第21話:涙ふけよおっさん パート2
そして、女神様との別れを惜しみつつ……いや、惜しんでは無いな。
アンダーザマウンテンへと、帰還する。
色々と、お土産を持たされた。
そしてその土産の中にこっそりと一階層にある、女神様部屋直通の罠の場所を記した地図も紛れ込んでいた。
まあ、いい……
外に出ると、空が黄色く見えた。
「いや、それ気のせいだから。電気照明のある環境に居る現代人じゃあるまいし」
「いや、電気照明ってのが分からないが俺たちは現代人だが?」
カナタが、またも俺の感慨に突っ込んでくる。
もう慣れた。
慣れるしかない。
「空が黄色いです!」
「ふーん……普通に、青いよ?」
相変わらず、チョコには冷たい。
しかし……チョコか……
もはや、レベルもステータスもヤバいことになってるんだよな。
俺もだが。
ギルドに帰ったら、大変なことになりそうだ。
そして、手元に目をやる。
そこには、女神のレリーフの掘られた瓶。
そう、霊薬女神の涙が。
そうだ……俺は、やったんだ。
成し遂げたんだ。
ビルドのダンジョン、制覇を。
思わず、目頭が熱くなる。
「涙拭きなよ、おっさん」
「……」
涙は引っ込んだよ。
お前のせいで。
ちなみに、カナタも霊薬を貰ってた。
完全制覇されたくなければ、寄越せと強請って。
出来るもんならやってみろとは言わないんだな。
女神様が、大人で助かったよ。
カナタの無礼に対するあれこれも、冗談で付き合ってただけらしい。
俺の脛には釘が刺さったり、ハンマーがぶつかったりしたんだけどな。
まあ、駒かいことを気にしたらだめだな。
そういったことは、考えたら負けだ。
しかし……チョコも、同じようにダンジョン制覇者になったのか。
なんだか、微妙な気分だ……
チラリとチョコを見ると、目が合った彼女が霊薬の入った瓶を見せてきた。
「ジュブナイルさんも、お揃いですね」
……
本当に微妙な気分だ。
不本意でしかない。
冒険者になって20年……地道に努力を培ってきた俺と、つい最近冒険者登録をしてパーティをたらいまわしにされたこいつが……同等とか。
「レベルも82です」
そうか……レベルが上がれば上がるほど、上がりにくくなる。
だから、同じような経験をした俺とチョコのレベル差は、本来ならほぼ無くなってもおかしくないはずだ。
だが、俺のレベルは99だ。
絶妙に100の手前で寸止めされた感はあるが、レベル差を考えると俺の方がかなり負担が大きかったように思える。
「どんだけレベル上げても、微妙なんだもん……だから、82で丁度いいかなって」
カナタが何か言ってるが、気にしない。
狙ってそこまで上げさせたのなら……日数を考えるに、かなりのスパルタだからな。
俺は、もっとひどい目にあったらしい。
どうせなら、100まで手伝ってくれたらいいのに。
「おっさんは、何事もあと一歩って人生っぽいし」
「いまひとつ、足りないって意味か?」
「あははは、知らなーい!」
そう言って、子供っぽく俺から逃げるカナタを見て、溜息がでる。
こいつと出会ってから、一生分の溜息を吐いた気がする。
それから、ギルドに向かう。
「武器屋のおじいちゃんに、顔見せなくていいの?」
「先にギルドに行かないと、先立つものがな……顔見せて、金払わんのはまずいだろう」
「そうだね」
ギルドに行くと、何やら慌ただしい様子だ。
見知った冒険者が、ギルマスに何やら噛みついている。
すげーな……この冒険者ギルドにまさかまだ、あの熊に挑む気概のあるやつがいたとは。
「だから、25階層に居たのを見たつったろ」
「てか、なんで制覇の指名依頼とか、受けさせてんだ! ジュブナイルのおっさんが死んだら、責任取れんのか?」
「というか、捜索隊も出さねーとか! どうなってんだよ!」
ああ、俺のことを心配してくれているのか。
俺も、まだまだ捨てたもんじゃ……
「ハンカチいる?」
「いらねーよ!」
にやにやとした表情で俺を見上げて、ハンカチを差し出してくるカナタを思わず殴りそうになった。
「ジュブナイルさんが!」
「ジュブナイルさんを!」
皆、そんなに俺のことを……
「誰も、私の心配してない」
チョコが横で、涙目になってら。
まあ、経験の差だな。
あとは、人望の差か。
「ハンカチいる?」
「はい……」
そして、カナタからハンカチを受け取って、涙を拭いて……鼻までかむのかよ。
本当にこいつは、女か?
