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異世界転生からの異世界召喚~苦労人系魔王の新人冒険者観察~  作者: へたまろ
第3章:ジュブナイルとチョコのダンジョン攻略

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第18話:まさか……??


「どうやら間に合ったみたいだよ?」

「何を言ってるんだお前は」


 思わず突っ込んでしまったが、こいつが間に合ったと言ったんだ。

 間に合ったんだろう。

 何がとはいわない。

 間に合う必要があったのだろう。


「何が間に合ったんですか?」

「ああ、BOSSキャラが間に合ったらしい」


 そう、俺たちがいるのは54階層。

 目の前には55階層に抜けるための最後の難関。

 BOSS部屋が荘厳な扉をもって、待ち構えていた。


 この扉には左側に山の女神様、右側に男神のスラスト様が描かれている。

 両方左を向いている。

 どういうことかというと……そういうことだ。


 そして扉を開けて二人の距離を物理的に広げてやる。

 こうすることで、女神さまの加護にあやかろうという魂胆……って聞いたけど、これ作ったのダンジョンマスターなんだよなー。


 そして先ほどから左の扉に彫られた女神さまのレリーフがジッとこっちを見ている。

 正確にはカナタを。

 その扉を見て、カナタは鼻でフンっと笑っただけ。

 神をもおそれぬこの所業。

 黒髪のイースタンは、神に対する信仰心がかなり薄いらしい。

 黒髪じゃないイースタンも居る。

 けど彼らはイースタンと呼ばれると、顔を顰める。

 そして、黙っていたら分からない。

 俺達と遜色ない見た目をしているから。


 こいつは……黒髪だな。

 だから、クロだ。

 というか、街でのあれこれがこのレリーフにも影響しているのかな?


 もう少しだけ、女神さまへの信仰を厚くしておかないと。


「なにしてるのおじさん? さっさとおっさん同士のキモい扉開いてよ」

「ばっ!」


 カナタが暴言を吐いたとたん、左の扉が吹き飛んできた。

 そして俺にぶち当たる。


「ジュブナイルさん!」

「あー、大丈夫だ。少し黒痣になっただ……だけ?」


 だけ?

 あんな重そうな扉がぶつかったのに。

 流石レベル93……

 物理耐性が振り切ってんな。


「それは、おじさんが被弾しまくったからじゃない?」

「おまっ! お前の指示が甘い……とは言わんが敢えて喰らうように仕向けてたからだろう!」


 そうなのだ。

 途中から俺はやけに魔物の攻撃を受けるようになった。

 こいつの指示ミスかとも思ったが、コンマ数秒後にはチョコのヒールが飛んでくるから。

 予見して当てにいってることは分かった。

 一度指示を無視して避けたら、周囲の空気が一気に下がった。

 そして周りの魔物全部が死に物狂いで俺に襲い掛かってきた。

 そして俺は見た。

 ゾッとするような笑みを浮かべて、感情の伴わない瞳を魔物に向けているカナタを。

 そこから、カナタの指示には出来るだけ従うようにしたけど。

 

 逆にチョコは全く被弾しなくなったかな?

 タンクとアタッカー兼ヒーラーが居たら、大概のことはなんとかなるとカナタが言っていたが。

 アタッカーはなんとなく字面で分かる。

 ヒーラーも分かる。

 タンク?


 変な表情をしていたからだろう。

 カナタが教えてくれた。

 敵の攻撃を受け止める係らしい。

 うん……いやだな。

 敵に殴られる役なんて。

 守備を固めたらダメージは入らない?

 そういう問題じゃない。

 できれば、俺も華やかなアタッカー……それじゃここは制覇できないと言われてしまえば。

 いや、良いんだよ?

 俺もチョコも制覇する気は……


「制覇した記念に、ここまでに食べたものが霞むくらいに美味しいものを用意しよう」

「はい、カナタさん! 私頑張ります!」


 ダメだな。

 チョコはもう使いもんにならん。

 良い奴だったのに。


「俺も、頑張るとするか」


 ……俺もか。


「この扉の向こうには何がいるんですか?」

「さあ、くぐってからのお楽しみかな?」

「確か聞いた話じゃ、ゴーレムが3体いるって言ってたな」


 そう、ボスは途中で戦ったアイアンゴーレムの上位種。

 しかも、火、水、地属性の魔法を使うらしい。

 そして、そのゴーレムを使役する魔導士も。


「ということで、扉も開いたわけだしさっさといこうか」

「はいっ!」

「おうっ!」


 中に入ったとたんに、すぐに帰りたくなった。

 上位種?

