ!」
金縛りだ。でも待てよ。メーサちゃんはちゃんと眼鏡をしていた。金縛りがかかる筈は……まさか……!
絵のお母さんにはサングラスが無い。同族同士なら『邪眼』の効果は無いのだろうか? なんて考察している場合では無い。絵でも効果があるとか、あのお母さん一体どうなってるんだ!?
〜ランチタイム〜
ここマンドラ園では、お昼とおやつは毎日家から持参する事になっている。種族によっては毒になる食べ物があったりするからだ。当然、おかずやおやつの交換も禁止。毎日お弁当を用意するのは大変だろう……。人間界の保育園に勤めていた時は週1のお弁当でもお母さん方の嘆きを聞いたものだ。
「「「いただきます!」」」
皆で挨拶をして食べ始める。一緒に食べながら子ども達のお弁当を見てみる。魔界のお弁当、どんなものだろう?
エリル君のは半分はお肉だが、残り半分は……ドッグフード……だよな? 本当に『狼』としての君はどこにいるのだろう……。
トール君のは至って普通のサンドイッチ。彼ら透明人間は能力を除けば、最も人に近い種族の1つとの事だ。
メーサちゃんのも普通のお弁当だが、よく見ると冷凍食品が多い気がする。確か、シングルマザーの筈だからあまり時間が無いのかもしれない。
コバタ君のは……何だあれ!? 黒い水晶玉に手をかざしている。あれで腹が満ちるのだろうか?
リリちゃんのは……おぉ! 食材は普通だが、コウモリやドクロが上手く形作られている。いわゆるデコ弁だ。
「リリね、特製ソースも持って来たんだよー!」
そういえばリリちゃんのお父さんは調理関係の仕事だと書類にあった。自家製のソースとかだろうか?
「じゃーん!!」
「」
リリちゃんの出した小瓶には白濁色のドロリとした液体が入っている。いやいや……そんな……まさか……
「これをかけると美味しくなるし、とっても元気になるんだよー!」
匂いがこちらまで漂ってくる。妙に嗅ぎ慣れた匂いだ。やっぱこれ、アレだわ……精○だわ……。
彼女の親御さんには折を見て話をさせてもらおう。
〜お昼寝〜
食事が終わればお昼寝タイムだ。魔物とは言えまだまだ子ども。ゆっくり休んで、体力と魔力の回復をしなければならない。
しかし、子どもの寝顔というのは人も魔物も可愛いもので、見てると仕事の疲れも吹き飛ぶ。まぁ、うちのクラスは、片やそもそも顔が無い、片や半透明と2人程寝顔が見れない訳だが。
寝ている間に事務仕事を進める。昼休みもあまり休め無いのがこの業界のつらいところだ。
「せんせー、おしっこー」
「どうぞー。」
不意に声がかかったので、反射的に返事をしてらから声の主を見てみる。金髪のオカッパ頭のとても可愛らしい子が眠そうに目をこすりながら、部屋から出て行った。……今の誰!?
布団を見ると、4人しか寝ていない。……まさか?
―カラカラ―
ドアが開いてさっきの子が戻って来た。確かめてみよう……
「手は洗った? トール君?」
「洗ったよー。」
寝ぼけて『完全実体化』したらしい……。めっちゃ美少年じゃねーか! もうずっと実体化してたらいいよ……。
再度布団に入り、寝息をたて始めたトール君。
やっぱり子どもの寝顔は癒されるなぁ。
第2話 完
次回予告 第3話『魔王城の魔王様』
社長が初登場します。




