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螺旋の星  作者: びんぞこ
であい
8/9

act.3-1

「――っ!!」

 ボクは(たま)らず彼女の腕を振りほどき――って、あれ……!?


 生きて……る。

 どうして?

 頭の中がぐるぐるして何が何だか分からない。


 死んでない。生きてる。


 少しの安堵(あんど)と失望。自分の体、という物をやけにずっしりと感じながら、部屋の中に視線を(めぐ)らせる。

 ボクはどうやら、どこかの建物の一室に寝かされているらしい。

白い天井。窓から射し込む暖かな光。清潔感のある、(あわ)い色の調度品。そして胸のあたりから聞こえる(すこ)やかな寝息。


 ……うん? 寝息……?


 思わず胸元に目を向けると、わりと近くに誰かの顔と腕があってドキリとする。

ベッドに横たわるボク。誰かはその(わき)で椅子に腰掛け、ボクに(おお)(かぶ)さるようにして眠っている。


 (やわ)らかそうな漆黒(しっこく)の髪。そばかす一つ無い白い(ほお)に、長い睫毛(まつげ)がそっと影を落としている。

顔立ちだけなら少女と見紛(みまが)う程だけれど、すんなりと伸びた肩腕(けんわん)は少年の物だ。呼吸に合わせて、背中のモコモコした何かがふるふると(ふる)えるのがちょっと可愛い。

なんて気持ちはその正体を理解した瞬間、痛みに変わる。


 翼だ。髪と同色の、大きな一対(いっつい)の翼。

 あの子じゃないのに。あの子とは全然違うのに。

 彼には一片の非も無いけれど、今は亡き小さな友人を、どうしても連想してしまう。


鼓翼(アーケン)』。

 実際見るのは初めてだ。

 七部族で唯一、天界を知る者達。

 空から世界を見下ろすのって、一体どんな感じなんだろう。

 ボクにもこの少年みたいな翼があったら、そもそもあんな事をしなくたって良かったのに。

 いや……ボクみたいな落ちこぼれ、きっとどこの生まれでも何ひとつ、変わりはしないんだろうな。


 ……じゃなくてさ。

 今ボクが置かれてる状況って、地味に普通じゃないよね……?

 その何ていうか、知らない男の子が(じか)では無いにせよ、自分の胸に身を預けてスヤスヤ寝てるとか、そうそう無いよね?

 ……どうしよう。意識したら、体中から一気に変な汗が()き出てきた。(ぬぐ)いたくても両腕は、掛布と少年の下敷きで動かせないし。


「……あ、あの……!」

 ボクが身を(よじ)りつつ声を掛けると、少年の(まぶた)がそろそろと開く。覚醒(かくせい)しきっていないとろんとした深紅(しんく)双眸(そうぼう)がしばしボクを見つめ。また何事も無かったように瞳を閉じて、寝息をたて始めた。なんで!?


「ちょ……あの、ここはどこなのかな? あと出来たら起きて欲しいんだけど……!」

 ボクが声を上げながらもがいていると、部屋の引き戸が開けられ、見覚えのある人物が中に入ってきた。

 暗褐色の髪と緑の瞳、ぴったりとした動きやすそうな上衣(じょうい)にブカブカズボン。さすがに例の『包丁』は持ち歩いていないようだけれど。

「おっ、気が付いたのか。具合はどうだ?」

 怪力少年が顔を(ほころ)ばせ、ヒョイっとこちらを(のぞ)き込んできた。ボクはきまり悪くなって、つい顔を(そむ)けてしまう。

「……動けない」

「あー……悪いな。こいつ、夜行性なんだ」

 彼は『鼓翼(アーケン)』の少年に歩み寄ると、いとも容易(たやす)く自身の左肩に(かつ)ぎ上げてしまった。「これでいいか?」

「う、うん……ありがと」

 夜行性……って、昼と夜が逆転してるってアレか。それにしたってあの子、荷物みたいな扱いされてるのに、良く寝ていられるなぁ。

 ……って、これ幸いと体を起こして気が付いた。今着てるこのシャツ、ボクのじゃない。両手が隠れてるからって安心してたけど……も、しかし……て。


「…………あ、あの…………?」

 ギギギギギ……ボクの首がぎこちなく回る。


「ああそれ? 俺のだけど――」

 最悪だ。

 ボクは無言で背中から(まくら)をひっ(つか)むと、それを彼の顔めがけ思いっ切りぶん投げた。「――ブフッ!?」()ね返ってきたのをまたキャッチして、今度は片手で振り回し滅多(めった)打ちにする。

「っへ――変態! いい、いくらボクが、子供みたい、だから、って……!!」

「ち、違うって! 確かにそれは俺のだけど着せたのは……ってお前、男じゃねえの!?」

『遊び』の時ですら飄々(ひょうひょう)としていた彼の目が、初めて驚愕(きょうがく)に見開かれた。何それ(ひど)い。


「ボクは……ボクは女だ――!!」

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