 明らかに見た目おかしいよね?

 えらくゴテゴテした強そうでカラフルなゴーレム。

 しかし、一体しかいない。

 チャンスとは……思えない。


「合体こそ、ロボットの華だよな?」

「分かりすぎる」


 そのゴーレムの胸の部分から人の声が。

 やけに響く声だ。

 それに男か女かもわからん不思議な声色。


 それよりも、ゴーレムでかいし強そうだ。


「じゃあ、始めるか……フハハハ! ヨク来タナ愚カ者ドモ! ココガキサマ達ノ墓場トナルノダ!」

「分かりやすい」


 いきなりBOSSっぽいことを言い出したゴーレムにカナタがため息を吐きながら、後ろに下がる。

 下がるのかよ!

 ここでも、俺とチョコで?


「なんのために、おじさんのVITを伸ばしたと思ってるの?」

「なんのためだ?」

「壁になってもらうために決まってんじゃん」


 くそ、こいつ。


「来るよ?」

「うぉっ」


 カナタの声を合図にしたかのように、目の前のゴーレムが俺に突っ込んできた。

 そして俺はそれを手に持った長剣で受け止め……受け止めた?

 うん、足が地面を抉りながら押し込まれたけど、2mも進まないうちに踏みとどまれた。

 フフ。

 ふはは!

 いけちゃう?

 これいけちゃうんじゃね?


「肩に注意して。チョコ、ヒール!」

「肩? うわっ!」

 

 カナタの指示に一瞬戸惑ったが、視線を向けたらゴーレムの肩が開いて風の塊が飛んできた。

 意識を持っていかれた瞬間に、腕で吹き飛ばされる。

 地面を2回ほどバウンドしたところで、ヒールが飛んできて痛みが消えた。

 ただ、ゴーレムとの距離は開いてしまった。

 そして、そのゴーレムだが。


「ソコノ子供ハ念入リニ、オ仕置キスル!」


 カナタに恨みでもあるのか、さっきより勢いのある移動を見せる。

 そして肩を向けて、カナタにつっこ……まないのかよ。


「チョコシールド!」

「ヌゥ! 卑怯ナ!」


 カナタがチョコの影に隠れたら、ゴーレムの肩から風の塊が放たれる。

 勢いを殺すために放ったらしい。

 そんなことも出来るのか。


「女性ヲ盾ニスルトハ、卑怯デゴザル!」


 ゴザルってなんだ?

 変な語尾だ。


「おじさんぼさっとしてないで、攻撃仕掛けないとヘイトが取れないよ?」


 これ殴ってどうにかなるのか?

 どう見ても、カナタ狙いだけど。


「ヌウ、イツノ間ニソコニ移動シタ子供ヨ!」


 カナタの方をチラリと見たら、何か光る球が飛んできた。

 避ける間もなくそれがぶつかったと思ったら、ゴーレムがこっちに向き直る。

 そして、そのセリフ。

 嫌な予感しかしねーわ。


「あれ? なんで、カナタさんがあそこに?」


 チョコの言葉で核心した、あいつ絶対何かしやがった。


 それから約3時間の死闘の末、ついに地面に倒れ込んだ。

 俺が。

 ゴーレム?


「ピーガガッ……ウィーン、ガシャーンガシャーン」


 あちこちから煙を吹いて、変な音を出して座り込んでいる。

 てか、人の声だよな。


「これ、壊れちゃったのかな?」


 ゴーレムのお腹にあった装甲を引っぺがして、中の赤いたまにメイスを叩き込んだチョコがツンツンとつついているが。

 急に動き出したら、どうするつもりだ?


 俺が必死でゴーレムの攻撃を受け続け、チョコが回復と殴打を繰り返した結果。

 装甲をぶちやぶって、引っぺがしてコアと呼ばれるものを叩き割ったわけだが。

 チョコの腕力も並々ならぬ状況。


「魔力を大量に消費させて、一定以上のダメージを入れると活動限界が来るんだよ。でもって、ロボットらしさを出してるんだろうね。あの声は」

「へえ、じゃあ魔力が復活したらまた動き出すんですか?」

「良いから、とっとと次の階層に行くぞ」


 ロボットてのがさっぱり分からんが。

 イースタン風のゴーレムのことかな?

