第1話 『魔王城のはじめまして』
初投稿です。生暖かい目で見てやって下さい。
「宇佐 希と申します。本日より魔王城カンパニー託児所 マンドラ園で勤めさせて頂く事になりました。どうぞ宜しくお願い致します!」
そう挨拶したのが3日前。いよいよ今日から新学期がスタート。園児、保護者との初顔合わせの日だ。正直不安で一杯 というより不安しか無いのだが、とにかく一生懸命頑張ってみようと思う。
早速1組目の親子が来たようだ――
1.〜夢魔〜
青みがかった灰色の肌にウェーブのかかった白いロングヘアー 胸元の大きく開いたYシャツに超ミニスカートを着たお母さん。正直たまらないが話す時に目のやり場に困りそうだ。娘さんはピンクのノースリーブTシャツに紺の短パン。シャツが短いのでおへそが出ている。親子揃って妙に露出度が高いのが気になるが……
まぁ、とにかくはじめは挨拶だ!
「おはようございまっんんん!?」
話の途中でいきなり唇で唇を塞がれる。なんだ!? キス!? なんだこの状況は!!? 混乱している間にも徐々に体に力が入らなくなり、意識も朦朧とし始めた。何かわからんがとにかくこのままではマズイ!!
「きゃー! ダメです、お母さん!! その人新しい先生ですよ!」
園長のトリス先生の声が聞こえる。
「えぇ? あら〜そうだったの〜。ごめんなさい、私今日寝坊して朝ご飯抜きだったからつい……。」
「ママずるーい! ねぇ、リリも食べていい!?」
「あんたはパパの料理食べたでしょ!? それにこの人は新しい先生だから、食べちゃダメ!」
それよりこっちをどうにかして欲しいのだが……。やばい、もう意識が……
「あぁ、先生ごめんなさいね。すぐに『戻し』ますから――」
そう言った彼女はもはや立つこともできず座り込んでいた俺に顔を寄せると本日2度目のキスをした。
「先生、先ほどは失礼しました。さっ、あなたも挨拶しなさい。」
「はぁーい!! 夢魔族のリリです! よろしくね!」
元気な声で挨拶しながら俺に抱きついてくる。どうやら、よほど人懐っこい子のようだ。
改めてリリちゃんをよく見てみる。ウェーブのかかった白い髪は年不相応の色気を醸し出し、目鼻立ち整った顔からは将来間違いなく美人になるであろう事が窺える。というか今でも充分ではないか? 汚れを知らない無垢な存在、今しか味わえない背徳感、いやいや……しかし……ふーむ……
「お母さーん。ノゾム先生、完全に『魅了』の餌食になっちゃってますけど……?」
「あら、ほんと! おかしいわねぇ、リリにはまだそこまでの魔力は無い筈だけど……? もしかしたらこの先生ロリ……」
「さっきお母さんの魔力を浴びたせいじゃないですか?」
「あ……」
あらぬ誤解は受けなかったようだが、依然としてリリちゃんが魅力的に見えて仕方がない。誰か俺を止めてくれ……。
2.〜人狼〜
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」
ようやく『魅了』から解放された。
「ノゾム先生大丈夫?」
「だい……じょうぶ……です。」
人間サイズのニワトリの姿をした魔物、コカトリスのトリス先生が心配そうにこっちを見ている。
「リリちゃんに限らず子どもの魔物は魔力は低いけど制御できなかったり、無意識に能力を使ったりするから気をつけた方がいいわ。」
「わかりました……気をつけます……。」
1人目からこれでは先が思いやられる。なにせ後4人も園児が来る予定なのだ……。
2組目の親子は2mはあるかという身長にボディビルダーも真っ青な筋肉なお父さん。息子さんはこげ茶色のボサボサ短髪に赤い半袖Tシャツ、ベージュの短パンだ。なぜか息子さんにだけ犬のような耳とふさふさの尻尾が生えている。
「人狼のエリルです!! よろしくお願いします!!!」
先程のリリちゃん以上に元気な挨拶だ。
「ノゾム先生です。よろしくね!」
こちらも挨拶を返しながら、手を握る。握手だ。む! どうやら肉球はついていないようだ。誠に遺憾である!
「それにしても、エリル君には耳や尻尾があるのにお父さんには無いんですね。」
「おぉ! 我ら人狼は月の満ち欠けに応じて魔力が増減する種族でしてな、こいつはまだ子どもだから月の大きさによって『獣化』部分が増えちまうんですわ!!」
そういえば、昨日は三日月より少し大きい程度だった気がする。肉球ができるのはいつになるのだろう……?
そう思いながらエリル君を見ていると、
――ヒュン! ――
突然大きな風切り音と共に目の前エリル君が消えてしまった。と同時に後ろから、
「見て、見てー!」
と無邪気な声が聞こえる。振り返ると5m程離れた所で虫? らしきものを捕まえたドヤ顔のエリル君が手を振っていた。
「人狼の身体能力は魔界でも屈指だから気を付けて保育してね。」
トリス先生、彼、やんちゃってレベルじゃ無いんですが?
