心労
全権大使としてこの異西巨森林にやって来ていた加藤正信は、降りてきたソレを見た瞬間、思わず遠い目をした。
(おいおいおい、話が違うじゃないか!!)
加藤の周りの人々も目を見開いている。
それもそのはず、巨人のターザンを予想していたのに、降りてきたのは、朱色の巨大な鳥。
はじめての知的生物が人外など心の準備が足りていない。
加藤の隣の自衛隊連隊長の吉田幸樹は部下のミスに頭を抱えたくなった。
ーヒュゥゥウウウウウウ
ーグウォン
三つの落下音に三つの紐が激しくたわむ音。
そして、地面から1メートルあるかないかの所に落下した部下に吉田は真っ青になり、加藤も一瞬頭から朱色の巨大な鳥のことが飛んでいった。
「中村ぁああ!!ついさっき紐を短くしろっつっただろが!!」
そして真っ先に正気に戻ったのは中村の直属の先輩小林は、またも中村の胸ぐらを掴み怒鳴り付ける。
「す、すみません!」
「すみませんって何で短くしねぇんだ!」
「わ、忘れてて…」
「死にかけて何で忘れられんだよ!!ついさっきの話だぞ!」
小林の迫力に中村はすっかり萎縮してしまう。
言い返そうにも言い返せない。
「ましてや、山口さんと佐々木さんまで巻き込むんじゃねぇ!!」
そう、先輩達の命まで危険に晒したのだから。
『おい』
その怒声に山口がストップをかけようとしたが、それよりも早く上から声がした。
思わぬ声に皆が上を向く。
『我はここだ』
だが、一足先に降ろされていた朱色の巨大な鳥は、検討違いな所を見上げる人々にもう一度声をかける。
そして、人々の目がに朱色の巨大な鳥に集まる。
『あの不愉快な男はなんだ』
「あ、ええっと、申し訳ございません!!」
頭では人外の知的生物だと理解していたつもりだが、実際に見ると思わず硬直する。
それでも優秀だった加藤は、なんもか言葉を紡ぐことに成功した。
「彼は我が国の自衛隊所属の中村と申します。なにぶん若輩者ゆえに至らない点があったかもしれません。誠に申し訳ございません。ですが、こうして交渉の場に立っていただけたこと感謝いたします」
報告の漏れに命綱の長さのミス。
中村の犯したミスは、下手すれば死に至る危険なミスで罷り間違っても許されたことではないが、やっと会えた知的生物の前で説教して心証を悪くさせるわけにもいかず、吉田はすぐに止めさせた。
そして、加藤達と朱色の巨大な鳥の間にある食い違いに気付いている山口と佐々木は、素早く加藤と吉田に駆け寄る。
『おい』
「へ…?」
『来い』
「はーい」
だが、山口と佐々木が加藤と吉田の元に到着するよりも早く朱色の巨大な鳥が中村を呼び寄せる。
その姿に全員が慄いた。
この世界の生き物は雑食だしパクっていかれるのか!?
直々に文句を言うのか!?
それとも殴られる!?
周りは警戒心もなく駆け寄る中村に青くなるが、そんな状況に気付かない中村は笑顔で駆け寄る。
「どうしましたー?」
『ふん!お前は相も変わらず、我が居ないとダメだな』
そう嘲笑うような声で言いながら、折れていない方の翼で外敵から中村を守るように包み込む。
その姿に驚愕の声が漏れる。
「おい、あれは…」
そこでやっと加藤と吉田の元に辿り着いた山口と佐々木が事情を説明する。
「どうしてかは不明ですが、見ても分かる通りあの知的生物は、中村にとても懐い…いえ、親しみを感じているようです」
その見た目からついつい動物的な扱いをしてしまいそうになるが、相手はこちらと同じ知的生物。
下手な表現をしてこれ以上気分を害されては困る。
「では先程の“不愉快な男”というのは…」
「多分、中村を叱咤した小林にでしょう」
「木の上に居たときも佐々木が親しげに中村としていると不愉快そうにしておりました」
佐々木と山口の報告を聞いて、加藤は思わず空を仰ぐ。
何故よりにもよって彼なんだ。と。
加藤が中村を認識したのは今だが、すでに人外報告をせず、命綱の調節すらせず、へらへらと朱色の巨大な鳥に近づく姿に頼りになる要素は微塵も感じなかった。
他にだって居ただろう!と言いたくなる気持ちを抑え、なるべく警戒心を持たれないように、人好きする笑顔の仮面を付け、加藤は意を決して朱色の巨大な鳥に話しかけた。




