監視
俺は大学生で、通ってる学校が都内にある。
でも今日は、1限目をサボって駅前のカフェにいた。
小説を書くためだ。
俺はとっくにコーヒーを飲み干して、スマホの画面を見ながら頭を抱えていた。
「くっそ…… 何も思い付かねぇ」
さっきから、書いては消してを繰り返している。
書籍化なんて、やっぱ無理だ。
俺の作品がどれくらい面白いかなんて、自分が一番分かってる。
国外に逃げるしかない、なんて考えていると、ブブブ、とテーブルの上のスマホが鳴った。
「烏野さんからのライン…… 更新が遅いから、心配してるのか」
俺は、正直に書けない、と答えた。
すると、すぐに返事がきた。
「書ける環境を整えるだって……?」
数日後、夕方家にある人物がやって来た。
狐火という名前の、切れ長の目をした男で、烏野さんが今回用意した、アドバイザーだそうだ。
「君の職場を用意したから、一緒に行こうか」
その時は、俺は何の疑いもなしに、この男に着いて行った。
到着したのは、木造2階のぼろアパートだった。
「お、お邪魔しまーす」
部屋にあるのは机とパソコンだけ。
突然、狐火さんに背後から声をかけられた。
「早速小説を書いてもらう。 ノルマは10日で10万字だ。 それまで外には一切出さない」
……!
なっ、ふざけんな……
「ちょっ、何言ってるんですか!?」
「いいか? もうテレビでの紹介も決まっているんだ。 こうなった以上、お前はプロだ。 お前の仕事は小説を書くこと。 そして、小説を作家に書かせるのが俺の仕事だ」
狐火は俺の頭をグシャリと掴むと、顔を近づけてきた。
「半日で5000字だ。 それが達成できなきゃ、飯はねぇ。 達成できたら、俺が飯を買ってきてやるし、欲しいものも何でも揃えてやる」
ゾクリ、と怖気が走った。
こんなヤクザみたいな奴の監視の下で、小説を書かなきゃいけないのか?
「学校は、どうするんですか?」
「安心しろ。 もし留年したら、俺らが学費を払ってやる。 お前の親にも、ナツメ君は将来作家になるって話はしてあるからよ」
ドサ、と狐火は腰を下ろした。
「つまらねぇ小説だったらぶっ殺すからな」
さ、最悪だ……