act.1-4
「……ガキが、よくも……ッ!!」すんでの所で体を捻って着地したガッシリが、少年を睨みつけギリリと歯噛みする。
両者の距離、およそ五メルト。
「心配すんな、遊びなんだろ? 腹打ちだって」
対する少年はと言えば、呑気に肩を回したりなんかしている。
……うん、確かにきみは引っぱたいただけだ。けどさ、ソレはヤバいと思うよ。
少年の武器をひと言で表すなら、包丁。それも身の丈ほどもある、厚くてゴツくて巨大な包丁だ。そんな物をカバンでも振り回すように片手で扱うだなんて。
あとどうでもいいけど、さっきからおじさんが無言でプルプルしてるんだよね。良く分からないけど、馬車酔いが悪化するからやめて欲しい。
「じゃ、次は俺から行くなー」
屈託無い笑顔で宣言して、少年は身を屈め『包丁』を腰溜めにひと跳びで兄の眼前に迫ると、着地を待たずそれを薙ぎ払う。けれど、こんな分かりやすい攻撃を大人しく食らうほど『爪牙』の民も馬鹿じゃない。ガッシリは危なげもなくそれをひらりとかわし。
「――貰ったぜクソガキィ!!」ガラ空きになった少年の胴へ一直線に爪を突き入れる!!
「あっ……!?」
思わずボクも声が出てしまう――が、それは更に大きな絶叫によってかき消された。ヒョロノッポ同様ガッシリが張り飛ばされ、血に染まった利き手を押さえてのたうち回る。長かった爪は無惨にも剥がれ、それぞれデタラメな方を指していた。
なんて膂力だ。一度振り切った武器を、直後に同じ勢いで振り戻すなんて!
「……あー、悪いなおっさん。良い医者紹介しようか?」
当人もここまでする気は無かったようで、さすがにバツの悪そうな顔をしている。
「……ッテメエ、覚えたからな……!!」
雇い主の馬車を破壊したばかりか自慢の爪まで失ったガッシリは、ヒョロノッポの傍らまで飛びすさるとだらしなく伸びたその身を担ぎ上げ、土を蹴散らし這々の体で退散していった。
残されたのは半壊の馬車と馬、ボクとボクを羽交い絞めにしてるおじさん、そして謎の怪力少年。
…………ええと、こういう時はどうすればいいんだろう。やっぱり月並みにタスケテーとか言うべきなんだろうか。でも今のボクにはそんな資格――
「……素晴らしい!!」
うわビックリした! 全然喋らないから石にでもなったのかと思ってた。
「いやぁ君強いねえ。どうだい、私の用心棒として働く気は無いかい……?」
おじさんはネットリとした声で少年に擦り寄るけれど、ボクをしっかと抱えてる時点で台無しだし、相手だってそこまで愚かじゃない。
「無い。だって俺、これでも仕事中だもん。それに――」少年は何やら言い淀んでから、何事もなかったように続ける。
「ま、いいや。その小さいのを見逃すんだったら、ついでで都までは付き合ってやるけど?」
ああ、初対面なのに気を使ってくれてありがとう。でもいいんだ。
「……そ、それは……!」
おじさんが悲痛な声を上げて頭を振る、気配がする。この人は善人じゃない。行商ついでに人さらいなんかする、悪人。
だけど今回原因を作ったのはボクだ。自業自得、では済まされない。
そうだよね、困っちゃったよね。馬車ズタボロになっちゃったもんね。何でもいいから売ってお金にしなくちゃだよね。本当にどこへ行っても疫病神だ、ボクは。
「……ボクはいいよ」一度口を開いたらもう止まらなかった。
「ボクさ、ずっと同胞のいないどこか遠くへ行きたかったんだ。その為なら売り買いされたって構わない。むしろその方が人の役に立てるってもんだよね? もういいよそれで。ボクなんかどこへでも消えちゃえばいいんだ」
「……そっか、分かった!」
少年はニッコリ笑うと、何の躊躇いも無くボクの脳天に『包丁』を振り下ろした。
初めまして、びんぞこと申します。こちらでは小説初挑戦です。
アカウント自体は大分前から取得していたのですが……(笑)
基本小心者ですので、お手柔らかにどうぞー!←