「ありがとう」
「いらない……あげる」
当然だな。
俺がカナタでも、同じこと言うだろう。
そんなのを喜んでもらうのは、フェイクぐらいだ。
「だから、あいつなら大丈夫だっつってんだろうが! お前ら、こんなとこで油打ってないで仕事行け!」
「横暴だ!」
「ギルドの傲慢を許すなー!」
「この、熊、熊、クマー!」
「誰だ、いま三回も熊っつったやつ!」
あっ、ギルマスが切れた。
そして、熊って言ったのはカナタだ。
それこそ、いつの間にかあの輪に加わって、やんややんやと囃し立ててやがった。
「僕だよ!」
「カナタ! 戻ってきたのか? それで、ダンジョンは? いや、ジュブナイルとチョコは?」
「……残念だけど、二人は制覇と引き換えに……」
そう言って、俯くカナタ。
勝手に俺を殺すな。
「いや、普通に生きてるから! 帰って来たぞ!」
「いま、ジュブナイルの声が……」
「姿は見えないのに」
「もしかして、ゴーストに?」
いやいや、お前らの目の前にいるだろう!
辺りをキョロキョロして、わざとらし……
「グォラ、カナタ! お前、またなんかしただろう!」
ニヤニヤしてるカナタが目に入った瞬間に、殴りつけていた。
「いってー!」
そして、ジェフが痛がっていた。
お前も、この集団にいたのか。
そして、相変わらずのカナタだ。
「もう、せっかくドッキリを仕掛けたのに」
カナタが手を振ると、全員の視線が俺の方に向かう。
そしてチラリとチョコを見て、また俺に戻ってきた。
「ジュブナイルさん、無事だったんですね!」
「そこの女の子は、誰ですか?」
「もしかして……」
「もしかしねーから! ほらっ、ちゃんと霊薬を貰って来たぞ!」
俺が高らかに女神の涙を掲げると、割れんばかりの喝采が湧きおこる。
そして、俺は吹き飛ばされそうになった。
知らなかった……集団の雄叫びの音って、物理的に殴りかかってくるんだな。
「わ……私も貰いました」
「おぉぉ……ぉぉ?」
チョコも自慢げに、女神の涙を掲げる。
遠慮がちな喝采が……
チョコが、かなり不満そうだ。
というか、凹んでいるようにも見える。
(なあ、あれ誰だ?)
(あんな娘、いたか?)
(ジュブちゃんの、隠し子?)
知名度が無いって、残酷だよな。
もう少し、人付き合い頑張った方が良かったんじゃないか?
無理そうだが。
あっ、チョコを見捨てたパーティのメンバーが、めっちゃチョコを凝視してるな。
逃した魚はでかかったとかって思ってそうだが、カナタと一緒ならたぶんお前らでも制覇できたと思うぞ。
声を掛けるのをめっちゃ戸惑ってるが、今はやめとけ。
きっと、物凄く上から目線で対応されることになる。
残念女のチョコに。
深い傷跡になるだろうから、後で落ち着いたら声を掛けに来た方がいいと思うぞ。
「まったく、心臓に悪い冗談はやめろ」
「冗談じゃないよ! 本当に残念なことに、二人は制覇と引き換えにおっさんの涙を貰う羽目になったんだから」
「おっさんの涙って、おまっ! 女神の涙だ!」
「うん、女神のおっさんの涙!」
次の瞬間、カナタの周りにスペースが出来る。
そりゃそうだ。
この街にいて、女神の天罰の話を知らないやつはいない。
そして、罰は間違いなく下る。
「あっ、つまづいた」
ほらっ……
不自然にギルドの食堂のおばちゃんがこけて、なぜかお盆に大量に乗ってたナイフやらフォークが真っすぐこっちに向かって飛んでくる。
そして……
「いったー!」
全弾ジェフに命中してた。
よかった、俺じゃなくて。
「だって、もうジュブナイルさんのステータスじゃ、あんなん刺さらないから面白くないじゃん」
二日目に町で普通に女神の天罰を躱せてた時点で、普通じゃないって気付くべきだった。
「ほら、女神様って子供に優しいから」
「だからって、赤の他人に罰を代わりに当てるか!」
とりあえず、ギルマスが報告を聞きたくてウズウズしているのが分かったので、カナタの首根っこを掴んでギルマスの方に。
「詳しい話は、わしの部屋で聞こう」
そして、そのまま連行されてしまった。
疲れてるんだけど?




