情報整理
ーコンコンコン
「誰だ」
「佐々木です」
「入れ」
「失礼いたします」
日も暮れた頃に吉田の執務室の扉が開いた。
「どうした」
「彼の方との会話の内に出てきた情報をまとめたものをお持ちしました」
「そうか」
ハッキリ言えばテスは情報提供に非協力的で、ほぼすべての質問に「知らん」で答えていたので、正直、吉田は部下の上げてきた情報のまとめたものも期待していなかった。
「なっ!」
だからこそ、その内容にはとても驚かされた。
「彼の方、テスは、どうやらとても中村と山口が気にったようで、私や小林の質問には必要最低限で答えるのに対して、二人の質問には積極的に詳細を話してくれました。
一概には言えませんが、彼の方と同種を発見した場合、その方が気にったものに情報収集させるのが適任かと思われます」
「同種?同種は居ないと言っていたぞ」
「必要最低限の答えがそれだっただけだと思われます。詳しくはレポートに書いております」
必要最低限などとオブラートに包んでいるが、実際は聞き流しながらぞんざいに答えたと言うのが正しいだろう。
レポートの内容といえば、
○名前:テス
・本人は特定の者が勝手に着けた識別名として認識しており、「名前」という概念を持っていなかった。
○年齢:不詳
・年を数えるという概念がなく、本人曰く「番を探しだした頃」とのことで人でいう青年期だと思われる。
○所属:違う種族の群
・テスの種族は托卵する種族の為に今は違う種族の群に身を置いている。
○種族:魔族亜種
・魔族とは知能を持つ魔物の総称で、多くが突然変異により魔族となった亜種。
・純魔族と呼ばれる種族として知能を持つ魔族は、ドラゴンがいる。
○場所:森
・西と北に向かうと森を抜けれるかもしれないが確かめたことはない。
「以下の多くの情報は、テスがドラゴンに聞いたものであるそうです。
残念ながらドラゴンの居場所は不明。
また、ドラゴンによると、この森にはドラゴンとテス以外にもザレイと呼ばれるカタコトで喋るが、テス以上に知能の高い魔族が居るそうです」
「またややこしいな…」
知能を持つ生き物の人権問題は、今一番議論されている問題だった。
知的生物が人間に似た種類なら簡単だが、人間からかけ離れた姿をしていた場合。
いや、姿形がかけ離れているくらいなら良いが、もし人に近い形でもそうでなくても、その知的生物が「食人種」だった場合。
彼らの人権を守ることは「食人」を許すことになる。
後手に回らないために転移後の対応に追われる中、あるかも分からない事案に対して合間の時間を縫って上の人間は、真剣に頭を悩ませていた。
魔族についても色んな案が国民達から上がっていたが、魔族が魔物は突然変異だというのは、その案の中でも厄介な部類であった。
多くの案のように人より魔力の強い、もしくは魔力を持つ人やミノタウロスのような二足歩行の化け物のように種族として識別出来るなら良かったが、突然変異では見ただけで、魔族か魔物かの識別がつかない。
この森の生き物は狂暴であり、雑食であるため、それを見極めようとしている間に殺されてしまう事だろう。
「また、これは彼個人の感覚なのですが、無闇矢鱈に人を傷付ける気は起きなかったそうです」
「…」
「彼にとって人は初めて見る種族で、この先手必勝とばかりの狂暴な動物達が闊歩する森で育った彼が傷付ける気を削がせたというのは、何かしらの意味があるのかも知れません」
「はあ、せっかく知的生物に会えたというのに情報が少なすぎる」
「せめてドラゴンや彼より知的能力の高いテスに出会えれば良かったのですが」
「まあ、無い物ねだりだな」
「ですね」
少ない情報をそれでも本土に居る上司に上げる為に吉田は書類作成を始めた。




