第19話:55階層……この世界のダンジョン、最深部にボスいないの?
「どうも、バイトのフェイクでーす」
「ちぃっ、あっけなくやられおって……せめて、そこなガキくらいミンチにするかと思ったのに」
「わーお! 女神様とは思えない物騒な発言が、飛び出してきたでござる」
フェイクの案内で、55階層へ上る階段の扉を開けてもらった。
そして、その階段の先には荘厳な造りの重そうな扉。
そこをさらに抜けると、神秘的な光景が広がっていた。
外と見紛うかのような、花畑。
その中心にある、白い石材を基調とした開放的な神殿。
しかし、フェイクが案内してくれたのは、神殿ではなく花畑の方だった。
そこにある東屋で、一人のごつい男性がお茶を飲んで……女性だな。
服装が、女性のそれだ。
白いローブのようなドレス。
頭には花を模したような、冠。
そして、フェイクが声を掛けた。
その後の続く発言で、女神と聞こえた。
そうか……女神か。
敬ってはいるが、思うところはいくらかある。
殴りたいという思いも。
何故かって?
罰当たりな言動を繰り返すカナタに対する罰の全部を、俺が受けたからだよ!
どうにか怒りを抑えるのに、必死だが大丈夫。
この冒険で、俺はメンタルも鍛えられたからな。
冷静だ……
冷静に殴らせてはいただけませんか? 女神様。
「女神って、おっさんじゃん」
こいつ、また!
本人を前にしても、言いやがった。
「調子に乗るなよ、こぞ……うでは無いな……」
女神が立ち上がってカナタを睨みつける。
が、すぐに首を傾げる。
小僧ではないか……確かに。
「これが、女神様ですか? 石像そっくりです!」
「我が、あのような不細工な石像とそっくりだと? 小娘が……殺すぞ?」
「わーお! 社長、物騒過ぎるでござるよ! 女神様が口にしていくない言葉のオンパレードに、僕ちんドン引きなんですけど?」
迫力こそ凄いが、フェイクのふざけた突っ込みのお陰か緊張感が……正直に言って、緩い。
「とりあえず、ここまで来たんだから踏破の証と、ご褒美くれるんだよね?」
「ふむ……そうだな。まずは、貴様にくれてやろう! 永遠の安眠というなの褒美「あっ、そういの要らないんで。ちゃんとしたの、頂戴?」」
もう、俺は何も気にしない。
ここまでで、カナタが普通じゃないことは知っている。
だから、女神が突然その手に色々なものを司ってそうな装飾過多なハンマーを呼びだしたくらいじゃ驚かないし、それを思いっきり上からカナタに叩きつけても心配しない。
カナタが得意の身代わりの術ではなく、片手で受け止めたことにも……いや、驚くわ。
普通にひくわ。
「きゃあ!」
チョコは驚いているが、俺は声を出すことすらできない。
普通じゃないと思っていたが、ここまでとは……
「チッ……無理と思ったが、そうも簡単に防がれると腹立たしい」
「これ、もらってもいい?」
「駄目に決まっておろう」
すぐにハンマーが、女神の手から消える。
そして、次のターゲットはチョコか。
「くそビッチが! 男どもに囲まれて、わざわざ我の住まうダンジョンに挑んできおったから、階層を飛ばしてやったのにまんまと逃げのびおって」
あれも、お前の……女神様の、仕業だったのか。
「あざとい真似ばかりしおって、そこなファイターに寄生して生き延びた分際で、また男を二人も連れてくるとは! 当てつけか、このくそビッチ!」
「社長がモテないのって、種族の問題だけじゃないと思うでござるよ」
「黙れ、フェイク! お主は、もう少し我を敬え!」
フェイクすげーな。
信仰心の欠片もねぇというか、女神と仲が良すぎじゃね?
「くそビッチとか口にする女神とか、スラスト様くらいしか受け入れてくれないと思うでござる。もう、妥協したらどうっすっか?」
「我は、スマートな男が好きなのじゃ! そこな、ファイターのようにな」
うおっ……鳥肌が……
「ウィンクしただけで、めっちゃ身震いされてるし。流石は、女神」
カナタも煽るな!
というか、このままいったらヘイトが俺に向きそうだから、俺を巻き込むなお前ら。
「くそが! 本当にイースタンってやつらは、神をなんだと思っておるのじゃ!」
ああ、これイースタンの……やつら? やつらって、いま言いました?
「フェイク?」
「社長! シーッ!」
俺がフェイクに声を掛けたら、慌てて女神に口止めしているところだった。
そうか……どうりで、異常な魔道具を大量生産できると思ったわ。
女魔導士にただ同然で配ってるくせに、店が潰れないのはそういうことか。
「経営が思わしくないから、こんなところでバイトしてるんじゃん」
カナタは、いい加減に俺の心の声に反応するのをやめないか?
