政府官邸2
ある程度の対策が立ち、各々部下に指示を出すともう一度会議は始まった。
「さて、現実的な問題への対策は立ったが、まだ非現実的な問題が山積みなのでそちらの話に移りましょうか」
佐藤総理の発言に、各大臣は、大なり小なり頭を抱えた。
「対策を立てるも何もあまりにも情報が少なすぎやしませんか?」
「星の位置が変わり、大陸が消えるなんてどんな予想を立てれば良いのか、皆目見当がつきませんね」
「ここは地球で太平洋のど真ん中に移動した。とかだといいんですが…」
「だが、人工衛星も壊れていない以上、海外との連絡が途絶えて、それはあまりにも楽観的では?」
「では、それ以外に考えられますか?」
「それは…」
「こうやって我々が生きている以上、空気や重力が地球と同じということなのですから、やはり地球ではありませんか?」
少ない情報から憶測を立てるのは容易ではなく、ましてや隣にあった大陸が突然消えるなど、人の考えうる常識を遥かに超えた事態である。
未曾有の事態が連発する近年ではあったが、今までの災害を未曾有の事態と呼ぶのならば、これはもう未曾有という言葉を超越している。
何をどう考え、どう対策を取ればいいのか、己の今までの経験を持っても、世界の歴史の本をひっくり返しても考え付かないのである。
「異世界転移…とか?」
山本寛人経済産業大臣。46歳。
彼の言葉に会議場はシーンと静まり返った。
誰も彼もあえて言わなかった、一番想像したくない予想である。
「あ、いや、息子の買っていた本にそんなのがあったなぁ、と思いまして…」
沈黙に真っ先に耐えられなくなったのは、山本経済産業大臣、本人だった。
あまりにも突拍子もない発言だったかとあわあわと言葉を紡ぐ。
「経済産業大臣。大丈夫。正直、私もちょっと思ってましたから」
佐藤総理の言葉にまたも沈黙が落ちる。
「もしその場、どうなるんでしょう…」
「こ、言葉は通じないのでは?」
「まず、知的生物が存在するのか?」
「SFにもファンタジーにも知的生物は出てくるので、いるのでは?」
「ここは現実ですよ」
「居ないのならば、日本のみで生きていかなければいけませんね」
「いるのならば文化レベルが気になります」
「想像がつかない以上、後手後手に回る覚悟は必要でしょうな」
本日何度目かの沈黙が会議室を支配する。
「はい」
「副総理大臣」
「私達だけでこの問題を解決するのは、とても難しいでしょう」
一度言葉を切った鈴木副総理に、皆、無言の肯定で答える。
「ですが、この国はオタク大国ですよ。
転移する前から多くの転移小説が出ており、多くの読者がついています。
私達だけで想像つかないのならば、国民達に問えばいいのです」
「だが、どうやって?」
「それはーー」
そして、彼は一つの提案をした。