遭遇
日本が転移してから約2ヶ月。
新大陸の大森林は、異世界(仮)の西側にある巨木の大森林という意味から「異西巨森林」と名付けられ、自衛隊の努力により、少しずつ人が住み始めた異西巨森林にある移住地は、「異西巨森林地域」や「異西町」と呼ばれるようになっていた。
「ふわぁ、いい天気ー!」
中村は、自然の空気をいっぱいに吸い込んで伸びをした。
「さーて、今日はどこで遊ぼうかなー!」
ワクワクとした様子だが、まだ出来て間もない町に娯楽施設などなく、できる遊びは限られていた。
「やっぱり木登りだな!」
そう言ってマイブームの木に登り始める。
田舎生まれ田舎育ちの中村にとって、若干違和感はあるものの人工的な音に溢れた鉄の森にいるよりも開放感があって過ごしやすいのだ。
巨大な木の幹に人が手足をかけれる小さな傷をつけて登る。
「こんなにでっかいと姉ちゃんが昔言ってた木の上の家なんてのも作れそうだな」
まだ小学生の頃に姉と2人で考えた現実不可能な理想の木の上の家と町がふと思い返される。
「ふぉおおお!!!自己最高記録!!」
初めて枝に到着したことで中村は、思わず興奮して叫ぶ。
「お前、また登ってたのか」
「落ちんなよー」
「だだだ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですー!ご心配ありがとうございまーす!
先輩見てー!自己最高!枝まで到達しましたー!
これから命綱にハーネスつけるんで次から安全です!!」
丁度下に居た、自衛隊の先輩達と専門家の先生について来た娘さんが反応してくれたので笑顔で手を振っておく。
「お前は猿か!」
「先輩ヒドイ!!」
そんなたわいない会話をしつつ、巨木にしては随分細いが巨漢のお相撲さん3人くらいは余裕で支えられるだろうぶっとい枝に素早く命綱を結び付け、上を見上げた。
青々とした葉っぱが彩る碧の空に薄っすらと朱色が見えた。
「………花?」
「中村ー!どうしたー?」
「せんぱーい!この木って花咲きますかー?」
「俺が知るかー!」
うーん。アレは花なのか?と首を傾げている下で、どうやら植物学者の娘だった彼女は、近くに居た自衛隊の先輩達に何やら説明していた。
「中村ー!どうやら、その木は、じょーりょくじゅ(常緑樹)っていう、一年中葉っぱだけの木だとー!」
「ありがとうございまーす!」
それならより一層アレは何なんだ?と頭を悩ませてみるが、考えるよりも行動した方が早いと思いつく。
どうせ命綱はつけたのだ。
危なかったら怖いけど飛び降りればいけると。
「よっとっ!」
「まだ登んのかよ」
「なんかあるんで見て来まーす!」
「はぁあああぁぁ!!!???」
なんか下で先輩が言っているが、この1ヶ月で登り方をマスターした中村は、命綱がある事もあり、今まで以上に慣れた様子でスルスルと登っていき、すぐに先輩達の声も聞こえなくなった。
「ふんふんふーん、おっ!」
軽く鼻歌交じりで登る姿は、どれだけ慣れているかを感じさせる。
そして、朱色の何かがよく見えて来た。
「でっかい鳥だ!」
この大陸は、木も動物も日本よりも大きかったが、この鳥は、1ヶ月狩ってきた鳥よりも一回りも二回りも巨大で、人1人くらいなら乗せて飛べそうな大きさである。
「焼き鳥何個ぶんだろう」
『食うな!人風情が!!』
「う、ですよねー。この鳥初めて見るし、検疫してる間に腐りますよね…」
『けんえき?が何かは知らんが、勝手に殺すな!!』
「いや、だってこんな大きくて強そうな鳥、弱ってるうちに殺さないと俺たちが殺されますよー?
ここの生き物凶暴過ぎて俺らのこと餌とか認識してないですし」
『ふふん、まあ、強いからな。よく分かってるな、小僧。
だが、我をあの低脳な魔物と同列に並べるなど言語道断だ!』
「そうなんですか?」
『そうだとも。現にこうやって話もできるだろう』
「確かに…って、あれ!?俺、誰と話してんの!?」
目を見開いて周りを見渡すも、人らしき存在は居ない。
それもそうだろう。
ここは巨木の上で、巨木に木登りするような人は少なく、ましてやここまで登ってこれたのは、中村が初なのだ。
それでもキョロキョロと自分と会話した相手を探す中村の前に何かがぬっと現れる。
『我はずっとここに居る!』
「〜〜〜〜〜!!!????」
突然目の前で喋った鳥に驚いて、木から手が離れ、中村の体は宙に投げ出された。
慌てて手を伸ばすも、もう既に遅く、中村の体は重力に従って落ちる。
(命綱つけててよかったー)
目の前の光景がゆっくりと流れるように見え、離れていく幹を見ながら、頭が冴えていくのが分かる。
本能的な恐怖と焦る気持ちがある反面、大丈夫という確信とこれから来る衝撃に備えて体が固まる。
ーグイッ
だが、衝撃は、思ったよりも早く、軽く済んだ。