いや、良いんだけどさ。
「というか、女性に厳しいダンマスなのに、女性のソロ踏破者いたよね?」
おっ、言われてみたら……
何やら、女性冒険者に含むところがありそうな女神様なのに、ソロ踏破を許すとかあるのか?
難易度、爆上げしそうだが。
「ふむ……あの女子は、見どころがある。独りであったし、乙女であったからの」
「そうそう、ソロで乙女だから、僕ちんも色々とと手伝ったでござるよ」
「告白して、振られた分際で」
「社長も似たようなもんじゃん」
「我は告白されて、振る側じゃ」
「スラスト様だけじゃないっすか! 過去の栄光にすがるのって、ちょっと情けないでござるよ」
いや、本当にフェイクすげーわ。
不敬で不遜で、なんでこいつ殺されねーんだ?
罰当てられても、仕方ないだろう。
「部下に対する理不尽な暴力、暴言はパワハラっすよ! すぐに労基に訴えるでござる」
「ああ、そういう……創造神経由の転移? 転生か」
「いま、ベッタベタとか思った? カナタちゃんが、特殊過ぎるんよ。他所の世界に転生したうえで、さらに別の世界に召喚されるとか」
「フェイク、もはや隠す気もなさそうだが……イースタンってのは、そもそも他所の世界から来ているのか?」
フェイクとカナタの会話に、敢えて突っ込みを入れておこう。
それよりも、さっきからチョコがやけに静かだが……
あっ、こいつ!
気が付いたら、この惨状を俺に押し付けて一人で寝てやがる。
「起こしちゃだめだよ。ここまで、ずっと気を張って頑張ってきたんだから」
「おい、カナタ! その条件は、俺にも当てはまるからな?」
「くそがっ、若いってだけでおじゃろう! ただ寝ただけで、気を遣ってもらえるとか……憎い」
「女神様が闇落ちしたでござる」
というか全然話が進まないが、俺は踏破者として認めてもらえないのだろうか?
認めてもらえるのだろうか?
凄くどうでも良い話の応酬に……いや、割と女神様の真実に迫る重要な話し合いのような。
そして、踏破者たちがダンマスの情報の開示を、頑なに拒んで来た理由が分かった。
魔物や魔族、物の怪の類ではなく、アンダーザマウンテンの守り神様だったとは。
しかし、ダンジョンに挑んだものの中には、少なくない死者も出ているというのに。
「フェイクは……人間なのに冒険者が、このダンジョンで死ぬことに思うところはないのか?」
「はっ? あるわけないでござる! ああ、ジュブちゃんは助けるつもりだったよ。知り合いくらいは、なるべく生かして返してるから」
「転移の罠でね」
はあ……嬉しいような、嬉しくないような。
じゃあ、俺が挑めば普通に踏破できたかもしれないのか?
フェイクの接待で?
「ははは、それは無いでござるよ! 身の丈に合わない、事故死の可能性のある階層に入ったら入口への転送の罠を発動させるでござるから」
そういうことか……
突貫で攻略しようとしたパーティが、一定確率で入口への転移の罠を踏んでいた理由ってのは。
まあ、死ぬのは嫌だけど、簡単に踏破させるつもりもないってことだ。
良いんだか、悪いんだか。
ただ、そうじゃない冒険者の死を、見て見ぬふりするのは……
「よく考えてみ、ジュブちゃん? 自分の家で普通に生活してる家に自分より圧倒的に弱くて立場も低い武装した連中が、いきなり入ってきてペットや家畜を殺しまくって家の中を好き勝手る気回って、家探しして物を取ってったらどうする?」
「ぶっ殺すな」
「そういうこと」
いや、でもここダンジョン……じゃ、ないのか?
「ダンジョンだよ? ダンジョンにしたんだよ! 昔は普通の神殿だったんだけどね、ほらっ……色々な人間がいるから」
「面倒な人間の相手は、もう疲れたのじゃ。死を覚悟して、来られるものだけが来られたら良い」
色々とあったんだろうことが、疲れ切った表情の女神を見たら分かるけど。
でも、ちょっとだけモヤっとするのは事実だ。
何故かって?
絶対に殺しにくるような仕掛けが、いっぱいあるからだよ!
「ああ、それはカナタのせいだよ! 敢えて、高難易度ルートばかり選んでたし」
「……てめぇ」
「ん? 無傷でここまで来たんだから、イージーモードだよ?」
無傷でここまで来ただあ?
何度も死に掛けるような目に……いや、実際に何度か死んで無かったか?
「いま、無傷だよね?」
「行程も含めて無傷なら、初めて無傷で来たって言葉は成立するんだよ!」
「屁理屈はやめようね」
「お前だ!」
「おまいう」
カナタのあんまりな言いざまに、思わずフェイクと一緒になって突っ込んでしまった。
あと、女神様……こっそり、チョコに短剣を突き刺そうとするのはやめよう。
こっちが盛り上がってる隙に、居眠りしているチョコの後ろに短剣を持って女神様が移動していた。




