プロローグ
俺の名前はナツメ。
年は18だ。
勉強もスポーツもからっきしだけど、一つだけ得意なことがある。
それは、小説を書くことだ。
小説だけは誰にも文句を言わせたことがない。
ある日、小説投稿サイトに載せた作品の感想欄にこんなことが書かれていた。
「あなたの小説を読ませていただきました。 もし良かったら、これを書籍化してみませんか?」
思いもよらない話に、俺は舞い上がった。
でも、なんでこの作品なんだろ……
タイトルは、「魔法大国で成り上がり」
あらすじは、熱血主人公が、異世界で悪党魔法使いを倒して名を上げるストーリーだ。
特徴としては、主人公は魔法が一切使えず、全て気合で相手の攻撃を止める、という点だ。
ちなみにブックマークは0で、13話目以降、中々書く気が起きずに放置していた。
感想の続きを読むと、こう書かれていた。
「直に話がしたいので、住所をお教えください」
いわゆる出版社の編集者がやって来て、書籍化についての話をするのだろうと思い、俺はなんの疑いもなしに自宅の住所を教えてしまった。
「……送信しちまったけど、大丈夫だよな?」
それから数日後、約束をした日に、編集者と思われる男が現れた。
日曜の昼、家でそわそわしながら待っていると、チャイムが鳴った。
俺は慌てて玄関に向かい、扉を開けると、痩せたスーツ姿の男が立っていた。
「始めまして。 烏野冥です。 君がナツメ君?」
「そ、そうです! どうぞ」
俺は本名を教えていた。
烏野さんを居間に通し、老舗で買っておいた羊羹 (母親に頼んだ)と、人生で初めて入れたお茶を出した。
「君の書いている小説が好きでね。 いつも楽しみに読ませてもらっているよ。 で、初めに言っておくと、僕は編集者ではない。 つい最近まで確かに出版社の編集で働いてたけど、違うと思ってやめた」
……え!?
「じゃ、じゃあ、書籍化の話は?」
烏野さんは、出した羊羹をつまむと、一口に食べてこう言った。
「じふぃひゅっぱんだ」
……なんて言った。
「自費出版だ」
テレパシーが通じたのか、烏野さんは改めてそう言った。
「と言っても、僕はお金を持っていない。 君の話に興味がありそうな金持ちに書籍化の費用と宣伝費を出させる。 目標は、出版社の本を出し抜いて、売り上げ一位を目指すことだ」
「い、一位って…… 無理でしょ!」
烏野さんは口元をつり上げ、不敵な表情でこう話始めた。
「例えばチートものとかってあるだろ? 自分と似た境遇の主人公にそういう能力を持たせて叶わない望みを小説内で叶えてもらう。 確かに、路線としてはアリだとは思うし、今はそれが主流になっているけど、僕は逆に、普段しんどい思いをしている主人公が、頑張って耐え抜くことでストーリーを進めていくっていう話の方が、読者の共感を呼ぶって思っている。 実際僕がそうだし」
確かに俺は今までそういうアンチテーゼを唱えて来たけど……
いや、そんなかっこいいものじゃない。
ただ単にチートが嫌いなだけだ。
「書籍化は夢でしたけど…… そんなのプレッシャーだし、無理ですよ!」
「いや、そういう話も面白いって読者に思わせればいい。 とにかく、これからプレゼンに行こう」
こうして、俺は無理やり書籍化するための資金繰りを手伝う羽目になった。
先に別な連載終わらせます