烏野サイド
僕の名は烏野冥。
年は31才で、好きな食べ物はプリン、嫌いな食べ物は羊羹だ。
羊羹を食べるときは、舌に触れないよう、丸飲みするように食べる。
そんな僕だが、大手出版社のライトノベル専門の編集者として働いている。
この部署にいる編集者は、全部で10人。
月一冊をノルマに、みな独自の方法で、有力な書き手を見つけて担当するというスタイルを取っている。
ただ、出版社のカラーというものがあり、内容についてはそこまで逸脱したものには出来ない。
ウチの場合は、比較的若い層をターゲットに絞っているから、分かり易い内容というのが基本だ。
「……てか、早くうん〇出てこいよ」
今トイレで格闘中だが、便秘気味で中々出れない。
便座に座ってウンウン唸っていると、同じ部署の人間がこんな話をしながらトイレに入ってきた。
「今回の大賞どう思う?」
恐らく、毎年我が社で行っている新人賞について話しているのだろう。
大賞は全部で4本出ることになっており、賞を取れば自動的に書籍化も決まる。
「……正直、ビックリするようなタイトルは無かったな。 まぁ、書籍化して元は取れるかな~、くらいの感じよな」
……新人賞は出版社の路線に合わない作品は、どんなに面白くても排除される。
それが選考基準にもなっているからだ。
だから、今まで無かった新しい作品などは、絶対に選ばれることはない。
「まあ、異世界ものを優等生が書きました、的なな」
これに関しては、僕らにも責任がある。
ラノベの大半が異世界ものになってしまったのは、僕ら出版社がそういう作品しか出さないからだ。
当然、それに影響受けた読者の中から書き手が生まれる。
それが悪いとは言わないが、それでは、世の中全ての読み手をビックリさせるような作品は生まれにくい。
「新人も学生とかザラだからな。 ヘタに難しいこと要求すると書けなくなっちまうし。 あと烏野、編集長が呼んでたぜ」
……なっ!?
帰り道、スマホで書き手を探しながら歩いていた。
小説家に〇ろう、というサイトだ。
ランキングに乗るような作品は、やはり異世界ものばかりのため、新規の連載小説から探すことにしている。
「魔法大国で成り上がり。 ブックマーク0か」
新規のトップに来ていたので、試しに読んでみる。
タグに非チート、と書かれていたのが興味を引いた。
「……! これ、面白いぞ」
光る物がある。
そう思った。
それから、しばらく彼の動向を見守ることにした。