act.2-1
【!注意!】少々酷い記述があります。
特に小動物好きさんはご注意&ご容赦下さいませ。
――『扉守』。
真珠色の毛に被われた優美な獣耳と尻尾。
内側から輝くような、黄金色の髪と瞳。
七部族で最も美しく、最も神と近しい者。
父さん母さん、弟妹達や『内』の皆は『そう』生まれてきた。
だけどボクは違う。
ボクだけが違う。
周りの目が怖くて、見えないように、見られないように、ボクは忌々しいその髪で世界を閉ざす。
村外れにある薄暗い物置小屋だけが、ボクの居場所。
ある日、小屋の前に傷付いた小鳥が落ちていたんだ。
ボクが拾い上げて看病すると、小鳥は元気になって、ボクの側へ居着くようになった。
灰色の世界に射す一条の光。
良かった。ボクにも出来る事があった。
「あなた、勇気があるのね」
ある時、小鳥と外に出ていた所を『彼女』に見られた。
「……そんな事、ないよ。ボクは落ちこぼれの出来損ないなんだから」
「……あたしもその鳥の事は知ってたけど……助けなかった。そんな事をしたって、すぐ死んでしまうと思ったから……」
『彼女』は声を震わせ、黄金色の瞳からトパーズの涙を零した。
――それからだ。『彼女』がボクの所によく来るようになったのは。
「あたしはミリシャ。あなた、名前は?」
「……ボクはシュス。ミリシャ――って、ミ……ミリシャ……さ、ま!?」
なんて事だ!! ボクは慌てて平伏し額を地に擦り付けた。
ミリシャ様。
顔はともかく名前だけなら、歩き始めた子供だって知っている。
「……み、神子様とは知らず大変失礼致しました……!!」
「顔を上げなさい。あたしは崇められたくて名乗ったんじゃないわ――ねえシュス。あたしお友達になりたいわ。あなたと」
それから夢のような日々が続いた。
いや、夢だったらどんなに良かっただろう。
ボクと小鳥の歌に合わせてミリシャが舞う。
踝まである彼女の髪が扇のように広がり、薄衣が命を吹き込まれたようにはためく。
ミリシャはボクに、踊る事の楽しさも教えてくれた。体を動かすって、こんなにもワクワクする事だったんだ。
「シュス、あなたとっても上達したわ。きっと元から才能があったのね」
「違うよミリシャ。きみの教え方が上手いんだよ」
二人、額を寄せあって、笑った。
それから少しして――小鳥が、いなくなった。
元から飼っているつもりは無く出入りも好きにさせていたから、いつかこんな日が来るとは思っていた。
だけど。
これは何だろう。
ボクの足元に、布袋が転がっている。
赫い赫い、小さな布袋。
ボクはそれを拾い上げて、恐る恐る中を覗いた。
いる。否――『いた』。
ボクの小さな友達。
羽根を毟られて。
こんなちっぽけな袋に押し込まれて。
踏み潰された。
きみが。
きみが何をしたというんだ。
小枝みたいにか細い足も。
ボクを見上げた愛くるしい首も。
くりくりとした宝石のような瞳も。
もう動かない。二度と動かない。
――酷い事を。なんて酷い事を――!!