 取り合えず完全に倒したわけじゃないけど、いまのうちに進んだ方が良いと思う。

 嫌な予感しかしない。

 どうにか身体を……カナタがジョバジョバとポーションを掛けてくれたから、軽く起き上がれるようになった。

 身体の状態を確認。

 すこぶる良さそうだ。

 レベルがまた上がったか?


「完全ニ、制御不能」

「おっと?」


 ゴーレムが急に意味のある言葉をしゃべった瞬間に、カナタの目が輝く。

 完全に制御不能ってことは、完全に勝ったってことじゃ。

 いや、良いから先に進もうぜ?


「もう行く『ドクン!』」

「はっ?」


 鼓動音?

 ゴーレムって非生物だよな?

 心臓があるわけでもないし。

 なんか、黒背景に青い炎の幻視が……


「ゴーレム再起動!」

「名前つけたげなよ」


 さらに聞こえてきた言葉に対して、カナタが突っ込んでいる。

 確かに、名前くらいあっても……ネームドのゴーレムとか、どうなんだ?


 そんなことを考えていたら、ゴーレムが動き始める。

 滑らかな動きで立ち上がり……前宙でこっちに迫って……


「うぉいいいっ!」


 もはや、名前とかどうでもいい。

 つか、動きがやばい速い。

 てか、俺の知ってるゴーレムと違いすぎる。 


「ソンナ! 動ケルハズナイ」

「一人二役って寂しくない? あと、セリフワンテンポ遅いし」

(五月蠅い)


 ゴーレムの口から聞こえてきた言葉に、カナタが突っ込むと小さな声で五月蠅いって聞こえた。

 あれ? 今の声、どこかで聞いたような声。


「マサカ「言わせないよ?」」


 次の瞬間、俺の後ろに居たはずのカナタがゴーレムの目の前に居た。

 ゴーレムから目を離したわけじゃないのに、気が付いたらいた。

 やべーな、隠密スキルレベル51。


 そして、腹に手を突っ込んでコアを完全に引き抜いた。

 素手で……

 うん……

 あいつ、やっぱりおかしい。


「おおい! おまっ! 容赦ねー!」

「いやいや、フェイクさんこそ流石にそこまでやったらダメでしょ? どうせ、腹部復元とかやりたかったんじゃないの?」

「こっからが、見せ場だったのに」

「知る人がいないからって、一連の流れの一人芝居とか恥ずかしくない? それと、人間と同じような動きをするゴーレムとか、この世界で勝てる人いるの?」


 コアの後ろには椅子があって、そこにフェイクが座っていた。

 そして、口をアワアワさせながらカナタを指さしている。

 何故フェイクが?

 魔女っ子燃え燃えキュンキュンに居るはずだろう。

 やばい、頭がこんがらがってきた。


「まあ、ばれてしまったなら仕方ないでござる。俺が、ここのダンジョンのラスボスやでー」

「えっと、フェイクさんも倒し「やめろや! そこの2人ならともかく、お前とはやりたくないっつーの!」」


 本当に仲が良いな、この2人。


「なんで、フェイクさんが?」

「はは、びっくりした? バイトだよ」

「バイトの意味が分からない」

「えっと拘束力緩めの従業員ってやつ」

「なんで、そんな「フェイク……色々と、説明してくれるよな?」」

「ジュブちゃん、もしかして激おこ?」

「激おこが何か分からんが、とりあえず殴らせろ!」


 取り合えず、状況を整理しないと。

 何故、ここにこいつがいる?

 というか、ゴーレムの中身?

 ゴーレムって……


「なかなか、良い造りしてるね」

「ゴーレムに乗るって発想、こっちの連中には無いからね。ダンマスと相談して、色々と頑張った」

「確かに、ただ球体関節はちょっと。擬似生体パーツとか作れなかったの?」

「あー、ダンマスドワーフだからさ。そっちはエルフとかの領域かな?」


 カナタとフェイクが盛り上がっているのが妙に腹立つ。

 あと言ってる言葉の意味の半分も分からん。


「とりあえずチョコちゃんもジュブちゃんも踏破おめでとう! 俺っちを倒すか上に居るマスターに認められたら制覇だから」

「僕は?」

「おまっ、なんもしてないだろう! マスタールームで、大体見てたからな?」

「本当に何もしてないとでも?」

「……チッ。カナタモオメデトウ」

「感情こもってないなー」


 なんだか、よく分からんが。

 疲れたがどっと出たことだけは確かだな。


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