3.〜ゴーゴン〜
3組目の親子がやって来た。お母さんはピンクの髪をポニーテールにしている。大きなサングラスをかけ、いかにもギャルママといった雰囲気だ。対象的に娘さんは長い髪を2本の三つ編みにし、紺色に白の縁取りがされたワンピースを着てオドオドしながら俯いている。
「あー、あんたが新しく来た人間の先生か! 宜しくな! いやー人間なんて本物見るのは初めてだけど、あんま私らと変わらんのな。にーしても……」
喋りまくるお母さん。ん? どうやら、髪に見えたのは無数の蛇だったようだ。
「ほれ、あんたも挨拶しな!」
「あ……あの……」
「声が小さい! それからちゃんと相手の目を見る!」
以外と躾に厳しい感じのお母さんみたいだな。娘さんが挨拶しやすいように屈んで目線を合わせ、じっくり待ってみる――
「あ、あの! ゴーゴン族のメーサです! よろしくお願いします!」
やっと顔を上げてくれた。こちらも挨拶を返そうとするが……
「―――――っ!」
声が出せない。 どころか、屈んだまま指一本動かせない。どうなってる!?
「んん? あっ! あんた『眼鏡』は!?」
「ふぇ? あ……、ポケットに入れたままだった……。」
「バカ! どーすんだよ!? 先生固まっちゃったじゃねーか!」
「ふぇ……ご……ごめんな……さ……」
「まぁまぁ、お母さん落ち着いて。メーサちゃんも大丈夫よ。」
「トリス先生…。いやでも、新しい先生が……!」
「お母さん、メーサちゃんってまだあまり力は強くなかったですよね? でしたらおそらく……」
こんな状態でも意識はあるようで、会話も全部聞こえている。お? 段々動ける気がしてきた。
「ふんっ!」
金縛りが解けた。
「効果時間は3分位みたいですね、お母さん。」
「っすね〜。」
呑気に分析するくらいなら、早よ助けんかい!!
「こ、これでどう?」
メーサちゃんは取り出した丸眼鏡をかけ、もう1度こっちを見ている。それでも多少体は痺れるが、さっきよりは全然マシだ。「大丈夫だよ。」と言っておく。
「トリス先生、お母さんのサングラスって……」
メーサちゃんをお預かりした後、聞いてみる。
「もちろん『石化の邪眼』を封じるものよ。あのお母さん、一族の中でも相当な猛者らしいから、もし直接目を見たら石化を通り越して、一瞬で灰になるわよ。」
冗談めかして言っているがはっきり言って笑えない。この先、命がいくつあっても足りないのではなかろうか……。
4.〜透明人間〜
「ノゾム先生ー! 次の方がいらしたわよ。」
メーサちゃんをお部屋に連れて行った直後、声がかかったので急いで向かう。
母親は金髪のロングヘアーにパンツスーツ姿だ。カッチリした服装の割に表情はとても穏やかに見える。ただ1つ気にかかる事がある……。
「あの、お子さんの姿が見えないんですけど……?」
「え? お母さんの足元にちゃんといるわよ?」
再度目を凝らしてよく見てみる。ん? 何か半透明、というよりは水を混ぜ過ぎた水彩絵の具のような薄ーいものが人の形をしている。まさか……あれか?
「イイイ、透明人間のトールです……。」
「ごめんなさいね、先生。息子はちょっと恥ずかしがり屋なもので。」
いくらシャイボーイとは言え、そんな薄くならんでも….。これじゃあ、顔もよく見えんのだが……。
「でもお母さん、トール君って年の割には能力使うの上手ですよね!」
「へー、そうなんですか?」
「えぇ、『完全実体化』と『完全透過』、それに最近は『部分透過』もできるようになりまして。 えっと、ノゾム先生? もしこの子が『完全透過』をした時は『魔力感知』で見つけて下さい。まだ『魔力透過』はできないので……。それでは宜しくお願いします。」
去って行くお母さんに「お預かりします。」と返事をする。『魔力感知』ねぇ。練習しとかないとなぁ。……生きてる内にできるようになればいいけど……。
5.〜首無騎士〜
『魔力感知』の件に関してはトリス先生に『魔力計』を貸してもらうことになった。便利な物があるもんだ。
さて、残りは1人になった訳だが、今までの子達が割と人に近い姿で内心ホッとした。この分なら案外楽しく働いていけるかもしれない……と油断したのが悪かった。
最後の1組がやって来た。立派な馬に乗り、黒い甲冑姿のお父さん。その前ちょこんと座る小さい甲冑姿のお子さん。これだけならまだ良かったのだか、問題なのは2人とも首より上が無い事だ――最後の最後にすごいの来ちゃったなぁ……。
「首無騎士のコバタです! よろしくお願いします!」
とてもハキハキした良い挨拶だ。どうやら、しっかり者な子みたいだな。
「ノゾム先生! これから息子を宜しくお願いします!」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。」
「しかし、先生も慣れない魔界暮らしは大変でしょう? 困った事があったら、何でも言って下さい! できる限りのお力添えをさせてもらいますから。コバタ! 先生のお話をちゃんと聞いてお利口さんにしているんだぞ! 「はい! 父上!」 先生、うちの子が悪さをしでかすようでしたら、どうぞ遠慮無く叱ってやって下さい。それでは、失礼!」
そう言ってお父さんは去って行き、少し進んだ後振り返って、再度深々とお辞儀をしていた。
「良いお父さんでしょ〜?」
「……ですね。」
魔物も人も見かけで判断してはいけないという事を知りました。
さて、何かやり遂げた感があるが仕事はまだ始まったばかり。まずは今日1日を頑張ろう!
……どうか、明日まで生きていられますように……。
第1話 完
次回予告 第2話『魔王城の子ども達』
ノゾム先生と子ども達がたくさん遊びます。
ノゾム先生→27歳
エリル、リリ→5歳児
コバタ、メーサ→4歳児
トール→3歳児となっています。