烏野サイド 3
僕は、スマホで今日の更新状況をチェックした。
「16話目掲載…… もう少しで、ナツメ君が本物かどうかが分かるな」
狐火を使えば、その作家が続くかどうか一発で分かる。
狐火のしごきに耐えたやつは、大体残る。
しかし、圧倒的に消えていった新人の方が多かった。
そのせいで、ついたあだ名は、冥界送りの烏野だ。
「編集長ともそれでもめて、結局勢いで辞めちゃったけど…… 甘やかしたってロクなことないもんな」
こんな僕だけど、出版社に勤め始めた頃は、新人を大事に扱っていた。
作家は神様で、作家がいるから僕らも食べていける、そう思っていた。
僕が初めて担当したのは大学生。
ラノベ界の彗星として華々しくデビューを飾った。
「ヨシノリ君、今日は書けそう?」
彗星作家のヨシノリ君の肩を揉みながら、どうにか作品を書いてもらおうとゴマをする。
「だりー」
「そ、そんなこと言わないでおくれよぉ……」
こんな感じのやり取りが3年続いたある日、ヨシノリ君はこういい放った。
「作家飽きた~。 もともと就職希望だったし、辞めるわ」
僕の中で何かがプッツンした。
あははー、あはははー、と言いながら僕は帰宅した。
どの道を通って帰ったかは、全く覚えていない。
その日から、僕は狐火を使い始めた。
恨むなら、このナメた大学生を恨んでくれ。
それから更に、ナツメ君の小説のストックがたまったため、僕は次の手を発動することにした。
駅前で待っていると、何やら色っぽい女性がやって来た。
「おたま~、じゃなくて、おまた~」
彼女の名前は、今泉レモン。
中学の時の同級で、同じ小説クラブのメンバー。
そして現在は、知る人ぞ知る実力派声優だ。
「よう、花子。 久しぶり」
「本名で呼んだら殺すっつったろが!」
僕らは喫茶店に入り、早速本題に入った。
「君のやっているラジオで、この小説を朗読して欲しいんだ」
「小説? 烏野君の紹介する本って面白いんだよね! もし私が気に入ったら、ちょっとスタッフにも押してみてあげる」
こうやって地道に宣伝していけば、必ず実を結ぶハズだ。
彼女もこの小説を気に入ってくれたみたいで、いつもと違う雰囲気の小説だけど、スタッフに聞いてみる、と言ってくれた。
こうして、毎週月曜の深夜に放送している、「今泉レモンの下ネタラジオ」で、魔法大国で成り上がりが朗読されることとなった。